小泉進次郎氏は政治家一家に生まれ、38歳という若さでの環境大臣就任や「進次郎構文」と言われる独特の言い回しで注目を集めてきた。ときに世間から大きな批判を浴びる進次郎氏の言動をどう評価すべきか。約20年にわたり進次郎氏を取材してきたジャーナリスト・フジテレビ解説委員の鈴木款氏の著書『新時代への選択 小泉進次郎』(扶桑社)より、一部を紹介する――。
写真=共同通信社
記者会見する自民党の小泉進次郎選対委員長=2024年9月30日日午後、東京・永田町の党本部 - 写真=共同通信社

■気候変動問題は「セクシーであるべき」?

2019年9月11日。第4次安倍第2次改造内閣の組閣が行われ、進次郎は環境大臣に抜擢された。党内では青年局長、農林部会長、厚労部会長といった要職を歴任し、政府では2013年に内閣府大臣政務官兼復興大臣政務官、そして男性としては戦後最年少の閣僚となった。まさに政治家としては順風満帆の人生だ。

しかし、この頃から進次郎に対する世間の風向きは変わっていった。そのはじまりが環境大臣として初の外遊先ニューヨークでの、いわゆる「セクシー発言」へのバッシングだ。

就任後10日で臨んだニューヨークでの国連気候行動サミット。演説した進次郎は、得意の英語で会場の空気を和ませた。

しかし、記者会見中に、同席した国連気候変動サミットの中心人物であったフィゲレス氏の「気候変動の政策議論は楽しく、クールでセクシーでないといけない」といった発言を引用して、「若い世代がカギであり、楽しくクールでセクシーであるべきですね」という発言が、日本のメディアに「セクシー発言」として取り上げられた。

■アメリカ人「なぜ問題になるかわからない」

この「セクシー発言」だが、外交の場のやり取りの中では、敬意を込めて相手の言葉を引用するというのはよくあることだ。しかも「セクシー」という言葉は、日本では一般的に性的な魅力を指すが、英語では物事全般に対して魅力的だという意味で使われている。だからそもそもこの言葉で大騒ぎすること自体がナンセンスなのだ。

実際、この発言が日本で問題視されたとき、私はアメリカ人の友人たちに確認してみたが、誰もが「議論がセクシーであるべきという言い方は一般的で、なぜ日本で問題になるのか意味がわからない」と答えていた。

在米30年の作家でジャーナリストの冷泉彰彦氏は、「セクシー発言」で大騒ぎする日本の状態について、のちにこう語っている。

「責められるのは、そうした文脈を理解しないで表層的な報道をした当時のメディアです。小泉氏の立場としては、国連サミットに参加する際に最も大事な人物と意見交換して、キーワードを共有しただけです。それを知らずに誤解と偏見が今でも拡散しているというのは、実に見苦しい現象だと思います」

■ちぐはぐな答弁とステーキ発言は失態だった

ただし、同じ記者会見で進次郎は失態を演じている。海外の記者から「今後1年で石炭火力発電を日本はどう減らしていくのか」と聞かれた際に、上を向いて考えながら「削減します」とだけ答え、「どうやって?」と聞かれるとしばし答えに窮した後、「政府全体として削減していくと表明している」とちぐはぐな答弁を続けた。

また、「ニューヨークで何が食べたいか」との記者の質問に、進次郎は「やっぱりステーキを食べたいですね」「毎日でも食べたいね」と語って実際にステーキレストランに行った。

しかし、牛が排出するメタンガスが地球温暖化の原因になっていることは気候変動を学んだ誰もが知っている常識であり、「ステーキを食べる」と発言すること自体が気候変動への意識が低い、学んでいないと思われても仕方ない。

この発言を問題視した記者から「環境省のトップとしてどうお考えか」とその発言の真意を問われると、進次郎は「ステーキと気候変動がニュースになるなら、それだけでも日本の中で環境問題を考えるよいきっかけになるなと思いますね」と答え、「好きなものを食べたいときありません?」と逆質問をして「そういうことを聞いているのではなく……」と記者団から失笑を買った。

■本人も環境省も準備不足が否めない

進次郎は環境省のトップとしては明らかに準備不足で国連の会議に臨んだ。また、それは環境省自体もそうだったのかもしれない。

通常、新大臣の就任直後は、各省庁で事務方が綿密なレクチャーを行い、大臣が誤った情報を発信しないよう細心の注意が払われる。もし大臣が会見中に誤った情報を話せば、事務方がメモを入れたり会見直後、記者に再度説明したりして問題とならないようにする。

