仕事がデキる人とデキない人との違いは何か。キーエンス元営業マンのあさひさんは「どれだけ量をこなせるかだ。重要なのは必要な時間をいかに稼ぐかだが、睡眠時間を削って残業を増やすのは逆効果。脳の仕組みを理解することで与えられた時間を最大化できる」という――。

※本稿は、あさひ著『凡人が天才に勝つ最強の営業』(SB新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

■「量」は根性ではなくロジックで生み出す

「量は質を凌駕する」
「質は、圧倒的な量の先にしか存在しない」

営業の世界に身を置く者であれば、多くの人がこの言葉を耳にタコができるほど聞かされてきたことでしょう。新人研修で、上司との面談で、あるいは自己啓発本の中で。

しかし、真面目な営業パーソンはこの言葉を聞くたびに心の中でこう反論しているはずです。

「頭ではわかっている。でも、物理的に時間がないんだ」
「質より量と言うけれど、雑にやって信頼を失うのが怖い」
「理屈では理解しているが、具体的にどうやればいいかがわからないんだ」

その反論はもっともです。時間は万人に平等に、1日24時間しか与えられていません。

睡眠時間を削り、気合や根性で残業を増やして「量」を稼ごうとするのは昭和の時代の遺物であり、持続可能な戦略ではありません。疲労困憊の状態で行う営業活動は判断力を鈍らせ、かえってミスを誘発し、長期的には成果を下げてしまいます。

写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■時間を生み出す“法則”がある

本書でキーエンスが超分業体制によって、事務作業を別部隊が請け負うことで、営業が徹底的に営業業務のみに専念できる環境を作っているとお話ししました。これは組織レベルでの戦略です。

しかし、どれだけ環境が整っていても、個人の時間の使い方が下手であれば、その貴重な時間は底の抜けたバケツのように瞬く間に流出します。

逆に言えば、環境が整っていない中小企業やスタートアップにいても、時間の使い方(物理法則)さえ制すれば、キーエンス並みの生産性を叩き出すことは十分に可能なのです。

お伝えするのは「気合で電話をかけ続けろ」といった精神論ではありません。

限られた時間の中でいかにして脳のリソースを節約し、感情を排して機械のように淡々と、かつ爆発的な行動量を生み出すか――本書では、そのための、極めて具体的で明日から使える6つのハックを伝授しています。本稿では、そのなかの1つを紹介します。

これは私がキーエンス時代に学び、今でもなお実践し続けている行動量を最大化するための「物理学」であり、ゴールへ確実に到達するための「科学」です。

■「スキマ時間の有効活用」は逆効果

量をこなせない人が陥る最大の罠。それは「マルチタスク」です。

あなたの一日を振り返ってみてください。

電話を1本かける。不在だったからメールを送る。ふと「あのお客様への見積もり、まだだっけ?」と思い出して見積書を作り始める。作成中にチャットの通知が来て返信する。そしてまた、「さて、電話するか」とリストを見る……。

写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

一見すると優先順位を柔軟に調整しながら「スキマ時間を有効活用している」ように見えるかもしれません。

しかし断言します。もしあなたがこのスタイルで仕事をしているなら、あなたは自ら生産性をドブに捨てているのと同じです。

なぜなら、人間の脳は構造上マルチタスクができないように作られているからです。

■脳内リソースの無駄遣い

心理学において「スイッチング・コスト」という概念があります。

人間がタスクAからタスクBへと注意を切り替える際、脳は一度思考をリセットし再起動する必要があります。

学会の研究によると、一度切れた集中力を元の深いレベルに戻すには、平均して15〜25分かかると言われています。

さらに「注意残余」という概念も重要です。ワシントン大学のソフィー・リロイ教授の研究によれば、タスクAを中断してタスクBに移ったとしても、脳の一部はまだタスクAのことを考え続けているといいます。

写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

つまり、電話の合間にたった1通のメール返信を挟むだけで、あなたの脳は「電話モード」から「メールモード」へ切り替わり、再び「電話モード」のトップギアに戻るまでに15分のロスを支払わされ、しかも脳の一部はメールに奪われたまま電話をすることになるのです。

これを1日に10回繰り返せば、実質2時間以上の脳内リソースが無駄に浪費されている計算になります。

「忙しいのに仕事が終わらない」「夕方になると泥のように疲れている」。原因の正体はこれです。

■「外出日」と「社内日」とを分離する

キーエンス流は徹底したシングルタスクの連続です。

あさひ『凡人が天才に勝つ最強の営業』(SB新書)

1週間は外出日と社内日に分けられ、外出日は徹底的に訪問(平均8〜10件/日)、社内日は8:30〜17:30は徹底的に電話のみ。TELタイムでした。

TELタイムは全事業部共通で固定されており、原則この時間帯にその他の業務を行うことは許可されません(緊急な顧客対応などを除く)。見積書や提案資料の作成、デモの練習なども、すべて定時以降に行う業務になります。

なぜここまで徹底するのか?

それは、スイッチング・コストの排除です。

電話という行為は、重い巨大なフライホイールを回すようなものです。最初の1、2件は誰でも気が重いものです。「怒られるかもしれない」「留守だったら面倒だな」「断られたら嫌だな」といった感情の摩擦があるからです。

しかし、5件、10件と無心でかけ続けていくうちにドーパミンやエンドルフィンのような脳内麻薬が出て、ゾーンに入ります。

・思考する前に口から出るようになる
・トークのリズムが一定になり、噛まなくなる
・相手の反論に対する切り返しがスムーズになる
・断られることへの恐怖心が麻痺する

トップアスリートが体験するフロー状態に近い感覚です。

■使う「筋肉」がまったく違う

せっかく高速回転し始めたホイールが、このゾーンに入ったタイミングで事務作業などの「静的業務」を挟んでしまえば、一旦止まってしまいます。そしてまたゼロから重いアクセルをふかし直さなければなりません。

思考系業務(見積・資料作成)と行動系業務(TEL)は、使う脳の「筋肉」がまったく違います。前者は論理的思考、後者は反射神経と感情コントロールです。

「混ぜるな危険」。これが生産性の鉄則です。

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あさひ(あさひ)
元キーエンス営業
1991年、兵庫生まれ。慶應義塾大学大学院卒。大学院卒業後、キーエンスに新卒入社。研修時は部内同期でトップクラスの成績(基礎テスト1位、技術テスト3位)を収めるも、配属後は一転して成果が出ず、2年目には最低評価を受け、どん底を経験する。そこからプライドを捨て、電話や質問の一つ一つを徹底的に研究。「凡人がいかにして成果を出すか」という再現性にこだわり抜いた結果、同下期に新商品販売ランキングで全国トップ10に2度入賞。才能に頼らず、泥くさい工夫ではい上がるための営業メソッドを確立。著書に『凡人が天才に勝つ最強の営業』(SB新書)がある。
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(元キーエンス営業 あさひ)