〈総裁が変われど絶望的な未来〉自民党裏金問題、公選法違反疑惑…三代目の“世襲政治家”に日本の未来を期待できない5つの理由

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長年にわたって「裏金」をばらまき、縁故主義による仲間内資本主義がはびこる日本社会。その結果、世界の株式時価総額トップ100に入った日本企業はついにトヨタ1社だけとなった。日本経済はなぜ低迷し続けるのか。

【画像】三代目世襲議員の代表格といえばこの人

『裏金国家 日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新聞出版)より一部抜粋・再構成してお届けします。

“三代目”が身上を潰す

自民党は末期症状を呈しつつある。

「2015年体制」は、裏金による地方政治支配を基盤にし、その利益共同体の基盤を守るために、東京生まれの東京育ちのエセ地元議員である世襲議員を担ぐことでできている。そして「2015年体制」は、劣化した世襲政治家でも国会議員として生き残れる仕組みを作り上げる必要性から生まれたのである。

それゆえ、世襲議員が行う政治の根本的問題点は、難しい政治学の学説を当てはめて説明するより、「三代目が身上を潰す」という格言からくる庶民の日常実感で見た方がずっとわかりやすい。実際、三代目の世襲政治家は、世の中で言われている三代目世襲経営者の弱点とそっくりである。

三代目は「家業」を潰すまで社長にしがみつく傾向があるが、「家業」が傾いてくると、初代の苦労を知らないためにいくつかの共通の欠点が見えてくる。

第1に、過去の「栄光」にしがみついて、世の中の変化や客のニーズの変化に全くついていけなくなっている。過去売れたかもしれないが、今は売れなくなった商品なのに、同じ商品を売り続けて会社がどんどん傾いていく。東京オリンピック、大阪万博、リニア新幹線といった1960年代~1970年代初めの高度成長期の再現を望む「三丁目の夕日」路線がそれに当たる。

すべて大赤字になって負債ばかり残していく。世界で進歩が著しい情報通信産業、ゲノム創薬と医薬品ヘルスケア産業、再生可能エネルギーと蓄電池、EVと自動運転などの先端産業分野では決定的に後れを取ってしまった。その結果、世界の株式時価総額トップ100に入った日本企業はついにトヨタ1社だけになってしまった。

昔からのなじみということで、政治献金をくれる古臭い重化学工業企業が集まる経団連企業に都合のよい国家事業ばかりやって、ますます産業衰退を招いている。防衛費倍増による武器輸出、原発60年超えの運転再稼動、4桁暗証番号の古臭いプラスチックのマイナンバーカード、石油元売り企業や電力大手向けのエネルギー補助金などがそれにあたる。

それによって四半世紀にわたって実質賃金が下がり続け、貿易赤字を定着させた。結果がすべてなのに、世襲政治家は当面の利益、官僚は自分の天下り先しか考えず変えようとしない。

国立大学法人法「改正」に「桜を見る会」における公選法違反疑惑

第2に、三代目の世襲は往々にして地べたに這いつくばって努力した経験がなく、世襲として経営トップを引き継ぐことが最大の目標になっている。岸田文雄首相は典型的で、首相になりたいだけで、何をしたいというこだわりがなく、会社の未来に関してはほとんど何も考えておらず、少なくとも思いつき以上のものを表明することができない。

「お家騒動」がある会社だと、何よりも優先的に考えることは、後継者を潰すことである。安倍元首相も岸田首相もその典型である。そして自分を初代より劣っていると、比較されることを嫌い、失敗しても失敗を認めず、謝罪せず、経営方針を変えず、自己正当化ばかりしている。

第3に、「世襲」というのは、公正な選抜基準はなく家柄とか縁故という「私的」な基準なので、公的立場にありながら周囲では極めて「私的」な人間関係が形成される。それゆえ民主主義という統治原理とは相反することがある。

時には、三代目世襲は絶対的支配者のように振る舞うのを好む。そのために、周囲できちんとした意見をする者を排除する。2014~2015年以降、内閣人事局で忖度官僚だらけにし、放送法解釈変更で批判的な司会者やコメンテーターを徹底的に排除し、日本学術会議の任命拒否や国立大学法人法「改正」で大学や科学者の自治を壊すのである。

