日本株、水面下で動き出した「物言う株主」が好む企業の「3つの条件」と「その具体的な銘柄の名前」

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東京証券取引所が上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を要請するなど、日本企業の間で資本効率やガバナンス(企業統治)の改善が広がっている。アクティビスト(物言う株主)による株主提案も建設的な内容が増え、いまや変革を後押しする重要な役割を担っている。

そのアクティビストが水面下で動き始める季節が訪れている。一般的には毎年6月の株主総会シーズンこそがアクティビストの存在が大きくクローズアップされているが、実際に株主提案を行う対象企業の株式取得は前年の9月から10月にかけてピークを迎える。

株主提案を行うには、6ヶ月以上前から継続して総株主の議決権の1%以上の議決権か、300個以上の議決権を継続保有しておく必要がある。さらに株主総会の8週間前までに株主提案を行うことが原則となる。つまり6月の株主総会で株主提案を行う場合は4月下旬がタイムリミットとなる。ここから逆算すると前年の10月までには株式を取得しておく必要があるのだ。

アクティビストが好む企業の特徴としては、(1)政策保有のような安定株主が少なく、(2)現預金や有価証券などの金融資産が潤沢、(3)PBR(株価純資産倍率)が低いなど、企業価値に比べてお買い得感があること、などがあげられる。

最近ではセブン&アイ・ホールディングス<3382>がカナダの同業大手から買収提案を受けるなど、大型株でもターゲットとなるケースが増えてきた。アクティビストが保有する銘柄は株価パフォーマンスも良好となりやすい。アクティビストによる株主提案が活発化する可能性のある企業には、今後も関心が高まりやすいだろう。

日本ゼオン(4205)

■株価(9月20日時点終値)1341.5円

自動車部品向け特殊ゴムを扱うエラストマー事業と、6月に大型投資を発表したCOP(シクロオレフィンポリマー)を主力とする高機能材料事業を二本柱に持つ。良好な財務体質を背景に、業績が厳しい時期でも増配を続けており、2025年3月期には連続増配が15期へ更新される見込みだ。

近年では自社株買いについても積極姿勢を示している。25年3月期から27年3月期にかけては、最大300億円規模の自己株式取得(現在進行中の最大100億円の案件も含む)を実施する予定だ。政策保有株式の売却目標を引き上げたこともあり、株主還元をさらに強化する方針も示している。

PBR(株価純資産倍率)が1倍を大幅に下回る現状については、経営陣はかなり深刻に受け止めている。過去10年間のPBRは下限0.7倍から上限1.4倍の範囲で推移しているが、足元は下限付近の評価でしかない。6月末時点のネットキャッシュは175億円と余力があるなか、アクティビストが大株主に浮上したこともあり、事業戦略及び財務戦略を強化する期待は大きい。

日本新薬(4516)

■株価(9月20日時点終値)3371円

安定成長が見込めるディフェンシブ株と位置づけられることの多い薬品株だが、自社開発薬の特許満了による売上急減リスクには注意が必要だ。穴埋めできる有効な施策を準備できない場合は、収益が大きく落ち込む「パテントクリフ(特許の崖)」に直面する懸念がある。

同社は肺動脈性肺高血圧症治療剤「ウプトラビ」が2028年3月期中に特許切れを迎える。前24年3月期に403億円のロイヤリティ収益を計上した収益柱だ。2029年3月期を最終年度とする5カ年の中期経営計画では、最終年度に売上高を24年3月期比約6割増の2300億円を目指す中、「ウプトラビ」に続く収益柱の育成は喫緊の課題となろう。

同社の強みはDNAやRNAといった遺伝子情報を司る物質「核酸」を用いる核酸技術にある。低分子医薬では狙えない分子をターゲットにできるため、筋ジストロフィーのような治療困難とされる疾患にも有効な医薬品を創出できる期待がある。国産初の核酸医薬品となったデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療剤「ビルテプソ」には、引き続き期待と注目が集まろう。

関電工(1942)

■株価(9月20日時点終値)2162円

屋内線や配電線事業を中心に電気設備工事で高シェアを誇る同社も株価評価の向上余地が揃っていそうだ。2025年3月期は半導体関連の設備投資が増加しているほか、再開発に伴うビルの電気設備工事で高利益率の案件を受注したことが追い風となり、経常利益は2期連続で過去最高益(前期比3.2%増の440億円)を更新する見通しだ。

2024年から2026年にかけては、長期ビジョン「Milestone2030」に基づく中期経営計画では、ROE8%超と配当性向40%を目標に掲げている。脱炭素化に伴う送電線網の受注や、電力料金の高騰に伴うリニューアル工事の増加など、良好な収益環境が続く公算は大きいと考える。

注目されるのが資本関係の見直しや株主還元の強化だ。東京電力グループ(関電工の議決権の47.2%を保有)や上場子会社の川崎設備工業<1777>との資本関係の見直し、健全な財務体質を背景とする株主還元の強化などがあれば、株価評価はさらに高まる余地があるだろう。

京セラ(6971)

■株価(9月20日時点終値)1711円

同社は想定為替レートを「1ドル=145円、1ユーロ=155円」に設定している。足元の為替水準が円高方向へ振れたこともあって株価は調整局面にあるが、PBR(株価純資産倍率)はすでに歴史的な底値圏(0.7倍)まで低下していることで下値リスクは限定的と考える。今後の業績見通しや資本政策次第では、株価は反転機を迎える期待がありそうだ。

長崎県諫早市に新設するセラミック部品製造工場は、国内では約20年ぶりとなる大型投資で半導体製造装置向け部品の生産拡大を目指す。さらに宇宙産業にも進出し、セラミック素材を活用した人工衛星や天体望遠鏡の部品を展開し、5年後に売上高を現在の6倍相当の30億円へ拡大させる計画を持つ。

資本政策で注目したいのは、政策保有しているKDDI株の活用法だ。過去にはアクティビストから全株売却による株主還元を迫られた経緯を持つ。中期経営計画では「ROE(自己資本利益率)7.0%以上という目標を掲げており、資本効率の改善により収益力の強化が実現すれば目標達成も視野に入ろう。

大林組(1802)

■株価(9月20日時点終値)1810.5円

2023年の株主総会で英国系アクティビストより株主提案を受けた同社だが、2027年3月期までの中期経営計画のROEや株主還元などの目標を見直したことが好感され、PBR1倍を上回る水準まで株価が急伸したことは記憶に新しい。

会社側は政策保有株式の純資産に対する比率を、2027年3月期末に向けて20%まで減らす目標を掲げている。国内建築マージンが想定を上回る改善ぶりをみせるなど、足元の業績が堅調に推移する中、追加の株主還元に対する期待も高まりつつある。

大手ゼネコン4社の中では、比較的健全性を維持してきた財務体質も強みとなる。これまでもM&A(合併・買収)によるグループ規模拡大を進めてきた。米国で上下水道のプラント工事を手掛ける建設会社MWH社の買収は、米国の水インフラ市場の成長性を見据えた効果的な投資となりそうだ。米国大統領選挙の結果に左右されづらい共通の政策テーマとして注目できる。

アクティビストによる株式取得は、日本株市場の調整局面で下値を支える要因の1つともなっている。秋の夜長にひと際異彩を放つ銘柄があれば、注目してみたい局面だ。

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