疾走シーンでアクシデントも!画像は『室井慎次 敗れざる者』より
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 27年前に放送された連続ドラマ「踊る大捜査線」の第1話から、緒方薫役で出演していた俳優・甲本雅裕。湾岸署の立ち番警官からはじまり、「踊るプロジェクト」12年ぶりの最新映画『室井慎次 敗れざる者』(公開中)では、驚きの姿で再登場した。緒方として帰ってきた甲本が、社会現象を巻き起こした大ヒットコンテンツとの関わり、最新作の出演秘話を語った。(以下、『敗れざる者』のネタバレを一部含みます)

「自分の中では永遠に管理官です!」はアドリブだった

 甲本自身、室井慎次(柳葉敏郎)が主人公の映画が製作されるという噂は聞いていたという。実際に出演の話が来たときは「緒方は勝どき署の総務課長兼捜査資料管理室室長だったのに、どうやって出演するんだろうと思いました。怪我で現場を離れているという設定だったし……」と懸念したという。「踊る」の世界観を描く映画は12年ぶりだが、2018年から2020年にかけてドラマ「警視庁捜査資料管理室」シリーズ(BSフジ)が制作されており、緒方は上記の役職で同作に出演していたのだ。

 「台本をいただいたら(緒方の所属が)捜査一課だったので、僕が一番びっくりしました。何回か台本を見直しました。緒方、どうやってここまで来たんだって(笑)。真面目にやってたんだなってうれしくなりました」と甲本は感慨深げに語る。「亀山(千広)プロデューサーにも『いろいろなところを経て緒方は出世したんだ。それを踏まえてカッコよく頼むよ』と言っていただいたのですが、本を受け取ったときから、室井さんに会えるんだ! という思いしかなかったです。実際に室井さんを前にしたら、僕が出世したとか、室井さんが警察官であろうがなかろうが、そんなのもうどうでもよくなって(笑)。ずっと変わらない関係性ってあるんだと思いました」と力説。「自分の中では永遠に管理官です!」という緒方の元気な台詞は、甲本から出たアドリブだったという。

 連ドラ時代、室井は管理官として湾岸署に臨場しており、緒方はそれを遠くから眺める立ち位置だった。「警察官僚はたくさんいて、室井さんも上と下の板挟みになって大変な思いをしていたんだって、頭ではわかるんです。ですが、所轄にいた僕からしたら、室井さんが頂点。一番上なんです」と述懐。「柳葉さんはすごくあったかい話をしてくださるんです。でも、室井さんになると管理官を崩さない。柳葉さんという人とは別に、室井管理官がいるんです」と素直な心境を明かした。

緒方の疾走シーンでまさかのアクシデント

 新作の撮影現場では、柳葉から「頼むよ。あそこはおまえのシーンなんだから、盛り上げてくれよ」と登場シーンについて声をかけられたという。「盛り上げるってどうしたらいいんだろう、僕ができることって何だろうって考えました。それに、『緒方が室井さんと2人になったら何を話すの!?』って(笑)」と戸惑いを語るも、「ただ、いままで僕は『踊る』でいろいろいなものを崩してきたので、『室井管理官を崩しにかかるのか?』『それは室井さんを超えて柳葉さんが怒らないか?』と考えました。でも、『指名を受けた以上はトライするしかない!』と思ってやりましたが、室井さんは崩れないんです(笑)」

 「僕も緒方も、湾岸署の入り口で敬礼していた頃に戻っていたんだと思います、無意識に」と甲本。『敗れざる者』で緒方は、「踊る大捜査線番外編 湾岸署婦警物語 初夏の交通安全スペシャル」で見せた独特の走りを披露したが、「ちょっと足の筋肉を傷めてしまって、みなさんにご迷惑をおかけしていました」としょげる。「『来年還暦なんだよな……』と思うんですけどね(笑)。室井さんを見たら、止まりませんでした」

 そのシーンで緒方は、ヘリコプターからさっそうと降りてくる。「そこは、スマートにシンプルに、落ち着いてカッコよく降りようと思っていました。自分は捜査一課で、どうこの現場を仕切るのかということでいっぱいいっぱいで、部下に動揺を見せてはいけないだろうし」と気合が入ったが、同時に感慨もあった。「連ドラのときの僕は、次の台本をいただいて初めて『あ、次回も出られるんだ』と思っていました。回を重ねて、役に少しずつ厚みがついてきて、ここの一員なんだ、俺に何ができるんだろうって考えられるようになっていった。それで27年です。そんな緒方が、ヘリですからね」としみじみ。「踊る」では、ヘリコプターは室井の象徴のように使われている。「『俺、ここにいるんだなぁ』って不思議な気持ちになりました」と振り返った。

甲本雅裕から見た、室井慎次&青島俊作の“約束”

 本広克行監督からは、突然「やってください」というオーダーがくるのだという。そして「つまらなかったらダメ。それが一番プレッシャーなんですけど、そういうものを与えていただけたんだと思うと、本当にありがたいです」と感謝を捧げた。

 「踊る」シリーズの軸で、今作でも室井が語っている青島俊作(織田裕二)との“約束”について、甲本はどう感じているのか。「僕は単純に、どんな立場になってもどちらもそれを裏切らない、裏切りたくないとずっと心に持っているんじゃないかと感じています。片隅ではなく、心の中心に。だから、室井さんから青島さんが消えることはないだろうし、青島さんから室井さんが消えることも絶対にない。今回、室井さんは警察官でなくなっていますが、それとは関係なく、その絆というか、信頼関係はずっとつながっていて、裏切らない関係なのかなと思います」と熱心に語る。

 「『踊る』の描いている魂が消えていないから、その魂をちゃんと引っ張ってきたから、ここまでのシリーズになったんじゃないかなと思います。変わらない何かって、きっとあると思うんです」と述懐。そのうえで、「『踊る』はいつも、僕にドキドキとワクワクをくれます。『これから何が起こるんだろう』といい意味で慣れがない。なあなあにならない。何がはじまるのかって、いつも思わせてくれます。今回の新作映画2本も、まさにそんな感じでした」と甲本はうれしそうにアピールしていた。(取材・文:早川あゆみ)

『室井慎次 敗れざる者』全国公開中
『室井慎次 生き続ける者』11月15日(金)全国公開