(※写真はイメージです/PIXTA)

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夫に先立たれた78歳のAさん。自分が亡くなった後に子どもに迷惑をかけないよう生きている間に自宅を売却し、老後資金として活用しようと考えていますが、売却した後に高齢者が賃貸に住めるのかが不安に感じています。今回は自分が亡くなった後に誰も住む予定のない家の活用方法について、住宅ローンアドバイザーでCFPの資格を持つ新井智美さんが解説します。

自宅を売ったはいいけれど、賃貸住宅を契約できるか不安

78歳のAさんは夫に先立たれ、夫と住んでいた家に1人で住み続けています。子どもは2人いるものの、どちらも独立し、現在の勤務地近くに家を購入し住んでいるため、Aさんが亡くなったあとの家に住む予定はないとのこと。

そこでAさんは自分が亡くなったあとの家の処分で子どもたちが困ることのないように、生前に売却して賃貸に住み、残った売却資金は老後生活費に充てようと考え始めました。

しかし、高齢者の1人暮らしを嫌がる貸主もおり、いざ賃貸住宅を探す際に契約できるのかを不安に感じています。

選択肢の一つとして…「UR賃貸」

確かに老人の1人暮らしについては、主な収入が年金のみになるため、賃貸契約を結ぶ際には保証人を求められるなどスムーズに契約が進まないケースが話題になっており、気になっている人もいるのではないでしょうか。しかし、最近では老人向けの賃貸住宅を積極的に運営する会社も増えています。

その一例が「UR賃貸」です。

「UR賃貸」は礼金や仲介手数料のほか、更新料や保証人不要で借りられる賃貸住宅で、高齢者向けの賃貸住宅も用意されています。

特に高齢者向け優良賃貸住宅はバリアフリー設計で高齢者でも住みやすい作りになっているのはもちろんのこと、所得が一定以下の人に帯しては家賃の一部を負担してもらえる制度が用意されています。ここでいう高齢者とは60歳以上を指し、申し込み資格である収入基準も高齢者に対しては緩和されるなど、高齢者が申し込みやすい点は大きな魅力でしょう。

また、有料ではあるものの、URが提携している事業者が行う見守りサービスも利用できることも大きな安心につながるのではないでしょうか。

提供している地域が限られているものの、自宅を手放したあとに住む賃貸住宅を探しているなら、「UR賃貸」を1度検討してみることをおすすめします。

最近よく聞く「リバースモーゲージ」「リースバック」とは?

さらに、自宅を活用して老後資金を得る方法もあります。

1つは「リバースモーゲージ」といわれるもので、自宅を担保として金融機関からお金を借り、自分が亡くなったあとは自宅を処分して返済する仕組みです。生きているうちは利息のみを支払えばいい点が特徴ですが、物件の価値次第では死ぬまでに借り入れた金額を使い果たしてしまう可能性があります。また、生きている間に家や土地の価値が下がった場合、借入限度額が見直される点に注意が必要です。そのときには子どもに迷惑をかけてしまうかもしれません。

ただ、リバースモーゲージには種類があり、生存中に借入限度額が見直されて自宅を売却しただけでは借入残債を返済できない場合でも相続人が返済の負担を受けずに済むノンリコース型を選ぶことで、子どもたちに迷惑をかけたくないというAさんの願いをかなえられます。

もう1つは「リースバック」といわれるもので、リースバック業者に自宅を売却し、売却したあともリースバック業者に賃料を払うことで売った自宅に住み続けられる仕組みです。売却した後も自宅に住み続けられる点は大きな魅力ですが、自宅の所有権はリースバック業者に移るため、自分で勝手にリフォームするなどといったことはできません。売却後は賃借人としての立場に変わることを意識しておく必要があります。

リースバックを利用する際の注意点は、売却価格が相場よりも低くなりやすく、また賃料は相場よりも高くなりやすい点や、リースバック業者によっては賃貸として住める期間が限定されているケースがあることです。賃貸期間が終了したら家を明け渡す必要があり、その後の住まいをまた考えなければなりません。そのため、賃貸期間が決まっている場合は今後有料老人ホームなどに入ることを希望しており、入居資金と入居先を探すまでの時間を必要としている人に向いています。

どちらも自宅に住みながら老後資金を得られる方法ではありますが、リバースモーゲージは基本的にマンションには適用されない点や、自分が亡くなった後に自宅の処分が必要になる点を覚えておかなければなりません。

残される家族とコミュニケーションを

Aさんには生きているうちに自宅を売却して、新しく賃貸住宅に住む方法以外にも、自宅の価値を利用してまとまった資金を得る方法などさまざまな選択肢があります。ただ、どれを選ぶかについては、相続の問題や老後に介護状態になった際にはどうするのかといった細かいことまで視野に入れて考えることが大切です。

自宅を生前に売却する際には、1度子どもたちとじっくりと話し合い、最終的にどうするかを決めるようにしましょう。子どもたちなど、残される家族の立場の人が「そんなの聞いていなかった」とならないためにも、まずはきちんとコミュニケーションをとることをおすすめします。

新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP