パリオリンピック 小久保玲央ブライアンは「ニュータイプ」歴代の日本代表GKとちょっと違う
パリオリンピックの1次リーグを首位突破した大岩ジャパン。過去に何度も苦しめられてきたパラグアイを5-0で下し、パラグアイよりもチームとしてクオリティを見せたマリにも勝ちきり、最後は欧州のなかでも激しいイスラエルを相手にメンバーを入れ替えながらも勝利と、内容・結果ともにこれ以上ない収穫を得てノックアウトステージに進むこととなった。
なかでも、3戦連続クリーンシートは目をみはる結果。GKが目立つのはいいことばかりではないはずだが、それでも「守護神・小久保玲央ブライアン、ここにあり」と示す3試合でもあった。
佐藤恵允(手前)とハグする小久保玲央ブライアン(奥) photo by Watanabe Koji
当然、ミックスゾーンでは大岩剛監督にも小久保に関する質問が投げかけられる。
「言うことないでしょう。彼に助けられているし、試合の流れを向こうに持っていかない。貢献度は高い。ただ、GKチームは特殊で、タイシ(野澤大志ブランドン)もマサト(佐々木雅士)もしっかり準備できているのが、レオ(小久保玲央ブライアン)に響いていると思う。チームとして共有したい」
指揮官は控え組の名前も挙げつつ、彼らの刺激で守護神がパフォーマンスを発揮できているとしている。
イスラエル戦は、間違いなく小久保が試合のリズムを作った。まずは7分にカウンターからのシュートを防ぎ、10分にはペナルティエリア内至近距離から打たれたが、これもキャッチ。この2本を食い止めたことで、流れを引き戻すことに成功した。
「この3戦、しっかり無失点で終われているし、(細谷)真大が結果を残している。うしろが固まれば、前線がこうやって決めてくれるんで、いい関係でできているのかなと思っています」(小久保)
堅守が得点につながることに、チームとしての手応えを得ている。
身長193cmの小久保は、これまで日本のGKの課題でもあったサイズをクリアしている。長身で手足が長く、守備範囲の広さは一目瞭然。ハイボールの安定感はこれまでの代表戦で感じたことがなかったと、あらためて気づかせてくれる。
【寡黙な荒木遼太郎もニヤリ】だが、その強みを活かすべく取り組んだのは「反応の部分」だという。
「浜野(征哉)GKコーチとそういうリアクションの練習はいつも取り入れていて、それが自分の結果として出たので、すごくうれしいです」
特に10分、MFオスカル・グローフに至近距離から打たれたシーン。ボックス内右から中央に短くパスをつないでから打たれたシュートをストップできたのは、その成果が出たという。
「マリ戦でも同じようなシーンがあったんですけど、ポジショニングを取るのがなかなか難しいなか、ああいうところはニアに寄っちゃうんですけど、みんながちゃんとコースを切ってくれているので、自分らしく反射神経で止められたのかなと思っています」
相手のショートパスに翻弄されることなく、落ち着いて止めた。
小久保が歴代の(五輪を含む)日本代表GKと少し違うのは、チームのムードメーカーであること。
たとえば、カタールワールドカップの権田修一、シュミット・ダニエル、川島永嗣は、練習熱心な職人気質。どちらかといえば真面目でいじられる側だったが、五輪チームの小久保は「試合以外でも、いい仕事をしてくれますよ」と、ふだんの取材では寡黙な荒木遼太郎もニヤリとしてしまうようなタイプだ。
細谷真生が決勝ゴールを決めたあとは、アシストした佐藤恵允のもとに駆け寄り、ハグをして身動きを取れなくした。公私ともに仲のいい佐藤が、これまでも苦しんでいたことを知っているため、「とてもうれしい」と話した。
一方の佐藤は、「水を飲みたいのに、デカい奴が来て」と苦笑い。ちなみに佐藤は小久保のマネをして同じ香水をつけているといい、「チームにそういう奴、けっこういるんですよ」と守護神のファッションリーダーぶりも暴露している。
また小久保は、ライバルとなる味方のGKたちへのリスペクトも忘れない。
このオフには鈴木彩艶と日本で会ったと語り、「ライバル関係をいろいろ言われるけれど、お互いがんばろう」と誓い合ったそうだ。「俺が俺がっていう気持ちはU-15の頃はあったけど、今は自然となくなって、ブランドンが試合に出ていても、雅士が試合に出ていても、彼らのためにがんばろうって思える」と話す、チームスピリットの男でもある。
彼がいるかぎり、この先の試合も安泰だと思ってしまう。だが、当の小久保は「スペインは一番やりたくなかった」と消極的なのは、ちょっと面白い。
GKにスポットが当たる試合は必ずしも守備がうまくいっているわけではないが、うまくいってもきっと目がいってしまう。ニュータイプGK──それが小久保玲央ブライアンだ。