誤情報も武器に セフォラ売上1位「 ソル・デ・ジャネイロ 」の顧客起点戦略

記事のポイントソル・デ・ジャネイロはボディミストなど未開拓の高級ボディケア市場を切り開き、セフォラ最大の売上ブランドとなった。TikTokを活用した誤情報への対応や、香りへの熱狂的支持を製品開発に生かすなど、顧客起点の戦略が成功を後押しした。販路拡大と限定商品戦略を両立させ、競合増加のなかでも革新を続ける姿勢で、今後の成長余地も大きいと見られている。
コスメ小売のセフォラ(Sephora)に初めてソル・デ・ジャネイロ(Sol de Janeiro)の製品が並んだ2016年当時、美容分野においてボディケア製品は人気があるとは言い難かった。依然として、YouTubeで話題になったアイシャドウパレットのようなカラーコスメが全盛で、ボディローション分野はドラッグストアの独壇場だった。しかし8年後、コモリグモとソル・デ・ジャネイロを巡る誤情報の騒動を経て、同製品はセフォラでもっとも売れるブランドとなり、歌手セレーナ・ゴメスのコスメブランドであるレアビューティー(Rare Beauty)を首位の座から引きずり下ろした。セフォラU.S.のマーチャンダイジング担当エグゼクティブバイスプレジデント、キャロリン・ボヤノウスキー氏によれば、「(ソル・デ・ジャネイロの共同創業者、ヒーラ・ヤン氏は)早い段階から、当時まだ高級美容品の市場がなかったボディミストのような分野を開拓したいと考えていた。それは我々にとって、心躍る挑戦だった」という。さらに「ソル・デ・ジャネイロが高級ボディケア市場を確立し、何百万人もの新規顧客を、美容の世界とセフォラにもたらして、過去の記録を破り当社スキンケア部門で最大のブランドになった」と同氏は語った。セフォラで築いた成功とその代償
しかし2015年のソル・デ・ジャネイロ発足から10年、美容業界の様相は一変した。同ブランドが確立に貢献した高級ボディケア市場は、今やその地位を脅かす競合であふれている。その成功はセフォラの貢献なしに語れないが、ソル・デ・ジャネイロは2024年初頭、セフォラ最大の競合店アルタビューティー(Ulta Beauty)にも販路を広げた。トップの座を守り続けるのは、かつて注目株だったころとは異なる戦いだ。販売支援エージェンシーのヘッドカウント(Headkount)創業者、ポーラ・フロイド氏は、「他社がZ世代の攻略法を模索するなか、(ソル・デ・ジャネイロは)いち早く彼らの支持を得ることに成功した」と指摘する。ヘッドカウントとソル・デ・ジャネイロは、2025年5月の新ボディローション製品バダラーダ(Badalada)発売イベントで協業している関係だ。フロイド氏はさらに、「問題はどうやって成功を維持するかだ。セフォラで年間トップの座を守ることは、たとえるなら大リーグのワールドシリーズ連覇にも等しい。いかに勝ち続けるか、それが課題だ」と述べた。香りから始まるプロダクト開発
その答えは顧客の声に耳を傾けることにあると、ソル・デ・ジャネイロは考えている。初期のころ、顧客らは最初の主力製品ブラジリアン・ブンブンクリーム(Brazilian Bum Bum Cream)が持つ、グルマン系の香りを熱狂的に支持した。これがきっかけとなり、同ブランドでは2020年、この香りを単体のフレグランス製品として発売した。ソル・デ・ジャネイロの南北アメリカ・英国・アジア太平洋地域担当プレジデント、アン・タリー氏は、「我々の製品開発はいずれも『顧客の声』から始まる。初期の頃、当社でチェローザ62(Cheirosa 62)と呼ぶオリジナルのブンブンクリームの香りが大変好評だった」と語る。「その素晴らしい香りを製品化したのがボディミストの始まりで、そこからラインアップが拡大していった」。ソル・デ・ジャネイロは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが起きる直前の2020年にフレグランス分野へ進出した。当時のボディスプラッシュ市場は、ヴィクトリアズ・シークレット (Victoria's Secret)やバス&ボディワークス(Bath & Body Works)といったショッピングモールで人気のマス・ブランドが主流だった。調香師ジェローム・エピネット氏は、高級香水ブランドのバイレード (Byredo)との協業で知られる人物だが、同氏の手掛けたソル・デ・ジャネイロの製品は、この市場に高級志向という価値をもたらした。ティーンエイジャーの間で急成長
