国内2000店舗の目標を掲げるサイゼリヤ。ファミレス業界が縮小するなか、その戦略とは?(編集部撮影)

サイゼが「ファミレス」からの脱皮を目指す?

「サイゼ」は「ファミリーレストラン」でなくなるかもしれないーー。

ファミリーレストラン大手の「サイゼリヤ」が発表した2024年8月期第3四半期決算によれば、国内事業は売上高が1061億8200万円で、13億4400万円の営業利益。前年同期は15億7700万円の営業損失だったので、大幅な収益改善が行われたことになる。

近年のサイゼは「国内は不調、でも海外が好調」というのが定説だった。実際、これまでの決算を見ると事業のエンジンになっていたのは中国での展開だったが、近年のイメージを覆す状況になりつつある。

そんなサイゼだが、中期的な計画として、国内2000店舗を目指すという。2023年8月期の情報によれば国内1055店舗だから、かなり意欲的な見通しである。

実は、この業績の裏側にあるのが「ファストカジュアル」業態へのシフト。

同社の説明によれば、「ファストカジュアル」とは、「ファミリーレストラン」と「ファミレス」の間に位置するもので、価格帯としてはファミレスよりも安く、ファストフードよりは手の込んだ料理を食べられる業態だ。いわば「ファミレス」からの脱皮を目指している。

では、なぜ、この「ファストカジュアル」が業績の改善につながったのか? 現在のファミレス業態を踏まえながら解説する。

「低価格路線の維持」と「メニュー数の削減」で他社との差別化を行う

サイゼリヤはここ最近、「ファストカジュアル」を掲げた店舗改革を行っており、具体的な施策としてあげられるのは「低価格路線の維持」と「メニュー数の削減」だ。

特に、全体的な物価高の中で値上げが続く他のファミリーレストランに対して、この低価格路線は大きな強みになっている。メニュー表を見れば、いまだに看板商品の「ミラノ風ドリア」が税込300円で驚いてしまう。


みんな大好き、ミラノ風ドリア。今も300円で提供されている。さすがにこのメニューがなくなることはないだろうが、「パスタの大盛り」などはすでになくなった(編集部撮影)

また、「メニュー数の削減」は店舗オペレーションの効率化につながり、その分を価格に反映できるから、結果的にこれも「低価格路線の維持」につながる戦略だといえるだろう。

ちなみに、メニュー数が絞られることによってキッチンスペースの削減、ひいては店舗面積の削減にもつながるから、これまでサイゼリヤが出店できなかった場所への出店も可能になるかもしれない。

実は同社では、2020年にも「伊麺処」(パスタドコ)という店で「ファストカジュアル」業態を掲げていた。本格パスタを身近に手軽に楽しんでもらう目的で、パスタは税込500円から提供。「安さ・手近さ」と「本格さ」を融合させたというわけだ。

オープン当初のインタビューに対し、担当者は「ファミリーレストランの業態は店舗面積が50〜60坪(約165〜200平方メートル)ないとできない。そこで、その半分程度の広さで出店できる伊麺処を立ち上げた。伊麺処はサイゼリヤが出店できない地域を埋めていく役割を担っている」と述べている(日経クロストレンドによる)。店舗面積の関係で出店できない場所を穴埋めする役割が期待されていたことがうかがえる。ただ、この業態はあまり浸透しなかった。

ちなみにこの聞き慣れない「ファストカジュアル」という単語、同社の公式サイト(沿革のページ)にも登場する。


聞き慣れない「ファストカジュアル」という言葉だが、同社の公式サイト(沿革のページ)にも登場しており、また「ファストフード」とは異なる位置づけだとわかる(画像:サイゼリヤ公式サイトより)

同社は以前より、新業態開発を続けてきている。始まったのは2005年8月のことで、初のファストフード・ハンバーガー業態の「EatRun(イート・ラン)」を開店。同年の11月には、初のファストカジュアル店でスパゲッティとタコス業態の「スパQ&TacoQ」を開始した。また2007年には、これまたファストカジュアル店である「サイゼリヤEXPRESS」を開店したが、なかなかうまくいかなかったようで、全店を閉店することになった。

このような歴史を考えると、同社にとって、サイゼリヤで「ファストカジュアル」業態を目指すのは、「伊麺処」などが果たせなかった出店戦略の一部を行うことにつながるのかもしれない。その意味でも「ファストカジュアル化」はあらゆる点でサイゼリヤに強みをもたらしている。

全体的に厳しいファミレス業界

「ファストカジュアル化」の利点は、現在のファミレス業界を取り巻く環境にも影響されている。それが、近年のファミレス業界の苦境だ。

日本ソフト販売株式会社が発表している統計データによると、2023年、ファミレスの数は前年比で店舗数が1.8%減少している(前年は3.1%減)。次に掲載するグラフはガスト、サイゼリヤ、ジョイフル、ココスという大手4社の国内出店数のグラフだが、それぞれ、じわじわ減ってきていることがわかるだろう。


