【木村 隆志】なぜ『水ダウ』は”最終回詐欺”でも怒られないのか…松本人志不在でも揺るがない「絶対的な信頼」の理由

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次号予告から1週間かけた仕掛け

21日夜、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)が放送され、ネット上を大いに騒がせた。

簡単に言うと“最終回詐欺”を行ったのだが、批判はほとんどなかったと言っていいだろう。逆に「面白かった」「めっちゃ笑った」「終わらなくてよかった」などの好意的な声が大半を占めていた。

あらためて振り返ると、制作サイドは前回14日放送後の次回予告で「番組から大切なお知らせ」と掲げたあとプレゼンター・小籔千豊の声が消され、口の動きと出演者の「えっ?」「ホント?」というリアクションで最終回をにおわせてネット上をザワつかせた。

「嫌だ!やめるな!」「無くならないで!」「恐怖でしかない」「説だと信じよう」などと本気で心配する人から、「説」だと確信する人。さらに「放送曜日の変更で『水曜日のダウンタウン』としては最終回」「放送10周年記念のイベント」「最終回っぽく言えば視聴率が上がる説」「『最終回でございます』の最初の“さ”と最後の“す”さえ合っていたら勘違いする説」など大喜利のようにオチを予想する人もいて盛り上がっていた。

何かとクレームを受けやすく、特にテレビ番組は何かと批判され、BPOをチラつかせて脅すようなコメントもある時代であるにもかかわらず、なぜ『水曜日のダウンタウン』は「詐欺」ギリギリの企画・演出を仕掛け、それが支持されるのか。

『水ダウ』は詐欺企画の前科アリ

最終回をにおわせたXの投稿には500超のコメントが書き込まれたが、最も多かったのは「来週の答えが待ち遠しい」という期待の声。しかも約2万もの「いいね」が押されていた。

さらに、ある投稿のアンケートでは約5万1000票中「最終回だと思う」が約18%、「最終回ドッキリだと思う」が約82%。これは「最終回ドッキリだと思いたい」という願望込みの数字だが、視聴者から信頼を集めている証と言っていいだろう。

実際、目立っていたのは批判どころか「この機会に番組への愛を示そう」というニュアンスのコメント。「コンプラギリギリ攻めてておもしろいと思える数少ない地上波番組、終わらんといてほしい」「水ダウは1番楽しみにしている番組だから、絶対に終わって欲しくない」「きっとなにかの説だろうな。まんまと踊らされたと、早く安心したい」など愛情たっぷりの声が見られた。

しかし、そこは『水曜日のダウンタウン』だけに一筋縄ではいかない。放送当日の午後、演出の藤井健太郎は自身のXに「お騒がせしてスミマセン。ただ、秋で番組終了の話、業界関係者にはかなり前から噂が広まってしまっていたので…」と意味深な投稿。放送までに約1500万回の表示、約1900件のコメントを記録し、それまでの楽観的なムードが吹き飛んだかのような不安の声が殺到していた。

けっきょく放送されたのは「『水曜日のダウンタウン』終了デマ拡散王決定戦」。最終回ではなかったのだが、現在放送中のバラエティでこれほど愛されている番組があるだろうか。

ただ、今回のような嘘の次回予告には前科がある。昨年9月6日放送の「番宣CMでダウンタウンがガッツリ泣いてたら流石に視聴率爆上がり説」も視聴者に肩すかしするような良い意味での詐欺企画だった。

また、今年3月13日・20日にも、「清春の新曲 歌詞を全て書き起こせるまで脱出できない生活」をほぼ同じ内容で2週連続放送。その理由を「年度末で番組予算が底をついたため」と明かしつつ、「実は7か所を変えて間違い探しクイズにして正解者にプレゼントを贈る」という少しの工夫をしていた。

一見、「何だよ!」「ふざけるな!」と怒られそうなものだが、むしろ視聴者は悪ふざけのような企画を楽しんでいる。実際、2度目の放送中、ネット上は「これは何かあるはず」「もしかしたら間違い探しでは?」などと予想して盛り上がっていた。

“説”で勝負を貫くことへの信頼感

そもそも「次回予告の裏切り」や「2週連続ほぼ同じ内容」が好意的に受け入れられたのは、「ふだんの放送が面白い」という前提があるからだろう。

水曜日のダウンタウン』は、「芸能人・有名人たちが自分だけが信じる“説”を独自の切り口でプレゼンし、VTRやスタジオトークで検証する」という構成・演出の番組。メインは週替わりの企画であり、「毎回いかに面白い切り口の“説”で視聴者を楽しませていくか」を追求している。

