これって窃盗では? EUが勝手に「ロシア資産」からウクライナ援助を始める

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9月20日、ウクライナの首都キーウを訪問した欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長(EUトップ)は、凍結されたロシア資産を担保に350億ユーロ(約5・6兆円)の融資をウクライナに提供するとのべた。これは、今年6月にイタリアで開催されたG7サミットにおいて、G7がウクライナの武器購入やインフラ再建の支援のために融資することを約束した金額約500億ドル(約7・2兆円)のうち、アメリカ分の年内融資が難しくなったための金融措置だ。ウクライナ政府はその融資を、主にエネルギー、防空壕、武器の購入に使う見通しだ。

何が起きたのか?

6月14日付のG7指導者のコミュニケには、「対ロシア防衛が長期化する中、ウクライナの現在および将来のニーズを支援するため、G7はウクライナ向けの特別歳入加速融資(ERA)を開始し、年末までにウクライナに約500億ドルの追加資金を提供する」と明記されている。

この500億ドルの融資は、米国と西側の他の大国がウクライナにおよそ500億ドルの融資を行い、その利子と西側に凍結されたロシアの中央銀行の外貨準備資産、約3000億ドル(約43・2兆円)からの利益で返済するという計画であった(そのほとんどがベルギーの中央証券保管機関であるユーロクリアに保管されている)。計画では、EUとアメリカがそれぞれ約200億ドル(約2・9兆円)を提供し、残りの100億ドル(約1・45兆円)はイギリス、日本、カナダが分担する。

この解決策は、米国や欧州諸国の予算から直接援助を増やすことなく、ウクライナに多額の資金を注入することを意図したものであった。また、西側の同盟国は、実際にロシアの資金を使うというステップを踏むことなく、ロシアの資産を利用することができるというものだった。

ただし、米国は、融資を受けるための安定した収入を確保するため、ロシアの資産(そのほとんどがヨーロッパに保管されている)が凍結されたままであることを保証するよう要求した。そこで問題となったのが、制裁をめぐる米国と欧州では法体系が異なっている点である。

EUの制裁は半年ごとに更新

ロシアの中央銀行資産の大半が保有されているEUは、ロシアの資産を凍結している制裁措置を、半年ごとに更新することを義務づけられている。EUは制裁の全会一致による更新のため、6カ月ごとにロシア寄りのハンガリーを説得しなければならない。米国は更新期間の延長を強く求めているが、そのためにはEUの全会一致が必要で、実現できずにいる。

このため、「米行政管理予算局は、この融資には一定のリスクがあり、EUが制裁法を変更しない限り、議会はそのリスクを考慮してウクライナへの追加資金を承認しなければならないと判断した」と、9月17日付の「ニューヨークタイムズ」(NYT)の記事は書いている。だが、このための追加資金を米議会に認めてもらうのは政治的に困難であり、融資は宙に浮いたままになってしまったのだ。

そこで、9月になって、欧州当局者は制裁見直し期間を12カ月か36カ月に延長する可能性について議論していた(米国は、EUによる対ロシア制裁の見直しを3年間禁止するという条件付きで融資しようとしていた)。そうなれば、米国が融資を支援する際に発生するコストは減るだろうが、それでも制裁が延長されないかもしれないというリスクは残る。

もっとも大きな問題は、この見直しには、EU加盟の27カ国すべての賛成が必要とされることであった。「9月16日にブリュッセルで行われたハンガリー側との会談を知る2人の欧州関係者によれば、ハンガリーは、制裁の見直し期間を36カ月に延長するEU合意を阻止した」と、前述のNYTは記している。親ロシア派として知られているハンガリーのヴィクトール・オルバン政権は、11月5日の米大統領選が終わるまで、凍結資産スキームに関する決定を延期しようとしているのだ。

EUの「プランB」

年内の500億ドルの融資が難しい以上、代案としての「プランB」が必要になった。それが20日にフォン・デア・ライエン委員長が明らかにした合意である。この場合、今年末に期限切れとなる現行の金融支援パッケージに融資を追加するもので、EU全体の借入金を増やし、EUの一般予算で支援する。

既存の援助プログラムの拡大は、過半数の賛成だけで済むから、ハンガリーによる拒否権行使は気にしなくてもいいことになる。つまり、新たな融資計画は、年内に27か国からなるEU加盟国と欧州議会の過半数の承認を得るだけですむ。

いまのところ、G7で約束された500億ドルのうち、米国分については実現できそうもない。EUが390億ドル分を融資すれば、残りをイギリス、日本、カナダが担うのかもしれない。だが、この3カ国の融資については、執筆時点(9月21日)では不明だ。

ロシアの反発

もちろん、ロシア政府は、ロシア中央銀行の国際準備を凍結し、その元本や利息を利用しようとする動きを「窃盗」(せっとう)と呼び、猛反発してきた。逆に、米国や欧州の国々や日本は、ウクライナへのロシアによる侵略に伴う賠償にロシア中央銀行の国際準備をあてようとする見解に沿った対応と考えられる。

実は、国際法上、主権国家の財産をそう簡単に没収することはできない。ロシアの資産の元本部分まで没収してしまうと、資産凍結などの制裁措置(対抗措置)が可逆的でなければならないという要件を満たさなくなるとの議論がある。国際法上、「対抗措置は、可能な限り、問題となっている義務の履行の再開を可能にするような方法で講じられなければならない」とされているから、一度元本を没収して売却してしまうと二度と元に戻らないという議論が成り立つのである。ただ、利息分については、この議論が成り立たないとの見方から、多額の利息分についてはウクライナ向けに利用しようとしていることになる。

ただし、この利息分もロシアからみると、窃盗にあたる。

西側の「大嘘」

どうにもやりきれないのは、欧米諸国や日本が「大嘘」をついている点だ。ウクライナ戦争が当初の「自衛戦争」から、米国やその他北大西洋条約機構(NATO)加盟国の「代理戦争」に変質してしまった事実をまったく無視しているのだ。

ウクライナは自衛戦争としての緒戦に勝利したのに、米英に促されてウクライナ戦争を継続した。その時点で、ウクライナ戦争は代理戦争となり、消耗戦にロシアを巻き込んで弱体化させるための戦争となったのだ。

そうであるならば、ウクライナ戦争に伴う損害賠償のすべてを帰そうとする日欧米の主張はおかしい。なぜなら戦争継続はウクライナの国民の生命・財産を毀損し、国土を破壊しつづけ、その結果として復興にかかるコストを猛烈に膨らませてきたからだ。

この見方に異論を感じる人は、自衛戦争、人實解放戦争としてはじまった「ガザ戦争」がいつの間にか、イスラエルによるパレスチナ全域およびレバノンへの「侵略戦争」と化している現実を思い浮かべてほしい。それにもかかわらず、昨年10月7日のパレスチナ人による奇襲がすべての出発点だから、全責任はパレスチナにあるというのはおかしいだろう。まったく同じ論理がウクライナ戦争でも通用するはずだ。

そう、イスラエルの戦争責任を問うべきだし、同じように、ウクライナおよびその背後で軍事支援しているアメリカやその他のNATO加盟国の戦争責任(代理戦争の継続責任)も大いに問われなければならないのである。

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