パリオリンピックでサッカー日本代表はもはや優勝候補 チームを支えるGK小久保玲央ブライアン
初戦で南米の強豪を5−0で沈めたのに続き、今年3月の親善試合では1−3の完敗を喫していた難敵に痛快なリベンジ――。
パリ五輪グループリーグ第2戦でマリを1−0と下した日本は、通算成績を2連勝の勝ち点6とし、イスラエルとの第3戦を残して早くも決勝トーナメント進出を決めた。
出場国のなかで唯一オーバーエイジ枠を使わず、23歳以下の選手だけで今大会に臨むことになった日本だが、その不安を吹き飛ばすにとどまらず、一躍優勝候補に名乗りを挙げたと言っても大げさではないだろう。
しかしながら、マリとの一戦は、日本にとって決して楽なものではなかった。内容的に見れば、概ね優勢に試合を進めていたのは、マリだっただろう。
特に後半に入ってからは、日本は敵陣にボールを運べず、防戦を強いられる展開が長く続いた。マリがいくつかあった決定機のうちのひとつを決めていれば、勝敗が入れ替わっていたとしても不思議はない。
しかし、だからこそ、日本のゴール前に立ちはだかるこの男が、ひときわ頼もしく見えた。
日本の決勝トーナメント進出に大きく貢献した小久保玲央ブライアン photo by Naoki Morita/AFLO SPORT
小久保玲央ブライアンである。
あわや失点かという絶体絶命のピンチにも反応よく、ときに腕で、ときに足で、相手の鋭いシュートをことごとく防いだ。
試合終了間際に与えたPKにしても、小久保がセーブしたわけではなかったが、コースは完全に読んでいた。シュートが枠内に飛んでいれば、伸ばした右手にボールが触れていた可能性は高かったはずだ。
パラグアイとの初戦で、勝ち点3とともに得失点差+5という大きなアドバンテージを手にした日本にしてみれば、マリ戦は引き分けでもグループリーグ突破へ大きく前進することのできる試合だった。
つまり、無失点で抑えている限りは、得点が奪えなくても焦れる必要はない。
小久保のおかげでフィールドプレーヤーも攻め急ぐことがなく、落ちついて試合を進められた結果が、この勝利だったに違いない。
日本が優勝したU23アジアカップ(兼パリ五輪アジア最終予選)以来、小久保の存在感は増すばかりだ。
とはいえ、このチームが一昨年にU−21代表として立ち上げられて以降の活動を振り返ると、小久保は長らくサブGKという位置づけだったと言っていい。
なぜなら、このチームには現在A代表で正GKを務める鈴木彩艶がいたからだ。実際、公式戦、親善試合を問わず、このチームで最も多くの試合でゴールを守ってきたのは、鈴木彩だった。
しかし、そんな流れに変化が見えたのは、昨年6月のヨーロッパ遠征でのことである。流れの変化、というより、小久保の心境に変化があった、と言ったほうが適切なのかもしれない。
この遠征では、イングランド、オランダとの親善試合が組まれていたが、初戦のイングランド戦で先発GKを任されたのは、小久保だったのだ。
「はじめは(遠征に参加している3人のGKを)順番(に起用)なのかな、と思いましたけど、(大岩剛)監督から試合前日に『本当にプレーがよくなってきているから、おまえを先発に決めた』と言われました。イングランドに着いて4日間練習があったので、そのなかで監督にしっかりアピールして勝ち取ったのかな、と思っています」
小久保は当時、ポルトガルの名門、ベンフィカに所属するも、「(クラブとしては)試合数が多いなかで、自分としては出場機会が得られてない。この2年くらいはこういう厳しい時間が続いている」状況にあった。
だが、「そんなときでも大岩さんが気にしてくださっていたので、このチーム(代表)に対して自分もすごく思いはある」という小久保は、こんな言葉で胸の内を明かしていた。
「試合に出ていないとパフォーマンスはどんどん下がっていっちゃうので、代表(での活動)の機会は自分にとってプラスかな、と思う。今の自分にとっては、ベンフィカよりもこっちのほうが吸収するものがあるのかな、というのはあります」
そして、そのイングランド戦では、このチームで出場した試合としては初めて無失点に抑えられたことを、何より喜んでいた。
「ヨーロッパ遠征でたぶん(チームとしても)初めてで、守備陣としてはそこが本当にうれしいこと。2−0で残り15分になって、(それほど攻められるシーンがなく)シュートが飛んでこなくても集中力をきらさず、守りきろうと決めていました」
あれから、およそ1年。日本がパリ五輪という大舞台でも2試合連続無失点に抑えられているのは、小久保の存在があるからに他ならない。
「(ベンフィカで)試合に出られないと気持ちも落ちていったりするが、(代表の)浜野(征哉)コーチからも継続が大事と言われている。練習のなかでも、どれだけ試合の雰囲気を出せるか。それを継続してやることが、自分にとってプラスになっていくのかなと思います」
そんな悲壮とも言える決意の言葉を口にしていた小久保は、当然、はじめから正GKの座を約束されていたわけではない。現在の地位にしても、鈴木彩が招集外となったことで巡ってきた代役起用、という側面がないわけではないだろう。
しかし、今の小久保のパフォーマンスを見せられれば、その座は決して代役などではなく、自らの実力でつかんだものであることに、誰もが納得するはずだ。
頼もしき守護神が、日本に56年ぶりのメダルをもたらそうとしている。