明治大・高須大雅はカーブ復活で大躍進 「楽天の岸孝之選手みたいに...」変わらぬ理想像でブレなく成長中
今年の2月下旬、今秋ドラフト会議の目玉候補である宗山塁の取材で東京都府中市の明治大学野球部グラウンドを訪れた。
ふとブルペンを見た時、ある右投手のボールに釘づけになった。190センチを優に超える長身で、頭は小さく、手足が長い絵になるシルエット。指にかかったストレートは勢いよく捕手のミットを叩いた。縦に鋭く変化するボールも一級品だった。
明治大の大型右腕・高須大雅 photo by Kikuchi Takahiro
投手の名前は高須大雅。静岡高から進学し、今年で3年生になる。ブルペンでの投球練習を終えたあと声をかけると、高須はニッコリと笑ってこう応じた。
「中学生の時、取材してくれましたよね。お久しぶりです」
私は6年前、『中学野球太郎』という野球専門誌で高須と出会った。私が打者として、有望な中学生投手と真剣勝負する企画で対戦させてもらっていた。静岡県在住で雑誌『静岡高校野球』を刊行するライター・栗山司さんから「全国的には無名でも、とてつもないスケールですよ」と、磐田東中の高須を推薦してもらっていたのだ。
その年、中学野球界は未曽有の逸材フィーバーに沸いていた。中学3年生にして軟式球で最速150キロをマークしてしまった森木大智(高知中/現・阪神)を筆頭に、仙台育英秀光中の伊藤樹(現・早稲田大3年)、明徳義塾中の関戸康介(現・日本体育大3年)など、最速140キロを超えるハイレベルな投手が続出した。
だが、その時点での高須は身長183センチと上背はあったものの、最高球速は130キロ程度。全国大会での実績もなく、本人はいかにも頼りなさそうなムードだった。森木や伊藤ら同世代の好投手の話を振っても、高須は「動画で見たことがありますが、別世界だと思っています」と語っていた。
だが、打席内で対峙するなかで体感したのは、高須の底知れない潜在能力だった。球速は森木や伊藤らに及ばなくても、打者の手元で生きた好球質。さらに縦に大きく変化するカーブも見事だった。高須は自分の将来像について、「岸孝之さん(楽天)みたいなピッチャーになりたいです」と初々しく語っている。
静岡高に進学後は3年夏の甲子園にエースとして出場。球速は最速146キロまで伸びており、静岡大会では37イニングで無失点という無双ぶりだった。ただし、中学時代とは投球フォームが変わっており、目を惹いたカーブは投げられなくなっていた。
高須は当時を振り返る。
「高校で変化球の感覚がよくない時があって、カーブが投げられなくなって。ほとんど真っすぐとスライダーだけになっていました」
明治大に進学後も身長は伸びており、現在は193センチに達した。高須は「今も1年で1センチくらい伸びているので、身長が止まったかはわからないです」と笑う。
今春のリーグ開幕前の時点で、高須はわずかリーグ通算5登板で未勝利とほぼ実績のない投手だった。ところが、今年春のリーグ戦では一躍、明治大の主戦格となり、3勝1敗、防御率1.38(リーグ1位)をマークする。リーグ戦後には大学日本代表に選出され、飛躍のシーズンになった。
【大学3年になりカーブが復活】現在、体重は91キロまで増え、球速は最速153キロまで上がった。そんなたくましさ以上に驚きだったのは、高校で投げられなくなったはずのカーブが大学で復活していたことだ。高須は「新たにつくり直した」と言う。
「この冬にマスターした感じです。チームに浅利太門さん(4年)や石原勇輝さん(ヤクルト)といった、いいカーブを投げる先輩がいたので、その感覚を聞きながら参考にしました」
カーブは特殊な指先感覚を必要とする変化球だ。スライダーなどと比べると、習得に時間がかかるとされる。一度は失った感覚を一から再構築する作業は、「大変でした」と高須は振り返る。そして、ある感覚に行き着いた。
「1回、上に投げる感じで投げると、ボールが浮き上がってから落ちるカーブの軌道が出てきたんです」
カーブだけではない。フォークも大学進学後に動画サイトを参考に研究し、マスターしている。高須は「ピッチングの幅が広がった」と胸を張る。
中学時代には考えられないような成長ぶりなのではないか。そう尋ねると、高須は笑顔でこう答えた。
「中学の時は自分に自信がなくて、取材してもらえるほどのピッチャーじゃないと思っていましたから。高校、大学といい環境でやらせてもらったおかげで、今の自分がいるのかなと感じています」
今や大学日本代表として、中学時代に雲の上の存在だった伊藤と同じ「JAPAN」のユニホームに身を包んでいる。高須は「伊藤と同じところにいるなんて、あの時は想像もできませんでした」と感慨深そうに語った。
ただし、慢心はない。大学最高峰と言っていい明治大で、日々強烈な競争にさらされているからだ。高須は言う。
「明治は先輩も同期もみんなすごいピッチャーばかりですし、春のリーグで先発させてもらえたのも巡り合わせがよかっただけで、たまたまだと感じています。秋もこのままいけるとは思っていないので、もっと成長しないといけないと思います」
近未来の自分について、どんな理想像を描いているのか。そう尋ねると、高須はこう答えた。
「楽天の岸孝之選手みたいに、きれいで伸びる真っすぐを投げられればいいなと考えています。これからどこまで成長できるのかイメージはついていないんですけど、ドラフト1位でプロに入るのが今の目標です」
6年の歳月が経っても、高須の根源的な部分は変わっていなかった。だからこそ、肉体や感覚の変化が訪れても、高須は軸がブレることなく成長し続けたのだろう。
2025年のドラフト会議まで、あと1年あまり。高須大雅はどこまで大きな存在になっていくのだろうか。楽しみは膨らむばかりだ。