投資銀行パイパー・サンドラー(Piper Sandler)によるティーンエイジの消費動向に関する調査では、ティーンエイジ女性の選ぶフレグランスブランドのランキングで、ソル・デ・ジャネイロの順位が、2023年の3位から2024年秋の時点で2位に上がった。首位のバス&ボディワークスに次ぎ、マインドシェアは19%だった。年間世帯収入8万3000ドル(約1200万円)以上の高所得層のティーンエイジ女性に限ると、マインドシェアは首位となる23%だった。ソル・デ・ジャネイロのタリー氏によると、情報に通じたセフォラの顧客層におけるブランド認知度は、2022年の25%未満から2025年には75%に上昇したという。ソル・デ・ジャネイロが2020年にセフォラの誕生日特典プログラムへ参加したことや、ジェットセット(Jet Set)のようなトラベルキットの発売などを通じ、セフォラ店内での存在感を高めてきた。そして、あのコモリグモを巡るネット上での騒動もあった。誤情報を逆手に取ったTikTok戦略
2023年、セフォラのサイト内にあるソル・デ・ジャネイロ製品のページは、ボディバター製品デリシア・ドレンチ(Delícia Drench)が、コモリグモを引き寄せるという低評価レビューであふれかえった。だがブランド側はこれを逆手に取り、騒動を話題作りに活用してみせた。具体的には動画投稿サイトTikTokで、セフォラ・スクワッド(セフォラが運営するインフルエンサー契約プログラム)メンバーのハムシャ・タヴァシーラン氏などによる広告投稿として、クモを呼び寄せるとのうわさを否定するコンテンツを配信したのだ。「我々のブランドを顧客に選び続けてもらえるよう、常にワクワクを伝え続ける必要がある。商品選びの際、我々が提供する何かを楽しみにしてもらえるようにしなければならない。同時に、製品に込められた物語を伝えることも重要だ」とタリー氏は語った。@allurebyhamsha Let’s talk about the rumours about the new @Sol de Janeiro delicia drench body butter & cheirosa 59 perfume mist fragrance!! @sephoracanada #soldejaneiro #SephoraSquad #ad ♬ original sound - Hamsha Thavaseelan
ハムシャ・タヴァシーランがデリシア・ドレンチをレビュー
販路拡大とセフォラとの関係維持の両立
長年にわたり、セフォラでの独占販売を続けてきたソル・デ・ジャネイロだが、近年は販路拡大を進めている。2023年には免税品店大手デュフリー(Dufry)、そして2024年にはアルタビューティーにも進出した。タリー氏は販路拡大について、「我々のブランドは非常に大きくなり、販路を限定したままでは顧客の期待に応えられないと感じるほど認知度が高まった」と説明した。2021年にスイスのロクタシングループ(L'OCCITANE Group)に買収されたソル・デ・ジャネイロは、2024年の純売上高が6億8610万ユーロ(約1130億円)に達した。「(アルタビューティーへの進出を)決定した時点で、我々はかなりの規模になっていた。この決断は、まさしく顧客の声が後押しになったものだ」とタリー氏は語る。セフォラの店内でも、ソル・デ・ジャネイロは新たな競合と対峙している。手指消毒剤で知られるタッチランド(Touchland)が、2025年1月にボディ&ヘアミスト市場に参入し、同じくセフォラに販路を置くフラー(Phlur)やエリス・ブルックリン(Ellis Brooklyn)が、それぞれヘビークリーム(Heavy Cream)やバナナミルクシェイク(Banana Milkshake)を発売するなど、グルマン系のボディミスト製品を強化し、ソル・デ・ジャネイロを追っている。「原点回帰」としての新ボディローション
今やボディミストがソル・デ・ジャネイロの主力だが、同社は2025年、原点に回帰している。5月にはポンプ式容器を採用したボディローションとしてボディ・バダラーダ(Body Badalada)を発売した。これは同ブランドにとって初のボディローション形式の製品で、販路はセフォラとソル・デ・ジャネイロの直販に限定されている。タリー氏によると、「我々の商品ラインにはボディローションがなかったため、(当社とセフォラの)双方にとって非常に重要なアイデアだと受け止めた。そこで『セフォラでできる最大のことは何か』と考えたのだ」という。そして同氏は「その答えがセフォラでの世界先行発売だった。どのブランドにもできることではない。セフォラが世界中の店舗を挙げて、この製品を最優先扱いのひとつとし、販売を支援するということだ」と説明した。ボディ・バダラーダのプロモーション動画
