戦況を見つめる清水・乾貴士【写真:徳原隆元】

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【カメラマンの目】悲願のJ1復帰が接近も…清水がアウェー栃木戦で苦戦

 シーズン開幕を前にした鹿児島キャンプを取材した際に、36歳のベテラン乾貴士が「それしかない」と言っていた目標の達成が、ついに近づいていた。

 それしかないと言い切った目標は、J1の舞台への復帰だ。

 J2リーグ第36節・栃木SC対清水エスパルスの一戦は、アウェーチームの1点リードで最終盤を迎えていた。この試合より開始が1時間早かったリーグ3位のV・ファーレン長崎は、この時点で勝利していたため、清水がJ1昇格を果たすためには勝ち点3の上積みが必要だった。

 しかし、眼前で勝利を争う栃木との試合の得点差はわずか1で、しかも清水は退場者を出し数的不利の状況を強いられていた。

 このとき、後半25分にベンチへと下がった乾は、ピッチに立つ味方選手に向かって声をかけて励まし、そして興奮と不安が交差する緊張を宿した面持ちで戦況を見守っていた。同じく交代でプレーを終えていたカルリーニョス・ジュニオルとルーカス・ブラガの2人のブラジル人も、ピッチの展開を気が気でない様子で見つめていた。

 そして、ついにタイムアップ。歓喜の瞬間を迎える。清水は3シーズンぶりにJ1復帰を果たしたのだった。

 試合は決して楽な展開ではなかった。開始早々に栃木の強烈なミドルシュートが清水のゴールネットを揺らす先制パンチを貰ってしまう。しかし、これはオフサイドの判定で得点は取り消されたのだが、ここから清水は栃木の勢いに飲み込まれ、劣勢を強いられることになる。

 前半の栃木は総合的なチーム力では清水に劣るものの、得点とはならなかったが、豪快な幻のゴールから「この試合、行けるぞ!」と士気が高まり、力強いプレーで対応した結果、互角以上のサッカーを見せた。激しい守備で清水の攻撃を防ぎ、攻撃に転じればボールを受けた選手が素早く相手ゴールを目指していった。そこで、ゴール前の清水の守備網を崩せないと見るとミドルシュートで揺さぶるなど、攻守に渡って小気味良いサッカーを展開したのだった。

低調に終わった前半を乗り越え、試合を勝ち切れた要因は…

 対して清水の前半はその栃木の厳しい守備に遭い、まったくと言っていいほど奮わなかった。栃木の激しいマークを交わすかのように乾、C・ジュニオ、そしてL・ブラガの前線の選手がポジションにこだわらず、それぞれが前線で幅広くプレーしたが、栃木のタイトな守備網を無力化できず前半を無得点で終える。

 しかし、清水は攻めながらも最終局面を崩せない我慢の時間を乗り切り、後半5分に住吉ジェラニレショーンが待望の先制点を奪取する。このゴールで勢いに乗ると、時間の経過とともにJ1昇格の目標が現実へと形作られていったが、試合はすんなりとは終わらない。

 試合終盤に数的不利という試練が待ち構えていた。退場者を出した後半38分からアディショナルタイム8分を合わせた15分間は、清水の選手にとってさぞかし時間の経過が遅く感じられたことだろう。得点を奪われ、J1昇格が水泡に帰すかもしれないというプレッシャーが清水の選手にのしかかる。

 こうした状況をゴール裏からカメラのファインダーを通して見ていると、サッカーというスポーツは、選手たちの勝利を目指す気迫の強さが、勝敗の決定に大きく影響するのだと改めて感じた。

 清水が低調に終わった前半を乗り越え、試合を勝ち切れた要因は、苦しい状況に屈することなく勝利への執着心を持ち続けられた結果だろう。J1昇格という結果と合わせ、勝負強さが発揮されたことは清水の成長を表している。

 ただ、これまで覗かせていた勝負弱さを、この一戦だけの勝利で払拭できたとは、指揮官や選手たちも思っていないだろう。対栃木戦での勝利はチームの逞しさを成長させたが、決して万全にしたわけではない。

 J1の舞台では戦力の優位性も薄れ、さらなる勝負強さが必要となる。試合後、清水のすべての選手が笑顔だったが、そのなかでとびきり喜びを表していたのは乾だった。来シーズンの日本サッカーリーグ最高峰の舞台において、ピッチ内外で清水の先導者となるのは、この経験豊富な背番号33のゲームメーカーであることは間違いない。(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)