【インタビュー】元FC東京・中村亮さんが明かす「欧州より米国へのサッカー留学を勧める理由」

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現在アジア最終予選を戦っているサッカー日本代表。その先には、2026年にアメリカ・カナダ・メキシコで共催される北中米W杯がある。

そんな世界的な祭典を控えるアメリカサッカー界の可能性を感じ、留学サポート事業を行ってきたのが、株式会社WithYouの代表を務める中村亮氏だ。

滝川第二高、鹿屋体育大を経て、2004年にFC東京に加入。怪我の影響によりわずか2年でピッチを去った中村氏は、さまざまなキャリアチェンジの末にスポーツ選手のアメリカ留学をサポートする株式会社WithYouを設立し、選手の活躍をサポートしている。

【インタビュー前編】元FC東京の中村亮さんに訊く。2年で引退しアメリカで「サッカー事業」を立ち上げた理由

中村氏がこれまでに行ってきた事業や、留学によって広がるさまざまな可能性についてお話をうかがった。今回はその後編。

日本人選手のパスワークはトップレベル 海外に出れば活躍のチャンスが広がる

――2016年の創業された株式会社の事業を、どのように拡大していったのでしょう?

最初に担当させてもらったのは、英語を話すことに興味がある母校・滝川第二高校のサッカー部員2名でした。僕のプレゼンテーションに興味を持ってくれた2人とじっくり話し合いながらチームを決めると、アメリカの大学でもきちんと結果を出してくれて。

シーズンの終了後には、そのチームの監督から「彼らはベストヒットだ!来季は別のポジションの選手を2名送ってほしい」と連絡があったり、そのライバルチームからも「あいつらが獲得した選手よりも、上手い奴を2人探してきてほしい」と言われるようになったりして、徐々に事業は軌道に乗っていきました。

―――全国大会常連校の選手ですから、きっと卓越した実力の持ち主なんですよね……?

確かに僕が最初に声をかけた2選手は、技術に優れてはいましたが、「日本でもずば抜けて目立っていた」というわけではありませんでした。

でも日本人のプレイスタイルは、世界全体に視野を広げると技術面にかなり偏っているのが特徴で、正確なパスワークに関しては世界のトップレベルに位置しているんです。

2選手の成功は、日本国内では大学のスポーツ推薦枠にはまりにくい高校生であっても、場所を変えれば活躍出来る可能性があることを実感させてくれましたし、僕らがビジネスを進めていく上でも、大きな手応えになりました。

あえてアメリカへのサッカー留学を薦める理由

――中村さんが考えるアメリカにサッカー留学するメリットを聞かせて下さい。

一番の魅力は、充実した施設と多くの人に開かれた奨学金制度だと思います。日本では、ごく一部の人しか奨学金と縁がないイメージが強いと思うのですが、アメリカの大学は学校の予算規模が大きいので、世界中の国々から特待生を取る文化があるんです。

最初は「サッカーをするのに何でアメリカなの?」と言われることは多かったですし、ひどいときには「騙そうとしているんじゃないか?」と思われることもありました。

そんな時には、得意なサッカーで奨学金を受け取りながら、勉学に励むことができることを丁寧に伝えて、その後のキャリアの可能性を伝えるようにしています。

――株式会社WithYouの留学事業のこだわりを聞かせて下さい。

現在はひと学年あたり150名程度の選手をサポートさせていただいておりますが、一番の特徴は「サッカー人生だけを追っていない」ところにあると思います。

もし、サッカー選手として欧州のリーグでプレー出来るのならば、もちろんそちらの方がいいと思うんですけど、必ずしも全員がプロのサッカー選手になれるわけではありません。

僕がJリーガーとして過ごしていた日々を振り返ると、とにかく毎日サッカーばかりで「もう少し視野を広げればよかった……」と引退後に気付かされる部分がたくさんありました。

僕としては、サッカーを軸にしながらも、その後の人生をコーディネートできるような事業を作っていきたいという思いがあります。

――事業を立ち上げて10年ほど経っていますが、留学後の皆さんはどのようなキャリアを歩んでいますか?

