【続報・深圳日本人児童刺殺事件】声を上げる中国人は「排除」する中国社会の根深い「隠蔽癖」

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先週9月18日の現地時間朝8時頃(日本時間朝9時頃)、中国広東省深圳市にある日本人学校の手前約200mの路上で、10歳の日本人児童が、44歳の失業者の中国人男性に刺殺された。この凶悪事件の余波は、発生から一週間近くが経っても、一向に収まる気配を見せず、日中間の新たな火種となっている。

前編に引き続き、事件の最前線をお届けする。

中国在住の日本人、中国人の声

実際、今回の事件を受けて、中国駐在の日本人たちにも話を聞いたが、厳しい声が続出した。

「中国は、自分たちが宣伝したいことは嫌というほどアピールするのに、蘇州と深圳の一件の真相は隠蔽し続けている。さらに、蘇州と深圳の事件に共通しているのは、共に母親が同伴していたにもかかわらず襲われたということだ。それなのに中国は、今後の対応策すら示さない。こんなことでは、中国との信頼関係が築けない」

「中国は長く、日本人学校が中国に対するスパイ養成機関だとかいう根も葉もないでっち上げの主張を、中国人が自由にSNS上にアップし、拡散するのを許してきた。自国の不利益な内容がアップされようものなら、瞬時に削除するくせにだ。こうしたデマが、犯罪を助長した可能性がある。いますぐ、日本人学校は国家間の取り決めによる正当な学校だということをアピールしてほしい」

一方、深圳の中国人たちは、この一件をどう感じているのか? 深圳の中国人の知人に聞いた。

「周囲はざっくり言うと、私のように被害者の日本人家族に同情している人が3分の1、アメリカが中国と日本を離反させるために仕掛けた陰謀だと考えている人が3分の1、残り3分の1は無関心だ。いずれにしても、深圳自体の不景気に加えて、香港の不景気の影響も受けているから、このところ犯罪は増えていて、日中でも警戒を怠らずに生活している」

この深圳人が言う「日本人家族に同情している人」に関しては、深圳を担当する広州の日本総領事館が9月20日、こんな声明をHPに写真付きで上げている。

<深圳日本人学校には、既に1,000を超える花束が届いております。学校は、現地の気候を考慮して、冷房の効いた献花室にお花を移しました。ご遺族にも刻々お届けしております。当館にも3,000件を超えるお見舞いの書き込みを頂いております。こうした哀悼とお見舞いのお気持ちもご遺族に必ずお届けします>

これらの多くは、わざわざ花束を持って日本人学校を訪れた、市井の深圳市民によるものだ。「深圳市民として謝罪します」「深圳はあなた方と共にあります」といったメッセージを添えたものもあった。

中国の著名人も声を上げる

中国の著名人の中にも、声を上げる人が出てきている。その中で一人だけ、胡偉博士の文章を紹介する。国務院(中央政府政府)参事室公共政策研究センター副理事長、上海交通大学国際公共事務学院長などの要職を務めていたが、2022年にすべての役職を解かれて話題を呼んだ人物だ。

それは、ロシアのウクライナ侵攻にショックを受けて、「中国はいますぐプーチンと手を切るべきだ」という論文を発表したからだ。「いまこそ中国が再び西側諸国との関係を修復する好機到来だ」という、至極まっとうな内容だった。

だが、習近平主席とウラジーミル・プーチン大統領の「盟友関係」を鑑みれば、これは「御法度」だった。瞬く間に、論文とともに胡偉博士も「消されて」しまった。

それから2年半近くが経ち、胡偉博士が再び、今回の深圳の事件で声を上げたのだ。「いまやすでに自己反省をせざるを得ない時代が到来した」と題された長文の核心部分のみを訳す。

<他国でも外国人を排斥する現象が起こっているだって。だが他国と比べて、どうのこうのと言うのはよくない。「腐らせるがままに放置しておくこと」はよいことではないのだ。

国家はやはり、対外開放が必要だと認識するのみだ。たとえ他国でも起こることだとは言っても、この種のことをほしいがままにさせておいてはいけない。一言で言えば、「腐らせるがままに放置しておくこと」を努めて減らすべきで、そうでなければ大国として復興する気風に合わない。(中略)

特に深圳の今回の案件は、10歳の無辜(むこ)の児童に対するものだ。性質は極めて悪辣だ!(中略)

どんな国でも外国人傷害事件というのは起こる。それ自体は奇怪なものとは言えない。問題は、どんな動機が出てくるのかだ。一種の盲目的な外国敵視、外国排除の行為なのかどうかだ。(中略)

「中国の国家と民族全体にとって、百害あって一利なしだ!」

「今回の殺人者とあなたは無関係だなんて思うべきでない。殺人者はまさに、あなたの未来の一部を殺したのだから」――深圳の児童刺殺事件を含む連続3件起こった日本人、アメリカ人を傷つける案件に直面し、私も深くそう思う。

現在、国内の一部の人々は、故意にかそうでないかは知らないが、中国国内で外国人を傷つける事件を、地面を洗い清めたり、花や木を植えかえるようなものだと混同して見ている。そんなことをやっていては、われわれはさらに自己反省能力を失ってしまう。中国の国家と民族全体にとって、百害あって一利なしだ!

現在すべきことは、一罰百戒とするよう呼びかけることだ。目先の利益のみ増やそうという狭隘(きょうあい)な民族主義の台頭を抑え込み、元を正しく清め、正しく視聴し、開放包容、対外友好の世論、雰囲気と国家の印象を形作ることだ。

そのため、問題の焦点はこうした事件が偶発的なのかどうかではない。偶発的だろうが、そうでなかろうが、もしも外国人に対する、とりわけアメリカ人と日本人に対する無差別な傷害が目的だとしたなら、全社会的な高度の警鐘を鳴らすべきだ。いまやすでに、自己反省をしなければならない時なのだ!>

まさに中国の知識人の魂を込めた一文で、こちらも感銘を受けた。問題は、こうしたまっとうな知識人が、いまの中国社会から排除されてしまっていることだ。

ともあれ、もともと砂上の楼閣のようだった日中関係を吹き飛ばしてしまった今回の凶悪殺人事件。引き続き行方を注視していきたい。(連載第748回)

【続報・深圳日本人児童刺殺事件】犯行動機を巡って激突する「日中の攻防」最前線