【F1】角田裕毅「タイムを削る余地が広がった」 超高速モンツァの大型リノベによって勢力図に変化あり?
悔しい結果に終わったオランダGPから4日──。RBと角田裕毅はイタリアGPの舞台モンツァにやってきた。
連日30度を超える暑さと強い陽射しの下で、角田はすでに先週の悔しさを消化し、スッキリとした気持ちでこの週末に臨んでいた。
モンツァのコースを下見する角田裕毅 photo by BOOZY
オランダGPでの2ストップ作戦は失敗に終わった。だが、土曜夜の豪雨でタイヤのデグラデーション(性能低下)が大きければ、2ストップ作戦が大成功に終わった可能性もあった。
周りと同じ1ストップ作戦で前の2台を抜ける可能性はほぼないのだから、入賞を狙うために2ストップ作戦でタイヤ差を生かして抜くことに賭けた。デグラデーションが大きければ1ストップ勢とのタイヤ差は大きくなり、成功の可能性はさらに大きくなるはずだった。
「レース前から2ストップ作戦がうまくいくかどうかは、50/50だということはわかっていました。デグラデーション次第だったんです。だから(ダニエル・リカルド車と)2台で戦略を分けたんですけど、残念ながら2ストップ作戦はうまく機能しなかったということです」
デグラデーションが予想に反して小さく、2ストップ作戦のメリットは小さくなってしまった。それに加えてピットインのタイミングも遅れ、理想的な2ストップ作戦の遂行すらできなかった。
しかし、その戦略ミスはすでに見直し、成長へとつなげている。
「レース後のストラテジスト(戦略担当者)が申し訳なさそうというか(苦笑)、悔しそうな顔を見れば十分ですし、チームもわかっていることなので僕から言うことはないですね。あそこまでのミスはよくないですけど、そこから学べたこともあります。逆に今年これまで何度も戦略に助けられたこともあったので、今回の失敗から学んで成長して次に進むだけです」
2ストップ作戦はチームがギャンブル的な戦略を角田に押しつけたのではなく、あくまで入賞を狙うための方策として角田がチームとともに選んだ戦略だ。それゆえ、成功も失敗も、そしてそこからの修正と成長も、チームとしてすべてを共有する。
【新担当エンジニアは「とてもいい奴」】角田がそう言ったのには、もうひとつ理由がある。
あのオランダGPが、2021年のF1デビューから3年半にわたって苦楽をともにしてきた担当レースエンジニアのマティア・スピニと戦う最後のレースだったからだ。
「これまで4年間一緒にやってきたマティアは上級エンジニアのポジションに昇格して、新しいレースエンジニアに代わります。僕らは2021年からいろんなアップ&ダウンを経験しながら兄弟のような関係で一緒に成長してきたので、彼の昇格はとてもうれしく思っています」
今年のチーム体制強化のなかで、本来なら開幕時点からチーフエンジニアに昇格する予定だった。しかし、角田からお願いするかたちで半年間の猶予をもらい、スピニと仕事を続けながら新担当のエルネスト・デジデリオとの関係値を築いていったという経緯があった。
「僕のリクエストでシーズン前半はマティアとやらせてもらって、後任のエンジニアに僕らがどういうことをやっているか、僕がフィーリングの度合いを1ステップとか2ステップと表わす時にどのくらいの感覚で言っているのか、といったことを学んでもらう時間を作りました。
アーニー(エルネスト・デジデリオ)は今年から入ってきたメンバーです。すでにいくつかの(FP1)セッションで一緒にやりましたし、才能があってとてもいい奴です。やる気も満々ですし、楽しみですね」
F1カレンダー屈指の超高速サーキットのモンツァにおいて、RBは苦戦を強いられそうだ。ストレートに滅法強いハースも、今年はこれまで用意していなかったモンツァ専用リアウイングを持ち込んで入賞を狙ってくる。
しかしRBも、ドラッギー(空気抵抗が大きいマシン特性)で最高速不足に苦しんだ昨年でさえ予選11位・12位に入っていた。薄いウイングで走るからこそ、コーナーではRBのメカニカル性能のよさが優位性をもたらすとも言える。
それに加えて、今年のモンツァは大型リノベーション計画の一環として路面が全面新舗装となり、路面特性が変わっている。新舗装ゆえグリップが上がり、路面の黒さのために路面温度も上がることが予想される。
そしてアスカリ・シケイン(※)などの縁石も低くなった。その結果、実質的に使えるコース幅がワイドでコーナーのR(湾曲率)も緩やかになる。
※アスカリ・シケイン=1950年代に活躍したイタリアの名レーサー、アルベルト・アスカリが事故死した場所。
【第2の地元レースで再びチームを鼓舞】こうした未知の要素が、今までとは違った勢力図を呼ぶ可能性もある。
「特にアスカリ・シケインはフラットになっていて、これまでとは完全に別物のコーナーになった。ドライバーはタイムを削る余地が広がったと思います。たとえばアスカリのひとつ目の縁石はアグレッシブに使える。
今週末は、そこにうまく対処したチームがアドバンテージを得ることになると思います。モンツァはどのチームもよく知り尽くしているサーキットですけど、今年はどのチームもどんなマシン挙動になるか未知数のまま迎えるので、エキサイティングですね」(角田)
チームにとってモンツァは、イモラに次いで第2の地元レース。ハンガリーGP以来ポイントから遠ざかっているだけに、ここで入賞を果たす意味の大きさを角田は意識している。
チームの一員として、チームのために、何が大切なのかを考えている。
「もちろん、ポイントを目指して戦います。ポイントが獲れればチームの雰囲気もよくなりますし、やっぱりモチベーションで変わるので。オランダがああいうレースだったからこそ、今回はQ3を目指してポイントを獲りにいきたいなと思います」
RBの中心的存在として結果を出して引っ張ってきた角田が、苦しい状況にあるシーズン中盤戦、再びチームを鼓舞しようとしている。苦しい局面こそ、そこにもたらす成果はチームにとって大きな光明になる。
新体制で迎えるシーズン後半戦に向けて、角田の奮戦が光る週末になりそうだ。