元日本代表のスペシャル対談、後編では玉田監督(左)からインタビュアーを担当した名良橋氏(右)へ逆質問も。Jリーグで長く活躍したふたりが語り合った「影響を受けた指導者」のトークは多岐に渡った。写真:志水麗鑑

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 ワールドカップにも出場した元日本代表の玉田圭司が、昌平を率いてインターハイ制覇。しかも監督就任からわずか4か月で、チームにとっては初の全国優勝という箔もついて――。

 新指揮官の玉田監督は、いったいどんな指導で昌平を日本一に導いたのか。小さくない興味をしっかりと深掘りするべく、インタビュアーを担当してもらったのは、同じくワールドカップを経験した元日本代表の名良橋晃氏。解説者のなかでも屈指の高校サッカー通で、インターハイも現地取材している、打ってつけの聞き手だろう。

 世界を知るワールドカップ戦士によるスペシャル対談企画、元日本代表が語り合う高校サッカー。後編のテーマは、玉田監督の指導論だ。昌平で重要視しているのは、選手がサッカーを楽しめているかどうか。その考えを形作ったのは自身が師事した監督たちで、影響を受けた名将からは“愛”を感じていたという。

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名良橋 ここからは玉田監督の指導論を深掘りしていきたいのですが、選手にサッカーを教える時に意識していることはありますか?

玉田 まずは「ちゃんと楽しんでやれているかな?」という点をすごく見ていますね。

名良橋 チームよりも、選手個人が?

玉田 そうです。チーム全体のマネジメントも、もちろん重要ですけど、選手一人ひとりが伸び伸びとサッカーをしながら成長する姿を見られるのが、一番大事だと思っていて。そのうえでチームの勝利があると僕は考えています。なので、ベースは「楽しむ」。そのなかで成長する。この考えを基本に今のところは上手くやれています。

名良橋 でも、スタメン、トップチームがいる一方で、下のカテゴリーの選手のモチベーション維持も難しいのかなと思いますが、選手からの視線、もしくは気持ちを何か感じ取る時はありますか?

玉田 多少はあります。ただ、高校サッカーのプレーヤーは高校生だとしても、プロ選手と同じ感覚で見ている部分も、僕の場合はあります。そう考えると、プロでは選手全員が100パーセント満足することはできないじゃないですか。

名良橋 もちろん、そうですね。僕も現役時代はそうでした。

玉田 なので、選手には理解してもらわないといけない部分もあると思っています。良い選手をトップチームに昇格させている一方、上のカテゴリーに上がれない、もしくは出場機会が少ない、途中交代など、いろんな不満はあるでしょうけど、仕方がない部分もある。

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名良橋 そのなかで選手個別にアドバイスしたりしますか?

玉田 はい、助言はしますよ。

名良橋 でも、選手それぞれ十人十色で性格も違うので難しくないですか? 

玉田 それが楽しいんですよ。

名良橋 なぜ楽しいんですか?

玉田 いろいろな性格を見たなかで、この選手にはこう話しかけるのが良いとか、この選手にこう話しかけたら「どう反応するんだろう?」とか。そう考えるのがすごく楽しいんですよ。

名良橋 選手の反応を見るのが楽しいとは、さすがです。

玉田 でも、僕は監督就任から約半年しか経っていないので、すべてを100パーセント理解しているわけではないですよ。模索しながら、一人ひとりの性格について新しい一面を見たり、出させる作業がすごく楽しいです。
 
名良橋 選手の潜在能力を引き出し、良いパフォーマンスを出させる。もう、頭が下がりっぱなしです。

玉田 いえいえ。でも、一回も下がっていないじゃないですか(笑)。

名良橋 ツッコミもさすがです(笑)。では、玉田監督が理想とする指導者像はありますか?

玉田 「また見たい!」と思ってもらえるサッカー、チームを作れる監督になりたいですね。

名良橋 そう考える理由として、現役時代に指導を受けた指揮官のなかで、影響を受けた監督はいますか?

玉田 2010年に名古屋で優勝した時のストイコビッチ監督は、監督としての器みたいなものをすごく感じましたね。

名良橋 どういうところに? 僕は対戦経験こそありますけど、監督としてはどうだったんですか?

玉田 指導のモットーとして「楽しめ!」とはよく言っていましたね。当の本人は喜怒哀楽がすごくありましたけど(笑)。

名良橋 現役の時からね(笑)。

玉田 そのなかでもストイコビッチ監督には愛があると感じていました。何度も「エンジョイ!フットボール!」とよく言われてきたなかで、考え方がすごく僕に似ているなと思っていて、そのなかで優勝という結果を出せたのは、個人的にはすごく大きかったですね。逆に名良橋さんは誰ですか? 名良橋さんだったら、影響を受けた指導者、いっぱいいるでしょ。

名良橋 僕は鹿島で指導を受けたトニーニョ・セレーゾですね。いいんですよ、僕の話は(笑)。

玉田 いやいや、聞きたい、聞きたい。セレーゾ監督はどんな指導者でしたか?

名良橋 セレーゾはディフェンスに相当うるさかったんですけど、ベースとなる守備のルールを守っていれば、攻撃はある程度、自由を与えてくれる監督でした。いろいろと対立しましたけど(笑)。

玉田 え、そうなんですか?

名良橋 はい、セレーゾとは対立しました。でも、監督としては、一番やりやすかったです。ピクシー(ストイコビッチ監督)と一緒でセレーゾもワールドカップに出場した名選手で、やっぱり一番印象強い指導者でしたね。
 
玉田 僕があと影響を受けた指導者は、習志野高校でお世話になった本田裕一郎先生。ストイコビッチ監督と一緒で愛がありました。

名良橋 実は僕、本田先生から習志野に誘われていたこともあって、個人的にもちょっとだけお世話になっているからこそ、監督としてはどんな指導者だったのか、教えてほしいです。

玉田 じゃあ、逆に聞きたいのですが、名良橋さんから見た本田先生はどういうイメージですか?

名良橋 僕は見た目でしか分からないので、あくまで見た目だけで言うと、怖い(笑)。あとは、一つひとつの言葉に重みがあるんだろうなと、すごく感じます。だからこそ、3年間、本田先生から指導を受けてどう感じたのか、玉田監督に聞きたいんです。

玉田 まず、僕は一回も怖いと思ったことはないですよ(笑)。あと、言葉にすごく重みがあるというのは同感です。そして、グラウンドにいると気が抜けない。怒られるわけではないのに、そういう大きな存在。

名良橋 いるだけでオーラがあると(笑)。

玉田 たとえば、朝練で最初に「今日いないなぁ」と分かりリラックスしていると(笑)、本田先生が途中から車でグラウンドに来る。ブーンと聞こえただけで、練習の雰囲気がピリッと締まるんです。しかも車はジャガー(笑)。

名良橋 じゃあ、ジャガーが目に入っただけで...。

玉田 「あー、来た来た」って(笑)。勘違いしてもらいたくないのは、やることは変わらないし、怖いオーラを醸し出すなかにも愛情をすごく感じる。でも、やっぱりなぜかちょっと気持ちが締まる。実際に言葉で言われたわけではないですが、「お前ら可愛いな。俺が面倒みるから、お前らサッカーに集中して頑張れよ」みたいなオーラをすごく出してくれた。今振り返ると、カッコ良い大人だったんだなと思います。
 
名良橋 他に印象深い指導者はいますか?

玉田 習志野は市立船橋と近いので、当時に市船を率いていた布啓一郎先生は相手として嫌でしたね。何度も対戦したなかで10回中1回くらいしか勝てなかったから、勝てないというオーラを醸し出しているような。

名良橋 いろんな指導者から影響を受け、監督としてはいきなりインターハイを制覇した今、玉田監督の指導者としての今後の目標は何ですか?

玉田 もちろん再び頂点を目ざしますが、僕はトップを狙うためだけにサッカーをするのが、すごく嫌なんです。優勝できましたが、インターハイでも、この考えは変わらずに指導してきました。なので、これからも見ていて楽しい、もしくは昌平でサッカーをしたいと思う子どもが増えてくれるよう、面白いサッカーを構築したいですね。あとは、選手の成長にもフォーカスしていきたいです。

<番外編に続く>

構成●志水麗鑑(フリーライター)

PROFILE 
玉田圭司(たまだ・けいじ)/80年4月11日生まれ、千葉県出身。高校時代は習志野高でプレーし、プロ入り後は柏や名古屋などで活躍した元日本代表FW。2006年のドイツ・ワールドカップではブラジル戦でゴールを決めた。2021年に現役を引退し、2023年から昌平でコーチを務め、2024年からは監督に就任。同年8月にはチームをインターハイ優勝に導いた。

名良橋晃(ならはし・あきら)/71年11月26日生まれ、千葉県出身。高校時代は千葉英和高でプレーし、プロ入り後は平塚(現湘南)や鹿島などで活躍した元日本代表の右SB。98年にはフランス・ワールドカップに出場した。現在はJSPORTSで放送されている『Foot!』で、高校年代の大会や選手を紹介する木曜日のコメンテーターを務めている。