しかし、「制作サイドが考える週替わりの企画で勝負する」というコンセプトはどうしても当たり外れが生まれやすく、長年テレビ業界では「安定した結果を得ることや長年継続していくことは難しい」と言われてきた。その点、『水曜日のダウンタウン』は2014年春のスタートからさまざまな切り口の企画で視聴者を飽きさせることなく、“説”で勝負し続けている。

基本的にドラマのような最終回がないバラエティは、視聴率が下がるとクイズやゲームなどのわかりやすいコーナーを取り入れるなど、内容を大きく変えてテコ入れを図るが、けっきょく長続きせず終了するケース多い。だからこそ“説”で勝負を貫く『水曜日のダウンタウン』は支持されているのだろう。

さらに、週替わりの企画で挑んでいるからこそ、時に笑いだけでなく感動が共存した名作が生まれるのも面白いところ。事実、「徳川慶喜を生で見た事がある人 まだギリこの世にいる説」「先生のモノマネ プロがやったら死ぬほど子供にウケる説」「新元号を当てるまで脱出できない生活」「おぼん・こぼん THE FINAL」「昭和はむちゃくちゃだった系の映像、全部ウソでもZ世代は気付かない説」はギャラクシー賞 月間賞を受賞した。

今回の最終回詐欺も、やはりこれらの企画との振り幅があるから、より「こっちも面白い」と感じやすいのではないか。時に問題を起こすこともあるが、その企画力は他の追随を許さず、他番組やYouTubeチャンネルがマネできないレベルを保っていることが視聴者との信頼関係につながっている。

配信再生数はバラエティ断トツ

制作サイドにとってはここ数年間、週替わりの企画・演出に集中できるいくつかの追い風があった。

その最たるものが配信再生数。1年前の昨年8月16日、同番組が「TVer史上初となる累計再生回数1億回を突破した」ことが明らかになった。初配信の2020年12月16日から約2年半あまりで1億回に到達し、さらに「TVerアワード」の開始から3年連続で「バラエティ大賞」を受賞している。

つまり「配信ではバラエティ断トツの実績」ということであり、ユーザーの中核を占め、民放各局が最も求めるコア層(主に13〜49歳)の支持を得ている証と言っていいだろう。

再生回数1億回突破の際、藤井健太郎は「TVerのこういった数字が評価の対象となることで、純粋な面白さを追求しやすくなりますし、そうすることで、視聴者の方々とも以前より Win-Win の関係に近づけている気がします」などとコメントしていた。すでにWin-Winの関係だからこそ、今回の最終回詐欺は好意的に受け止められたのではないか。

ただそんな『水曜日のダウンタウン』も当初から順風満帆だったわけではない。お笑いフリークを中心に評判こそよかったものの、2010年代は時代錯誤な世帯視聴率をベースにした「低視聴率報道」に悩まされ続けていた。

当時は「スポンサー受けのいいコア層の個人視聴率が獲れていればOK」という営業上の評価基準を理解していないメディアが多く、打ち切り説などの辛らつな記事を報じて足を引っ張られていた。しかし、2020年代に入ってコア層という評価基準がようやく理解され、配信再生数という指標も浸透したことで状況は一変。正当な評価を得られるようになり、一躍バラエティのトップというポジションに登り詰めた。

視聴者が嫌がる演出はやらない

その他、「CMをまたいで同じ映像を流す」「大げさなあおり映像を繰り返し見せる」などの視聴者が嫌うことをしない制作姿勢も、『水曜日のダウンタウン』が支持を集める理由の1つ。これは「みなさんが嫌がる演出はやりませんよ」という制作サイドからのメッセージであり、やはり番組と視聴者の信頼関係を物語っている。

現在100を超えるバラエティが放送されているが、その大半は、グルメ、クイズ、カラオケ、生活情報、時事などの手堅く視聴率を稼ぐような企画。『水曜日のダウンタウン』のような純粋な面白さを追求したものは少なく、際立って見えるのは当然かもしれない。

「週替わりの企画重視」という視聴者ファーストの制作スタンスだから、松本人志が不在でもほとんど影響がなく、ファンですら「彼がいないから『水ダウ』は見ない」という人は少ないだろう。むしろ「松本より藤井健太郎をはじめとするスタッフが変わったら見ない」という視聴者のほうがが多いような気がしてならない。

今回の放送では、「最終回詐欺という禁断のような企画を使いながら、視聴者との信頼関係はさらに強くなった」という感があった。「バラエティ断トツというポジションはますます安泰になった」と言っていいのではないか。

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