筆者はその理由について、ファミレスの「なんでもある」という特徴が消費者にとって魅力に映らなくなっているからでは、と考えている。

現在は一品目特化型の、いわゆる「カテゴリーキラー」といわれるチェーンレストランが多く誕生し、それらの質も向上している。ニーズが複雑化・多様化している中で、「なんでもある」ファミレスが中途半端な存在になり、ニーズに応えられなくなっている側面があるのではないか。いわば、ターゲットがあやふやになっているのだ。

それを証明するように、ファミレス大手のすかいらーくグループは、ガストやジョナサンといったファミレスの一部を「しゃぶ葉」といった一品目特化型のレストランに変えている。

サイゼリヤは、ファミレスとはいっても「イタリアンレストラン」を押し出している点で、どちらかといえば一品目特化型店に近い特徴はある。

ただ、その使われ方はドリンクバーでねばる中高生や、「ちょい飲み」をするサラリーマン、また普通に食事を取るファミリーなど幅広く、実態としては「ファミレス」に近く、このような業界のあおりを受けているのではないか。

さまざまな対応を見せるファミレス各社

そんな中、ファミレス内でも、いろいろな動きが出てきている。価格やメニューを変更しながら、よりターゲットを狭めていく動きが見られるのだ。

例えば、すかいらーくグループのガスト。2023年にグランドメニューを改定しているが、ここでは「アルコールの全品値下げ」等を打ち出している。コロナ禍以後に復活してきた「ちょい飲み」需要を拡充させ、結果的には客単価の増加を狙う意図も見えるが、ただでさえ円安が急激に進行し、物価高が進む現在において「値下げ」に踏み切っている。


一時は業態転換が目立った「ガスト」だが、2024年に入ってからはリニューアルとなり、温存されるケースも増えてきた(筆者撮影)

結果として、すかいらーくグループは2025〜2027年の中期事業計画によれば、ガストはリニューアルという形でかなりの数が温存されていくようだ。「低価格路線」で現在の潮流に立ち向かうのである。中価格帯の「ジョナサン」が、どんどん数を減らしているのとは対照的だ。


逆に、ロイヤルホストはファミレスでありながらも「高価格帯・高品質」でサービスも向上させる方向に振り切っている。ガストなどで見る「配膳ロボット」の導入も行っておらず、割引も行ってはいない。

こうした「高価格帯への訴求」がうまく働き、運営元のロイヤルホールディングスの2024年6月の中間決算は、売上高・営業利益ともに過去最高を記録している。

いずれにしても、ファミレス内でのポジションを明確にしている企業が強いのが現状だ。

サイゼリヤは、その性質上、ロイヤルホストのような高価格帯は目指せない。だからこそ、必然的にガスト的な「低価格路線」でターゲットを絞っていく方向を選んだのだろう。そうして、必然的にファストフードに近づいていく。

ちなみに、ファストフードについては、業界全体として好調である。何をファストフードと分類するかはとても難しい問題だが、「安く、手軽な店内調理で食べることのできるレストラン」という意味でいえば、マクドナルドなどのハンバーガーチェーン、松屋やすき家などの牛丼チェーンが日本における代表的なファストフードだといえるだろう。

日本ソフト販売が発表したデータによれば、ハンバーガーチェーンや牛丼チェーンは、小さくはあるものの、いまだに店舗数が増え続けているのだ。

2つの業界で細かい要因は異なるだろうが、ファストフードの特徴である「安さ」や「手軽さ」が顧客に対する魅力になっているのだろう。また、小さな面積でも店舗を作ることが可能なので、コロナ禍で増えた空き店舗を活用して店舗数を増加させられたという背景もあるかもしれない。

いずれにしても、サイゼリヤファストフード業界に近づこうとするのは、ファミレス業界の現在の状況から考えると、とても合理的な選択だといえるのだ。

サイゼリヤの「理念」とのすり合わせが課題だ

ただ、ファストフードに寄っていくと、失われるものもある。サイゼリヤが、ファストカジュアル化に向けた取り組みとしてメニュー数の削減を行っていることは述べた通りだ。2023年には、秋のメニュー改定に合わせ、通常メニュー141品目が101品目に減らされた。かなりの削減だ。

サイゼリヤ創業者の正垣泰彦によればサイゼリヤの強みの1つは「コーディネーション」にあるという。個々の商品を単体で食べるというよりも、「イタリア料理」という枠の中でさまざまに用意された料理やドリンクを組み合わせて食べられるのが、「他の外食チェーンとサイゼリヤの最大の違い」(p.59)だと言う(『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』)。


確かに「サイゼ飲み」という言葉が表すように、ワインとおつまみをそれぞれが好きなように合わせて食べることができる、そのバリエーションの豊富さがサイゼの1つの面白さでもあるだろう。また、サイゼは低価格路線なのに客単価が高いことも特徴で、その要因の1つもこうしたメニューの「コーディネーション」にあるだろう。

その意味では、このメニュー数の削減と「コーディネーションの思想」をどのように両立させていくのかが、「ファストカジュアル化」の1つのポイントになる。

すでに見てきたようにファミレス業界は、現在大きな変化の中にある。生き残っていくためには、その変化に対応することが大事だ。一方、その変化に乗りつつ、サイゼリヤの理念にも立ち返り、それらを両立させていくことが今後のサイゼリヤの展開において重要だと思われるのである。

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)