知らないとケガをする…ランナーがこぞって履く「厚底シューズ」の正しい《走り方》と《基礎》を専門家が解説
いま、多くの市民ランナーが履いているのが“厚底シューズ”。履くだけで気持ちよくスピードアップできる感覚があり、実際、市民ランナーの間にもマラソンのタイム高速化の波を巻き起こしている。
けれど、「ほとんどのランナーが、そのメリットを使い切れていません」というのがプロ・ランニングコーチであり、陸上競技解説者としてもおなじみの金哲彦さん。
厚底シューズならではの反発力を使いこなすために、いまあらためて見直すべきなのはじつは“走り方の基礎”だという。厚底シューズからの恩恵を最大限に受け取るための走り方とは? 『厚底シューズ時代の 新・体幹ランニング』からの抜粋・再編集によりお届けする。
厚底シューズの着地はどうなる?
「ランニングの際、着地はどこでするべきか?」という議論がよく交わされます。
速く走るためにはフォアフット(前足部)であるべき、という声も多く聞かれますが、結論から言うと、厚底シューズでの着地時の足元を安定させるためには、足裏全体で真上から踏み込むミッドフット着地が望ましいでしょう。
足裏全体で真上から踏み込み、ソールを圧縮し、内蔵するカーボンプレートに推進エネルギーを貯めてしならせることで、厚底シューズならではの高い反発力を推進力へとつなげることができるからです。
厚底シューズは上り坂に適していないとよく言われます。それは適していないというより、上り坂でまず接地するのは前足部のため、カーボンプレートの反発力の恩恵を最大限には受けにくいのです。
厚底時代に合う走り方とは?
ただし、着地について議論する以前に見直したい走りの“基礎”ともいうべきポイントがあります。厚底シューズが持つ反発力と推進力の恩恵を最大限に受けられる走り方。これこそ私が提唱してきた「体幹ランニング」です。ヒトという生物の動きのメカニズムに即した、マラソンの基本の走り方ともいうべきものです。
17年前、私が『体幹ランニング』という本で提案したこの走り方は、ランナーの間で随分浸透してきたと自負していますが、ここであらためておさらいしてみましょう。
体幹ランニングで走り始めにまず動かすのは、肩甲骨。肩甲骨は両腕の付け根であり、ひじを引くように腕を振ると動き始めます。
肩甲骨が動くと、その反動で骨盤が動きます。なぜなら、身体の大黒柱である背骨を介して肩甲骨と骨盤は連動するようになっているから。
背すじを伸ばして骨盤が正しく前傾していると、前方へ伸びた足はお腹(重心)の真下で着地します。着地時には体重の4〜5倍の衝撃があり、それを体幹で受け止めて、前方への推進力に変えることにより、無駄なくスムーズに走ることができるのです。
脚だけで走るのではなく、このように肩甲骨→骨盤→お腹(重心)の動きがスムーズに連動しているのが、体幹ランニングです。
厚底シューズ時代こそ体幹ランニング
正しい体幹ランニングを行うことで、重心の真下で着地し、足腰と体幹の大きな筋肉でその衝撃を受け止め、推進力へと変えることができます。
厚底時代になり、シューズが着地衝撃を推進エネルギーに変えてくれるようになったことで、肩甲骨→骨盤→お腹(重心)という一連の流れがより大事になってきたわけです。
この一連の流れをスムーズに行って走れると、厚底シューズでの着地の瞬間に、地面からの大きな反作用(地面反力)が加わっても、それをブレなくコントロールできます。結果、故障を予防しながら、厚底シューズの反発力と推進力を最大限に生かした走りができるのです。これこそ、厚底シューズ時代にこそ体幹ランニングが必要な理由です。
ただ、市民ランナーの走りを見ていると、この体幹を使った走り方がきちんとできているランナーも、じつはまだそう多くはないのが現状です。そこでまずは、体幹を意識しやすくするためのエクササイズのひとつをご紹介しましょう。
体幹を使って走る大きなポイントは、肩甲骨から腕を動かすこと。この「ひじ回し」で、肩甲骨を動かす感覚をつかみましょう。肩甲骨の動きに合わせ、背骨を介して骨盤がシンクロして動き出し、全身を使ったランニングができるようになります。
また、ランニング前に、体幹にしっかりスイッチを入れるための動的ストレッチを行うことも効果的です。ここではやはり、そのひとつをご紹介します。
着地時の衝撃こそ、体幹ランニングの推進力の源。着地した軸足がグラつくと、推進力をロスしてしまいペースが上がりません。
ことに反発力が高い厚底シューズだと、軸足が余計ブレやすくなります。軸足を安定させるために、この動的ストレッチでお尻とお腹にスイッチを入れましょう。
モデル:宮下隼人(コニカミノルタ陸上競技部)