元セクシー女優は“普通の仕事”に転職できるのか。過去を隠して面接に挑んだ結果――大反響・傑作選
◆拍子抜けした二度目の面接
いざ面接当日。いくらポジティブバカの私でも緊張はするし、うまくいかなかった時のことくらいは想像するので、必死に深呼吸を繰り返し精神を落ち着かせていた。
会社は自宅から15分程度の場所なのに、1時間以上も早く到着する始末。仕方がないのでカフェに入るが、余計な“待ち”の時間を作ってしまったことで、さらにソワソワしてくる。
その間「就活生はこんな緊張を何度も繰り返すのか? すごくない?」と急に全国の大学生を尊敬し始めるなど、意味の分からない考えがグルグルと頭の中を巡る。私はもともと緊張するシーンに強くないのだ。結局、頼んだ紅茶にほぼ手を付けられないまま、戦場へ向かう。
採用担当者は「女優」という経歴にも深く突っ込まず、シナリオスクールの件も「へぇ」という、うっすいリアクションを繰り返す。でっちあげた部分について細かく聞かれる覚悟をしていたので拍子抜けしてしまった。
いま思い返すと全体的に「へぇ」「はぁ」「ふん」のような感じで、この人たち私に興味ある? と心配になるくらい淡々としていたのである。
しかし、かといって嫌味ったらしい雰囲気でもない。シナリオが書けること、アルバイト歴や社会人として働いた過去があることなどを軽く確認され、30分もしないくらいでおしまい。早々にオフィス街を後にした。
◆祝・ニートからの脱却
面接から3日後、メールにて採用通知が届いた。私のどこが良かったのかも全然分からないし、シナリオ執筆ができれば誰でも良かったのかもしれない。というか、たぶんそうだと思う。
けれども、昼職の第一歩を踏み出せたことに大きな喜びを感じた。
オワコンスペックなナマケモノが、希望した職に就けるなどなんとも贅沢な話である。こうして約3か月のニート期間を終え、微妙な立ち位置のセクシー女優から昼職アルバイターへとレベルアップ(?)した。
こうして翌週から勤務開始となるわけだが、いざ働くことを想像するとさまざまな不安が襲い掛かる。そもそも週5日の連勤をアパレル以外で行った経験がないこと、土日休みが人生初なこと、満員電車にもう何年も乗ってないこと……。
これらはほんの些細な事柄かもしれない。しかし、私自身は世の中の「アタリマエ」から何年も離れてしまっている。
私はこれから一般の日常がやってくることに、一抹の不安を覚えていた……。
文/たかなし亜妖
【たかなし亜妖】
元セクシー女優のフリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ソーシャルゲームのシナリオライターを経て、フリーランスへと独立。WEBコラムから作品レビュー、同人作品やセクシービデオの脚本などあらゆる方面で活躍中。