さらに行けば、自分のご機嫌をとる者をひいきし、主として金銭関係や許認可関係などの「利益」が与えられる。そのために森友学園の国有地売却事件、国家戦略特区における加計学園の獣医学部の情実認可の疑惑、「桜を見る会」における公選法違反疑惑など公私混同の行為が横行する。三代目世襲経営者は会社の会計などの粉飾を始めると末期症状だが、安倍政権の下では公文書や統計の改ざんが行われてきた。

通常の企業と違い、国家の破綻の前兆が見えにくい理由

第4に、会社の内輪(内部事情)を優先して、客のニーズを無視し、客に不良品を押しつけ始めると、これは潰れる前兆である。マイナンバーカードは欠陥カードであって民間企業ならとうに潰れていたのに、売れない商品やサービスを客=利用者に押しつけて平然としている。

あるいは、世論的にとても支持されているとは言えない、本来医療に使うべき健康保険の保険料負担に子育て支援金を上乗せするのもおかしい。後述するように、裏金問題も国民世論を無視して、内輪だけを考えて甘い「処分」で終わらせようとするのも基本的に世襲の特性から来ている。

第5に、会社(国家)を自分のものだと勘違いして私物化する。ついには裏金作りを始めると、もはや末期症状である。異常に借金を膨らませて宴会をして平気になってしまう。サラ金経営に陥って潰れそうになると、経営者も幹部も通常の健全経営ではありえないような裏金作りを始める。国会議員のレベルではパーティ券裏金作り、政府のレベルでは使い道がチェックされないような予備費を膨らませ、官僚は基金を膨らませるのである。

社員も労働組合も将来不安を抱えているが、目先の給料を上げてもらうことしか言わない。経営がしだいに長い付き合いの銀行への借金頼みになっていく。国の場合、通常の企業と違って中央銀行がお札を刷れるので、「失われた30年」と言われるように、ある程度長持ちしてきたが、破綻するときは極めて悲惨である。三代目世襲政治家は家業が潰れるまでしがみつくために、自民党だけでなく国も潰れていくことになるだろう。

文/    金子勝

『裏金国家 日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新聞出版)

金子勝

2024年9月13日

957円(税込)

256ページ

ISBN: 978-4022952783

総裁の「顔」を変えたところで、自民党の根っこは何も変わらない――。
腐敗・衰退著しい日本の根本要因を徹底検証した、渾身の作。

長年にわたって「裏金」をばらまき、都合の悪い言論を封殺し、
縁故主義による仲間内資本主義がはびこる日本社会。
民主主義を破壊し、国際競争力を低下させた背景にある「2015年体制」の正体とは。
さらに、情報通信やエネルギー転換など、先端産業分野から取り残され、国民生活をどんどん貧しくしていく日本経済の構造的問題、そして迫りくる“カタストロフ”とは。
世襲支配、円安バブル、脱税と隠蔽、軍事費の増額……負のらせん状階段を下り続ける、この国の悪弊を断つ。

■目次
第1章 「2015年体制」というディストピア
第1節 日本政治の腐った根っこ
第2節 「2015年体制」とは何か
第3節 世襲という病

第2章 自浄能力なき隠蔽国家――腐敗が止まらない仕組み
第1節 検 察の権力チェック機能も自民党の自浄能力も期待できない
第2節 国会審議で明らかになったことは何か
第3節 自民党内のアリバイ的処分と法改正
第4節 政治資金規正法改正の自民党案の欺瞞性

第3章 裏金国家――国が腐るとはどういうことか
第1節 「惨事」便乗型資本主義
第2節 「国家的」な裏金作り
第3節 円安インフレと防衛費膨張の悪循環
第4節 投機マネーに狙われる国
第5節 ずるずるとした滅び

第4章 裏金国家の経済政策――仲間内資本主義日本
第1節 プーチン型権力を目指す
第2節 リフレ派とMMTが日本経済を滅ぼす
第3節 政府の産業政策が衰退を加速させる

第5章 ディストピアから脱する道――裏金を提供する者のためでなく困っている者のための政治へ
第1節 政権交代が必須
第2節 円安インフレと格差拡大を防ぐ
第3節 防衛費膨張を止めてイノベーティブ福祉国家へ
第4節 地方衰退を食い止める
第5節 いかにして少子化を食い止めるか