プロ選手としてキャリアを歩んでいる選手もいますが、選手としてのキャリアを選ばなかった方々もさまざまなフィールドで英語を生かしながら活躍してくれています。

最近では、世界的に有数の偏差値を誇るカリフォルニア大学バークレー校にサッカー推薦入学後、在学中にドイツでプロ契約を結んで大学をオンラインに切り替えて「プロ選手+名門大学生」の二足の草鞋を継続している選手や、世界トップのハーバード大学で最先端のコンピューターサイエンスを学びながらプロを目指している選手もいます。

他にも、プロの道を選ばなくても、スポーツメーカーや現地の広告代理店に内定をもらったりと、その後の道は多岐に渡ります。慣れない異国の地で過ごした経験や、体育会の人材が英語を磨くことで、就職活動の武器になるものを自然と手に入れていて、さまざまなフィールドで活躍してくれています。

――株式会社WithYouの事業の強みはどこにあるのでしょう?

大学との強いコネクションや、試合分析を元にしたスカウティング力かなと思います。アメリカの大学が行っているサッカーの試合を、10年に渡って欠かさずに見るようにしてきたので、そこで培ったさまざまな情報や知識は誰にも真似ができないと思います。

かなりの時間をかけて成り立たせているビジネスなので、参入障壁が低いように見えて、真似することは難しい事業モデルだという自負もあるんです。

それと最近は、アメリカに日本人選手を送るだけではなく、現地の指導者の皆さんに日本のサッカー文化をより深く理解してもらう活動も積極的に行っているんです。

海外の多くの国はクラブチームの文化なので、「青森山田高校や静岡学園といった高校には、トップレベルの優れた選手たちがいるに技術に優れた選手たちがいる」と話しても、指導者にはあまり信じてもらえなかったりする。

なので最近は、アメリカの監督が来日した時に、国立競技場で行われる高校サッカー選手権の決勝を現地で実際に見てもらったり、日本のサッカー文化を理解してもらう活動にも力を入れているんですよ。

来日した指導者の皆さんは、満員に近い国立競技場で高校サッカーの決勝戦が行われていること自体に大変驚かれるコーチが多いのですが、僕らも決勝の熱狂ぶりを伝えることを毎年楽しみにしているんです。すでにコーチたちから来年1月、2月のトライアウト来日希望も続々と届いていますよ。

スポーツに取り組む学生の「夢を引き寄せる力」を後押し

――次回のW杯はアメリカを含む北中米で開催されますし、この10年でアメリカのサッカー界にもさまざまな変化があったのではないかと思います。

そうですね。2年後には北中米W杯が開催されますし、リオネル・メッシ選手や日本代表に選ばれた吉田麻也選手や山根視来選手なども今はMLSでプレーしている。

さらに言うと、今年のMLSのドラフトでは日本人選手3人が指名されていて、日本人選手の需要も高まりつつある状況なので、きっとアメリカサッカー界への注目は日に日に増していくんじゃないかと思っています。

――今後の事業展望を聞かせて下さい。

就職などの卒業後の進路選択についてはまだまだサポートできるところがあると思いますし、最近は「高校から海外に挑戦したい」という問い合わせも増えてきていて。テニスの錦織圭選手が入学した事で知られるIMGや、バスケットの渡邊雄太選手が通ったセント・トーマス・モア・スクールなど、プロや一流大学を目指すための高校や予備校プログラムの需要も今後は増えていくんじゃないかと思います。

異国の地で過ごした経験は、明日何が起こるかわからない世の中を生き抜く上で役に立つものがあると思いますし、新しいものに遭遇した時の適応能力が磨かれる部分もある。文化や言葉の違う国で身につけた逞しさは、きっと後の人生でもさまざまな好影響を及ぼしてくれるんじゃないかと思います。

――最後になりますが、“チャレンジする人生を歩んだ”現在地への思いを聞かせて下さい。

最近は、サッカー選手だった頃よりも刺激的で、生きているような感覚を味わえているような気がします。自分が成功を掴みにいく喜びもありますが、他の方の気持ちに火を付けて、その挑戦をサポートするのは、それ以上の醍醐味がある。

曲折がありましたけど、自分に合った役割を見つけられてすごく嬉しいですし、現役だった頃よりも今の生活の方が充実していて、楽しさを感じています。

スポーツをやっていた人は、きっと夢を引き寄せる力も凄く強いと思うので、さまざまなものに触れ合って、全てのアスリートが充実したキャリアを歩めるような社会であってほしいと思います。