自身が離婚したときも「同居は絶対にない」と思っていた大和田美帆さんでしたが、母・岡江久美子さんが亡くなったことが父に与えた影響が想像以上に大きかったのを目の当たりにし、大きな決断を下します。(全5回中の4回)

【写真】「みんなの記憶に残っている笑顔」母・岡江久美子さんと家族3人での記念写真(全14枚)

母が亡くなって1年経ったころに


── 母・岡江久美子さんが2020年4月にお亡くなりになってから約4年半、今の心境について伺っても大丈夫でしょうか?

大和田さん:母が亡くなったことはもちろん理解しているんですけど、何かのタイミングでふと現れるんじゃないか。「美帆」って名前を呼ばれるんじゃないかっていまだに思うことがあって、本当の意味ではまだ理解していないのかもしれないですね。母のことを話すときも、何かの物語を話しているような不思議な感覚があります。

── ショックは大きかったと思いますが、体調面はいかがですか?

大和田さん:今でも時々ワッと泣くこともありますが、母が強く育ててくれたからか、気持ちが落ちてご飯が食べられなくなるとか、夜眠れないといったことは4年間一度もないんですよ。逆に父は眠れない夜がときどきあるみたいですが。

── お母さまが亡くなって1年後、お父さんの大和田獏さんと「音楽葬」というライブを配信されました。

大和田さん:母が亡くなったときは葬儀もできなかったので、母が亡くなってから数か月後に『はなまるマーケット』の薬丸裕英さんや限られたスタッフさんたちが家に来てくれたんです。ただ、そのときはまだまだたくさんの方にご挨拶できる状況ではなかったので、母が亡くなってから1年後、改めてご挨拶する場を設けました。母のことを大切に思っているご友人に私がインタビューしに行って、自分で編集して動画を作って。また、母が亡くなったときの状況や、いままでこうした思いで日々過ごしてきましたといったことをお話ししました。

お葬式も荼毘に付すのもそうですが、ちゃんと悲しみと向き合うから次に行ける。形式だけじゃなくて、節目って精神的にも大事なことだなと思いました。

── お父さんの生活はいかがでしたか?お母さんが亡くなったとき、父と娘で別で暮らしていたそうですが。

大和田さん:共働きなので、もともと料理はしていたんです。母がいないときは私にご飯を作ってくれたり、朝ごはんもそれぞれが好きなものを作ったり。洗濯もするし、日曜日は家事もしていて、そのあたりは母が鍛えてくれたおかげですね。

ただ、母は父より6歳年下です。まさか、自分より先に逝くとは思っていなかったでしょうし、父は母のことが大好きなんですよ。今は寂しいという気持ちを抱えながらも、舞台やお仕事もあるので、支え合いながら頑張っています。

絶対に同居はないと思っていた

舞台で熱唱する大和田さん

── お母さんがお亡くなりになって1年後にはお父さんと同居されたとか。

大和田さん:母が生きていたら、親と一緒に住もうとは思わなかったですね。母は、私が離婚したときも「あなたが自分で決めて離婚したんだから、こっちに帰ってこないでね」と言われて親を頼らなかったし、自分自身も同居は考えたことはなかったです。母が亡くなったときも、父には父の人生を進んでほしいと思っていたし、父が元気なのに同居して父の面倒を見るのも違うと思ったんですよね。

ただ、友人たちと話をしていると、この先の人生も後悔しないように過ごしたい。父のダメージが想像以上に大きかったので、家族で支え合うときだって思い始めたんですね。私の中では結構大きな決断でしたが、私から父に声を掛けました。

── お父さんの反応はいかがでしたか?

大和田さん:「ありがとう!」って即答していて、父、甘え上手なんですよ(笑)。でも言ってよかったなと思いました。私も娘とふたり暮らしでしたし、3人で一緒に住むようになって、父に娘を見てもらっている間に買い物にも行けたり、娘にとっても頼るべき相手が増えて、家族でうまくバランスが取れている気がします。

── ご飯は一緒に食べますか?

大和田さん:全然…。週1回一緒に食べるかどうかですね。玄関やキッチンはバラバラだし「おはよう」とか1日1回挨拶はしますけど、完全に二世帯です。それでも何かあったらすぐ駆けつけられる距離にはいるので安心はしています。

── これからやっていきたいことはありますか?

大和田さん:役者は今まで通り続けながら、「子どもが笑えば世界が笑うプロジェクト」を立ち上げました。子どもに向けて歌や紙芝居をしています。

── なぜ「子ども」にフォーカスしたのでしょうか? 

大和田さん:元々高校生の頃に、障がい児のキャンプに行ったことがきっかけで子どもが好きなり、20代の頃から施設や学校に行ってコンサートをしていたんです。

その後、2020年4月に母が亡くなり、6月に病院からコンサートの話が来たタイミングで父にある提案をしてみたんです。私たちのように家族を失ったからこそできることがあるんじゃないか。父と私で「ばくみほ」というユニットを組んで、子ども病院や施設に足を運び、歌や紙芝居を届けるのはどうだろうって。父も誰かのために動きたいと言ってくれて、ユニットが結成しました。

── 素敵なユニットですね!

大和田さん:ちなみに「ばくみほ」は「ばく」と「みほ」の間に母の「くみ」も入っているんですよ。これからも私にしかできないことを模索しながら進んでいこうと思っています。

PROFILE 大和田美帆さん

おおわだ・みほ。1983年生まれ。東京都出身。2003年、舞台『PURE LOVE』でデビュー。ミュージカル『阿国』、音楽劇『ガラスの仮面』、『アマデウス』、『ハリーポッターと呪いの子』など多くの舞台で活躍。「チョイス@病気になった時」にMCとして出演中。1児の母。

取材・文/松永怜 写真提供/大和田美帆