5月の関東インカレ1部ハーフで3位の白川陽大 photo by 千葉 格/アフロ

11月3日に行なわれる全日本大学駅伝(名古屋・熱田神宮→三重県・伊勢神宮内宮宇治橋前/8区間106.8km)。全国8地区の代表25校と日本学連選抜、東海学連選抜の計27チームによる日本一をかけた熱き戦いは、どのような展開となるのか?

近年、箱根駅伝総合優勝に向けた体制を整えてきた中央大は、全日本が三大駅伝における初戦となる。昨年までチームを支えた主軸が抜けても高い総合力を誇るだけに、藤原正和監督にとっては、ライバルよりも、「駅伝の楽しさ、自信を取り戻すレースになれば」と自分たちに照準を合わせた走りを目指す。

【チームづくりの根底にある「祝祭感」を変わらず追求】

 出雲駅伝のときのことだ。

 もしも、出雲に万全の状態で中央大が出ていたら......。國學院大、駒澤大、青山学院大の「3強」といい勝負を繰り広げていたのではないか? という議論が報道陣の間であった。

 中央大は、前回の箱根駅伝は年末に発生した感染症の影響で13位となり、2025年の箱根駅伝のシード権、そして出雲駅伝の出場権を逃してしまった。しかし、もしも出雲に出ていたなら......と夢想をしてしまうほど、今年の中大はトラックシーズンで充実していた。

 その筆頭は溜池一太(3年)で、藤原正和監督が「溜池はアメリカ合宿に行ってから本当に変わりました」と話すように、5000mで13分28秒29、10000mでは27分52秒38で中大記録をマークし、一躍、大学ではトップクラスの選手へと成長した。

 そして3000m障害に取り組んできた柴田大地(2年)は、日本選手権で2位に入るなど、勝負強さを見せた。

 ただし、中大の特徴はエリートランナーばかりではなく、チーム全体での「盛り上がり」にある。毎年、チームとして自己ベスト更新の積算を行ない、部全体での「祝祭感」を追求している。藤原監督は、こう話す。

「もちろん、駅伝での優勝はチーム全体での目標です。一方で、学生は一人ひとり努力しているわけで、個人の力がチームの力に直結していくチームビルディングというか、中大で陸上をやることの意味を大切にしています」

 藤原監督が取り組んできたことは、自らがそうだったように、日本を代表するランナーを育成しつつ、入部してきた部員たちが納得できる4年間を過ごすことなのだ。

 前回の箱根駅伝の結果を受け、今シーズンは仕切り直しの年となる。吉居大和、キャプテンだった湯浅仁(ともに現・トヨタ自動車)、中野翔太(現・Honda)という大駒が抜けた。この週末に行なわれる全日本大学駅伝が、今季の中大にとって駅伝の初戦となるが、どんな布陣を組んでくるだろうか。

【箱根予選会からのリカバリー具合がカギに】

 出雲駅伝が終わった後、青山学院大の原晋監督が「今年の中大は面白いんじゃないの?」と話すほど、中大の戦力は整っていると見られている。藤原監督自身は、どう感じているのか。10月19日に行なわれた箱根駅伝予選会のあと、監督は全日本に向けてのプランをこう話した。

「去年が4位でしたから、今年はそれ以上、表彰台は目指したいところです。ただ、故障者の復帰と、この予選会からのリカバリーがどれくらい進むか、それを見極めて戦略を練りたいと思います」

 予選会は10月中旬だというのに、東京は真夏日となって、選手たちにとっては過酷なレースとなった。中大は予選会を6位で通過したが、選手に話を聞くと、レース後の2、3日はダメージが残っていたという。今年の全日本は、中大だけではなく、予選会に参加した学校にはそのハンディキャップがある。今年メキメキと頭角を現し、予選会チーム内トップ(総合17位)の白川陽大(3年)、1年生ながらチーム内2位(総合25位)の岡田開成がどれほどリカバリーできているか、藤原監督の見極めによって起用区間が決まってくるだろう(白川は5月の関東インカレでもハーフマラソンを走っており、区間距離の長い7区、8区が予想される)。

 そして気になるのが、予選会を故障で欠場した溜池、柴田の動向だ。箱根予選会の時点で藤原監督は、ふたりの状況をこう説明していた。

「柴田はジョギングを開始しているので、回復の状態としては早いと思います。溜池は回復を見極めながら判断していきたいですね。ただ、結果的に予選会では溜池、柴田のほかにも吉居(駿恭・3年)、浦田(優斗・4年)、故障明けの本間(颯・2年)の5人を温存できたことになるので、全日本では仕掛けていきたいと思っています」

 なかでも、吉居と本間については藤原監督が「かなり状態が上がっています」と話しており、他校のエースと互角の勝負を期待している。このふたりに加え、スピードのある岡田が主導権を争う前半区間に起用されるかもしれない。

「去年は出雲で6位、全日本で4位、箱根がシード権外でしたから、今年の全日本は選手たちがもう一度、駅伝の楽しさ、自信を取り戻すレースになればと思っています」

 不確定要素が払拭されれば、上位でレースを展開できるはず。果たして、戦力が整うのかどうか、中大のレースエントリーを待ちたい。