甲子園初出場で初戦勝利を掴んだ「新潟産大付」(新潟産業大学附属高等学校のXより)

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 夏の甲子園は、強豪校が早々に敗退する“波乱”が起きた。選抜優勝の健大高崎(群馬)が2回戦で智弁学園(奈良)に惜敗したほか、準優勝の報徳学園(兵庫)は初戦で大社(島根)に3対1で敗れた。その一方、春夏通じて初出場の新潟産大付(新潟)が、聖地に“新たな風”を吹き込んだ。【西尾典文/野球ライター】

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前評判を覆した勝利

 新潟産大付の野球部は、1959年の創部。長い歴史はあるものの、甲子園出場には恵まれなかった。転機を迎えたのは、2016年12月。新潟県柏崎市にある中学硬式野球チーム「柏崎リトルシニア」を18回も全国大会に導いた吉野公浩監督が就任したことだ。チームは着実に力をつけて、夏の新潟大会は、新潟明訓や日本文理、中越、帝京長岡と県内の強豪校を次々と破り、ついに甲子園への切符をつかんだ。

甲子園初出場で初戦勝利を掴んだ「新潟産大付」(新潟産業大学附属高等学校のXより)

 甲子園の初戦、相手は2017年夏に全国制覇を達成した花咲徳栄(埼玉)。プロ注目のショート、石塚裕惺や、最速148キロを誇るエースの上原堆我(いずれも3年)を擁する同校は、優勝候補の一角にあがっていた。

 メディアやファンの多くが“花咲有利”と予想していたが、新潟産大付は、前評判を覆す戦いを見せる。

 2回に先制を許した新潟産大付は、6回に7番・千野虹輝(3年)のタイムリーツーベースで同点に追いつく。さらに、7回。4番・多田大樹(3年)のタイムリーで勝ち越しに成功する。

 守っては、エースの宮田塁翔(3年)が5回を1失点、リリーフの田中拓朗(3年)は4回を無失点と好投。見事な継投で、甲子園初勝利を飾った。

「夢の中にいるよう。甲子園での勝利は、本当に感動があり、選手たちと一緒に校歌を歌えた気分は最高だった」(吉野監督)

あえての“先攻”

 ただ、今回の勝利は、「偶然の産物」ではない。花咲徳栄を倒すため、周到な準備があったのだ。

 吉野監督は、あえて“先攻”を選ぶ作戦を立てていた。高校野球では、試合前のじゃんけんで先攻と後攻を決めるが、勝った場合は、有利な後攻を選ぶケースが多い。

 しかし、吉野監督は、それを選択しなかった。

「初出場で、いきなりピッチャーが“守り”から入るのは厳しいと思っていました。花咲徳栄さんは、初回の得点が多いですし、いきなり失点したら、相手のペースになる。花咲徳栄さんも、先攻をとりたがるチームと聞いていましたので、キャプテンから先攻と聞いた時に、じゃんけんで勝ったのだと。“よし!”と思いました」(吉野監督)

 朝日新聞の報道によれば、花咲徳栄は、「試合前のじゃんけんに勝てば、必ず先攻をとって、プレッシャーをかける」という方針があったという。夏の埼玉大会では、6試合で先攻、すべての試合で先制し、そのまま逃げ切っている。

 吉野監督は、先攻をとることで、花咲徳栄に主導権を握らせない狙いがあった。先発の宮田は、初回の攻撃をファーストライナー、サードゴロ、ライトフライと三者凡退に抑えて、上々の立ち上がりを見せた。

打って守っての大活躍

 さらに、勝利を手繰り寄せたのは、相手打線をわずか1点に抑え込んだことだ。花咲徳栄は、埼玉大会の7試合で63得点をあげた強力打線だ。

 これを7安打、1失点に抑えた新潟産大付投手陣の健闘が光った。彼らを好リードした、捕手の堀田温斗(3年)は、以下のように話す。

「どんなバッターがいて、どこへの打球が多いかなどを(埼玉大会の)動画を見て研究して、配球を考えました。特に気をつけていたのは、(4番の)石塚選手と、(3番の)生田目(奏)選手です。石塚選手には(先発の)宮田が意識し過ぎてしまってか、最初の打席では少し甘く入って打たれてしまいましたが、その後(の打席)は、狙い通り抑えられたと思います。(2番手の)田中は、少しナチュラルにストレートがシュートして、まっすぐ来ない特徴があります。それを考えて、低めでゴロを打たせようと考えていた。その通りに投げてくれました」

 堀田には、もうひとつ“ビッグプレー”があった。0対1で迎えた5回裏、ツーアウト一・三塁の場面だ。

 花咲徳栄は、一塁走者がスタートを切り、捕手の送球の間に三塁走者があわよくば、ホームを狙うプレーを見せてきた。それに対して、堀田は、見事な二塁送球でアウトにして、大きなピンチを凌いだ。ここで、新潟産大付が追加点を奪われていれば、かなり苦しい展開となったはずだ。

塁上での好プレーも勝利を後押し

 一方、攻撃面では、機動力が威力を発揮する。

 チーム一の俊足で、トップバッターの戸嶋翔人(3年)が、3度出塁して、2度盗塁に成功した。

 7回、先頭打者の戸嶋は、ライトにヒットを放ち、すかさず二塁へ盗塁。その後、ツーアウト三塁から4番の多田大樹(3年)がレフトに勝ち越しタイムリー。これが決勝点となる。戸嶋以外の選手も、塁に出ると、常にスタートを切るような仕草を見せて、相手バッテリーに揺さぶりをかけていた。

 新潟産大付は、8月14日に行われた2回戦で、京都国際(京都)に0対4で敗れたが、6回までは相手打線を無失点に抑えて、全国レベルの強豪校を相手に最後まで接戦を演じている。

 プロが注目するようなレベルが高い選手がいなくても、夏の甲子園で互角に勝負できる―そんな“勇気”を全国のチームに与えた新潟産大付の戦いぶりだった。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部