しかし進次郎の場合、当代きっての人気者で、事務方が押し寄せるメディアへの対応に慣れていなかった。つまり進次郎にお任せ状態になってしまっていた。少なくとも新任の大臣が石炭火力発電の削減案を記者に聞かれて言葉に詰まったなら、ふつう事務方はメモを入れるし、ステーキを食べにいこうとしたら事務方が制止するだろう。

■スター扱いから一転、「袋叩き」へ

ある環境省の担当は、私にこうつぶやいた。

「こんなに環境大臣が注目されて記者さんが集まることなんてこれまでありませんでした。記憶する限り小池百合子さんがクールビズを提唱したとき以来かもしれません……」

とはいえ、このときの進次郎には大臣になった高揚感からか、自身に慢心や隙があったのは間違いない。言ってみれば自分で蒔いた種である。国民的に注目されていた進次郎には多くの記者が同行し、その一挙一動を報道した。だからちょっとした失言も見逃されずに逐次報道され、日本中が知るところとなった。

とくに「セクシー発言」については、本来の意味がまったく報道されずに語感のみが一人歩きしてしまい、瞬く間に進次郎を揶揄・中傷する“キーワード”となった。

これまでスター扱いしていたメディアも手のひら返しをして「叩きつぶす」側に転じた。まさにかつて進次郎自身が語っていた、「良く報じてもらえるときは、叩きつぶされるスタート」どおりの展開だった。

■あふれる思いが「ポエム」になってしまった

この頃から進次郎の発言をとらえて「ポエム」「構文」と揶揄する声や誹謗中傷が、ネット上であふれるようになってきた。

2019年9月、東京電力福島第一原発事故に伴う除染廃棄物を中間貯蔵施設から30年以内に県外に搬出することについて、記者から進んでいない現状と見通しを問われた進次郎は、「これは福島県民の皆さんとの約束だと思っています。その約束は守るためにあるものです。全力を尽くします」と語った。

そして具体的な取り組みについて記者から問われると、「30年後の自分は何歳かなとあの発災直後から考えてきた。だからこそ私は健康でいられれば、30年後の約束を守れるかどうかという節目を、私は見届けることができる可能性のある政治家だと思います。だからこそ果たせる責任もあると思う」と発言した。

本書の第4章で紹介したとおり、福島の復興は進次郎がライフワークとして取り組んできた課題だ。なかでも除染廃棄物の県外搬出は、解決策が容易に見つからない問題で、記者の質問はどんな政治家であっても「これはこうする」と答えられないものだった。通常こうした質問には、普通の政治家であれば「善処しています」などと適当にかわすだろう。

しかし、進次郎はあふれる思いを込めて発言したばかりに、わかりづらい「詩的」な発言になってしまった。実はこれまでも進次郎にはこうした発言がよくあったのだが、人気絶頂の頃は特に意に留められることはなかった。しかし風向きが変わると、こうした発言が「ポエム」「構文」と面白おかしく取り上げられるようになってしまった。

■レジ袋有料化は前任者からの引き継ぎ

さらに進次郎バッシングを加速させたのが「レジ袋有料化」だった。

2018年10月、進次郎の前任の環境大臣である原田義昭氏がレジ袋の有料化義務付けについて発言して議論が始まり、11月には経団連が法律によって全国一律のレジ袋有料化を義務付けるよう意見書を取りまとめた。そして翌2019年6月には原田環境大臣が義務化の方針を発表した。

その後、レジ袋義務化の方針を引き継いだのが進次郎で、いわば前任者の打ち出した政策を加速化するのが進次郎の役割だった。

2020年7月のレジ袋有料化に向けて、進次郎はさまざまな場面でその意義を訴えた。

写真=iStock.com/SpiffyJ
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SpiffyJ

■日本政府として胸を張る政策だったが…

その一つが2019年12月に、環境省と厚労省が入る霞が関の合同庁舎の売店でレジ袋の配布が廃止されたときだ。進次郎と加藤勝信厚労大臣は、揃って庁舎内のコンビニを訪れ、進次郎はマイバッグを持参して買い物をした。

記者に対して進次郎は「業界の景色、世の中の景色を変えうるのではないかと思います」「地球規模の問題に取り組むうえで身近なところから意識を持ってほしい」とその意義を訴えた。

また、その年スペインで行われたCOP25(気候変動枠組み条約第25回締約国会議)でも、進次郎は海洋プラスチックごみ問題に言及した際に、日本の具体的なアクションとして「日本は来年レジ袋を有料化します。環境省ではレジ袋を廃止しました」と世界に向けてアピールした。

しかし、レジ袋有料化とマイバッグについては賛否両論が分かれ、反対派は「単なる値上げ」「効果がわからない」といった意見から、マイバッグに対して「衛生面が心配」「万引きを助長する」といった意見まであった。また、そもそも前述のとおり、この政策は前任の大臣からの申し送り事項であるにもかかわらず、進次郎バッシングには格好の材料として使われた。

