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Amazonを筆頭に、多くの小売業者が10月にセールを開始し、消費者は早期に買い物を始めている。

小売業者は特典や会員プログラムを通じて、消費者を惹きつける戦略を強化している。

セールの早期化は他社との競争だけでなく、利益の確保にも影響を与えるリスクがある。


専門小売業者は、Amazonのプライム感謝祭(Prime Big Deal Days)に対抗するため、バスケットボールから本棚まであらゆるものを特売している。

家電量販店のベストバイ(Best Buy)は「テレビ、ゲーム機、ノートパソコン、モニターなどのお買い得商品」をフィーチャーした48時間のフラッシュセールを開始した。一方、スポーツ用品店のディックススポーティンググッズ(Dick’s Sporting Goods)は10月7日から9日まで「最大50%引き」のセールイベントを開催。

家具小売店のウェイフェア(Wayfair)は10月5日から7日まで、ウェイデー(Way Day)セールで送料無料と100万点以上の商品の値引きを行った。さらに、手芸用品店のジョアン(Joann)は10月4日から5日まで、ホリデーシーズンに向けてブランケットを作りたい人たちを対象にフリースと毛糸のセールを行った。

歴史的に見ると11月がホリデーセールシーズンのはじまりだった。しかし、近年は小売業者がAmazonに追いつこうと努力した結果、10月からセールが増えはじめるようになった。

2020年、AmazonはCovidに関連して起きたサプライチェーンの遅延のため、歴史的には7月に開催されてきたプライムデー(Prime Day)を10月に移動させた。そして2022年、Amazonは2回目のプライムデーを10月に定期開催することにした。このイベントはまだ新しいが、すでに支持を得ており、2023年のイベントの売上は前年を上回ったとAmazonは述べている。

ウォルマートやターゲットも前倒しセールを開催



ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)などの大型小売店も、Amazonの秋のプライムデーに合わせていち早く独自のセールを開催した。

今年、ウォルマートは昨年より2日間長く、10月8日から13日まで秋のセールを開催した。一方、ターゲットのプロモーションは10月6日から12日までで、5ドル(約740円)から10ドル(約1480円)の価格帯のホリデーアイテムの数を昨年より増やしている。現在、専門小売業者もますます多くがこの動きに加わっており、セールの時期はどんどん早まっている。たとえば、ベストバイとウェイフェアは昨年の秋にも同様のセールを開催したが、今年は日程をベストバイは2日間、ウェイフェアは20日間早めた。

メディア、広告、コマースの独立系アナリストであるアンドリュー・リップスマン氏は米モダンリテールに、Amazonのライバルたちは10月に存在感を保つために特売を開催する必要があるだろうと語った。「10月のプライムデーは買い物の新たな重要イベントであり、重要イベントの時期に買い物活動は集中するため、需要が高まる」と同氏はいう。「基本的にすべての小売業者がこの動きに参加する必要がある」。

リップスマン氏は、5年前と比べてサイバーファイブ(Cyber Five)がホリデーシーズンの売上全体に占める割合が低下していることを考えると、これは特に重要だと述べた。市場調査会社のイーマーケター(EMarketer)はサイバーファイブ、つまり感謝祭からサイバーマンデー(Cyber Monday)までの5日間のオンライン販売が今年のホリデーシーズンのeコマースの売上全体に占める割合は15.5%で、2019年に記録した20%から低下すると予測している。イーマーケターによると、この割合は2019年から「低下し続けている」という。

リップスマン氏は、これが小売業者、特に10月のセールを開催しないと決めた小売業者に影響を与える可能性があると述べた。「消費者支出を前倒しにしているもう一方の重要イベントに参加しないと、第4四半期の売上をカットすることになる。だが小売業者にそんな余裕はないだろう」と同氏は話す。

10月に行うセールのタイミングとリスク



一般的にいって、ホリデーセールのカレンダーは5年前や10年前とは違ってきている。買い物客はセールでスタートダッシュを決めるために、ホリデーシーズンの買い物を早い時期からはじめることが多くなっている。調査助言会社のガートナー(Gartner)の調査によると、今年は消費者の32%が7月から11月にホリデーシーズンの買い物をはじめる予定だと回答しており、これは2022年(31%)と2023年(28%)を上回っている。

一方、インターネットメディア会社のバンクレート(Bankrate)は買い物客の48%が8月から9月までにホリデーシーズンの買い物をはじめる予定であることを明らかにした。

こうした買い物客にアピールしたい小売業者は、夏と秋のプロモーションを強化するプレッシャーにさらされている。しかし、こうしたセールのすべてが同じ条件にあるというわけではない。そして、支出をしっかり管理している買い物客に対しては、セールの条件が運命を左右する可能性がある。

小売業者は会員登録やロイヤルティプログラムへの参加を促すために、こうしたプロモーションを利用することもある。たとえばAmazonの10月のセールは、月会費14.99ドル(約2200円)または年会費139ドル(約2万650円)以上のプライム会員に登録したユーザーだけを対象にしている。

一方、ウェイフェアのウェイデーセールはウェイフェアの買い物客全員が対象だが、ウェイフェアプロフェッショナル(Wayfair Professional)会員には追加の特典が用意されている。ディックススポーティンググッズのフラッシュセールも参加費は無料で、ナイキ(Nike)、アディダス(Adidas)、ニューエラキャップ(New Era Cap)などのトップブランドが対象となっている。

10月12日まで秋のウェルネスセールを開催しているドラッグストアのCVSの場合、ウェルネス商品の割引を受けるにはエクストラケア(ExtraCare)カード会員になる必要があるが、このプログラムには無料で参加できる。

テクノロジーソリューションプロバイダーのCI&Tの小売戦略ディレクターであるメリッサ・ミンコウ氏は、10月のセールについては複雑な感情を抱いていると語った。一方で、消費者は今、値引きやお買い得商品に非常に敏感だという。しかし同氏は、プロモーションイベントが次から次へと開催されることについて、小売業者はある程度のリスクを考慮する必要があるとも考えている。

「こうしたイベントをなんでも早期に開催するのは、ほかのブランドと競争するのと同じくらいに自分自身と競争するようなものだ」とミンコウ氏は語った。「今、すべての利幅を譲ったら、11月と12月に譲れるものはあるだろうか? 余裕があるなら賢いことだと思うが、セールをいつ開催するかは、本当に戦略的に考える必要があると思う」。

[原文:Specialty retailers are rolling out October sales to compete with Amazon]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:坂本凪沙)