「令和のコメ騒動」の真相に迫る

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 ここ数か月、国内では米が手に入りにくい状況が続いている。実際、都内のあるスーパーを訪れると、コメ売り場には「お1人様1袋まで」の注意書きが。別のドラッグストアでは「売り切れ」の札が立てられていた。まだ探せば手に入るものの、足元では販売価格もじわじわと上昇中。一部では「インバウンドの外国人観光客が米を食べまくっているからだ」という“珍説”まで飛び出したが、このままでは本当に「令和の米騒動」に――? 農林水産省に見解を聞いた。

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【グラフを見る】落ち続けていたコメの消費量が増加に転じた理由は

近年では最も少ない在庫量に

 農林水産省が7月30日におこなった「食料・農業・農村政策審議会食糧部会」でも、米の需給バランスや価格の推移が議題になった。

「令和のコメ騒動」の真相に迫る

 その最新資料を見ると、今年の“コメ事情”の様子が見えてくる。

 米の“年度”は収穫期に合わせ、毎年7月から翌年6月末の期間を1年と区切っている。資料によると、米の民間在庫量は2024年の速報値で156万トン。去年の197万トンから41万トン減少したことになる。この在庫量は2008年の161万トン以降で最も少なく、「コメ不足」は数字上も裏付けられているようだ。

「ただ、人口減少などの要因もあり、米の需要量は減少傾向ですので、単純な在庫量だけで比較するのではなく、“需要量との比率”にも着目して欲しい」

 そう解説するのは、農林水産省で米の需給や価格の安定化、備蓄運営などを担う農産局企画課の担当者だ。

「今年の速報値156万トンは、需要量との比率では22.2%となります。前年の28.4%や一昨年の31.0%と比較すれば低い数字であるのは事実ですが、“特異”と言えるほどの数字ではありません。近い水準だったのは2011年の22.0%や2012年の22.1%です。東日本大震災の影響で一時的に在庫状況のひっ迫はあったかも知れませんが、当時も年間を通じて米が不足するという状況ではありませんでした」(担当者)

 現在とは統計方法が異なり、正確な数字は残っていないが、1995年の「平成の米騒動」では、この需要量との比率が10%を切るような事態が起きていたという。南海トラフ地震を警戒しての買いだめの動きも見られるとはいえ、当時と現在の状況をなぞらえるのは早計だと指摘するのだ。

「インバウンド外国人観光客が食べまくっている説」は本当?

 坂本哲志農林水産大臣も6月14日の記者会見で

「現時点で主食用のコメの需給がひっ迫している状況ではない。消費者は安心してほしい」

 と冷静な対応を呼びかけたが、気になるデータもある。

 先の7月30日の部会資料によると、2024年の需要実績値は702万トンと、前年の691万トンを上回っているのだ。人口減少、和食離れなどで米の需要量は減少傾向にあったのでは――?

「これは物価高騰の影響があったと考えています。ここ数年、小麦や麺の販売価格が上昇していますが、昨年末あたりまで、米はそれらと比べるとまだ値ごろ感があった。消費者が相対的に買いやすいお米にシフトしたと分析しています」(農林水産省の担当者)

「インバウンド外国人観光客が食べまくっている説」についても尋ねてみた。

「推計値ですが、“インバウンドによる米の需要増に係る試算”というデータも出しています。訪日外国人観光客は前年比で2.3倍の3212万人で、平均泊数も前年の8.8泊から10.1泊に伸びています。ここから先はあくまで推計値ですが、仮に外国人観光客が1日2食お米を食べて、大柄な人が多いのでカロリーベースで日本人の1.2倍の消費があるとします。するとインバウンドによる米の消費量は前年の1.9万トンから3.1万トン増えて、5.1万トンに増えたという計算になります」(同)

 率にして約63%アップ。珍説かと思われた「インバウンド説」もあながち間違いではなかったか。

「ただ、全体の消費量702万トンに占める割合で言うと、需給状況全体に大きな影響を与えるものではないと考えます」(同)

気になる今後の見通しは

 では、今後の状況はどうなるのだろうか。

「実は、お米の需給は今がちょうど端境期なんです。お米は年に1回しか獲れませんから、収穫期の直前はどうしても薄くなりがち。ただ、宮崎県や鹿児島県で取れる早期米のコシヒカリが既に市場に出回り始めていますし、高知県や福島県、三重県の収穫の早いお米もそろそろ出始める頃。8月中には生産量の多い千葉県の新米も供給されます。私も職業柄スーパーのお米売り場はチェックしていまして、確かに一部で品薄状況にあるのは事実だと思いますが、早期米の供給が始まることで、状況は改善していくはずです」(農林水産省の担当者)

 また、旺盛な消費を背景に今年収穫される米の作付け量も増加が見込まれているそう。

「ここしばらくは“お米あまり”の年が何年か続いていて、農家の方々も作付けを減らしてきた背景がありますが、今年は全体で見ると作付け量が増加傾向ですし、今のところ生育状況も良好と聞いています」(同)

 在庫量で示される数字は、全て精米前の玄米での値とのこと。昨年は収穫量こそ多かったものの、猛暑などの影響で精米できる比率も低かったそうだが、今年収穫された米は今のところそういった心配もなさそうだという。

 作付けを増やしてくれた農家の皆さんに感謝し、たくさん新米を頬張りたい。

デイリー新潮編集部