■ペットボトルを投げつけられた苦い経験

大臣就任から約1年がたった2020年8月、私は進次郎に単独インタビューを申し込んだ。

この間、進次郎への誹謗中傷はやむことがなかった。一方、インタビューの前月には、日本が石炭火力発電から脱却しないとの批判に応えるかたちで、石炭火力発電輸出プロジェクトについて、「脱炭素化に向けた方針が把握できない場合は原則として今後公的支援はしない」という政策変更を実現していた。

バッシングについて聞くと進次郎は、「まあ、そういうモードになると、マスコミは止まらないね」と苦笑した。振り返れば2009年の初出馬の際、進次郎には世襲批判が浴びせられ、選挙期間中「横須賀から出ていけ」と罵倒され、足を踏まれ、ペットボトルを投げつけられた。

地元、横須賀市の盆踊り会場であいさつをする小泉進次郎氏(写真=R2d2ki/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

■若い人の声を取り入れ「気候危機」に

進次郎は「あのときに似ているなあと思いましたよ。そのときはしょうがないと思って、淡々とやっていくしかないと思っていたから。でも面白いのは、人って叩き続けると飽きるんですよ」と語った。そして「まあ、相当叩かれましたからね。でも批判が収まるのを待っていたんじゃなくて、戦い続けていましたよ」と続けた。

環境大臣に就任してから1年、進次郎はさまざまな改革を行っていた。環境省では2020年に初めて「環境白書」で「気候危機」という言葉を使った。「気候変動」ではなく「気候危機」とした意図を進次郎に聞くと、「僕が大臣のうちに、若い人たちの声をできる限り取り入れたいと思っていた」と答えた。

「継続的に若い人たちの団体とも意見交換をしているなかで、気候危機宣言をしてほしいと言われたんです。そして閣議決定する『環境白書』をきっかけに気候危機宣言をしようと決めたのですが、若い人たちの声を無にしないという想いからですね」

■「気候変動への取り組みは前より進んでいる」

世界では若い世代を中心に環境への意識が高まっている。進次郎はこう続けた。

「世界各国を見ていると気候変動アクションをリードし、政府に対して訴えているのは、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんを代表とする若い世代です。ただ日本の中では、比較的その動きが弱い。それは気候変動に限りませんが、若い人たちは自分たちが声を上げても、政治が本当に聞いてかたちにしてくれるのか、すごく疑問に思っているんです。だから僕は、それはちゃんと政治に届くことを見せたかったんですね」

ただ、環境省が独自に気候危機宣言をすることに対しては、省内外から反対する声もあったという。

鈴木款『新時代への選択 小泉進次郎』(扶桑社)

「すんなりいかなかったですね。羽交い締めとはいかないまでも、片手で押さえるくらいはありました。省内にもこの影響を気にするところがあって。ただ僕は『そこはまったく気にするな』と言いました。環境省が気候危機宣言をするのに、何を憚る必要があるのかと。僕が求めているのは、ほかの省にやってくれということではなくて自前でやるのだから」

また、日本企業の気候変動への取り組みについて聞くと、「間違いなく前より進んでいると思います」と語った。

「かつて経済界には、環境省を『経済や雇用を気にせずに、環境のことばかり言っている環境至上主義』とか、『あいつらには経済や雇用がわからん』という認識があったかもしれません。しかし経団連はまるで『こちらもやっているんだから、環境省はもっと頑張れ』というふうな、前向きな関係性に変わったと思いました。この流れをしっかり加速させないといけないなと思います」

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鈴木 款(すずき・まこと)
ジャーナリスト・フジテレビ解説委員
北海道函館市生まれ。神奈川県立小田原高校、早稲田大学政治経済学部卒。農林中央金庫を経て、1992年フジテレビに入社。政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現在解説委員。教育、人権問題をライフワークとして取材。FNNプライムオンライン、教育新聞、東洋経済オンライン他で執筆中。2022年、第4回ソーシャルジャーナリスト賞受賞。著書に『小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉』(扶桑社新書)、『日本のパラリンピックを創った男 中村裕』(講談社)、『日経電子版の読みかた』(プレジデント社)、共著『世界標準の英語の学び方』(学陽書房)、編書『日本人なら知っておきたい 2020教育改革のキモ』(扶桑社)。大学でメディアリテラシー、ジャーナリズムの講義を行う。映倫の次世代への映画推薦委員。はこだて観光大使。趣味はマラソン。2017年にサハラ砂漠マラソン(全長250キロ)を走破。2020年早稲田大学院修了。
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(ジャーナリスト・フジテレビ解説委員 鈴木 款)