パリオリンピックで連勝のサッカー男子 好調を支える要因と次戦以降につながるプレーとは
パリオリンピック男子サッカー、グループリーグ第2戦は、判定ならマリの勝ちと言われても仕方のない接戦だった。
日本が金メダル候補の本命なら、決勝トーナメント進出を喜ぶより、心配すべき試合内容になる。だが、日本の立ち位置はブックメーカー各社の大会前の予想によれば、全16チーム中の中位クラス(7、8、9番手)だ。初戦でパラグアイに5−0で勝利したことで上昇したが、それでもメダル圏内と言うわけではない。
逆にマリ初戦でイスラエルに引き分け、順位を8、9番手あたりに下げたものの、大会前の下馬評では日本を上回っていた。この一戦、負けられない戦いだったのはマリになる。パラグアイを撃破した日本の好調さをリスペクトしつつも、格上の意識を少なからず抱いていたはずだ。
日本にとって、ここで収めた1−0という結果は胸のすく痛快な勝利を意味している。GK小久保玲央ブライアンの2本のビッグセーブと、相手のシュートがバーやポストに当たるラッキー、さらには最終盤で日本が与えてしまったPKをマリが外すまさかの事態にも救われた。しかし、アップアップの勝利かと言えば、そうでもなかった。
筆者が得点シーン以外で最も気に入っているプレーは、相手のエース、シェイクナ・ドゥンビアがPKを外した直後のプレーだった。ゴールキックから藤田譲瑠チマの縦フィードを藤尾翔太が落とし、抜けだした三戸舜介が相手GKと1対1になったシーンだ。シュートはセーブされたが、日本に余力を感じるプレーだった。
5バックで守りを固め、クリンチで逃げきったわけではまったくない。今後への可能性をそこに感じることができた。次戦以降につながる1プレー、2プレーだった。
U−23マリ代表戦で決勝ゴールを決めた山本理人(中央) photo by JMPA
日本の布陣は初戦同様4−3−3で、スタメンは以下のとおりだった。
GK小久保、左SB大畑歩夢、右SB関根大輝、CB高井幸大、西尾輶矢、守備的MF藤田、インサイドハーフ荒木遼太郎、山本理人、左ウイング斉藤光毅、右ウイング山田楓喜、CF細谷真大。
【攻撃的サッカーが浸透している】初戦との入れ替わりは以下の3カ所だった。木村誠二→西尾、三戸→荒木、平河悠→山田。だが選手は代わっても、高い位置から積極的にボールを奪いにいく姿勢に変化はなかった。さらに言えば、時間が経過してもそれは維持された。
前から行くイメージが共有され、浸透しているのだ。選手は一定のイメージを描きながら、迷いなくそれを遂行できている。その前向きさがチャレンジャー精神と融合し、好ムードを醸し出すことに成功している。
試合は後半37分まで0−0で推移した。前半はどちらかと言えば、日本が攻め、マリが守る展開。後半はマリが攻め、日本が耐える展開だったが、精神的には常にいい勝負だった。どちらもパニックに陥ることがない、緊迫感の高い試合だった。
日本を支えたのは、高い位置からの守り、すなわち前向きなイメージに基づく攻撃的な姿勢だった。後半なかば過ぎ、マリの攻勢が強まると、日本は決定的とも言えるピンチを迎えた。そこで1点奪われていたらどうなっていたか、定かではない。ラッキーな要素に後押しされたことは確かながら、常にあるレベルのプレースタイルを日本はチームとして追求できていた。いいボールの奪い方、悪くないボールの奪われ方に、それは表れていた。
それは前々日、スペインと戦ったなでしこジャパンとは大違いだった。先制したものの同点に追いつかれると、すかさず後ろを固める5バックに変更。だが逆転弾を許すと今度は一転、4バックに戻した池田太監督の采配だ。そうした戦術の変更に、選手はついていくことができていたか。
選手は「守り」と言われれば後ろで構えることになる。4バックから5バックへの変更はそうした意味で行ないやすいが、その逆、低い位置で守っていたものをハイプレスに変更することは、難易度は上がる。筆者には机上の空論に映るのだ。
だが大岩采配にその手の不安はない。首尾一貫している。攻撃的サッカーが浸透している。試合の中で5バックに変更したり、4バックに戻したり......は、よほどのことがない限りなさそうだ。
【マリが犯した致命的なミス】そんな監督の信念が選手に浸透していることが、高次元で安定したペースで戦うことができている理由であり、それがこのチームの大きな魅力になっている。
日本が奪った決勝点は、相手ペースながら0−0で推移していた後半37分だった。相手の左SBフォデ・ドゥクレのフィードを、中盤で山本がカットしたことが発端だった。やってはいけない致命的なミスとはこのことで、好守はその瞬間、180度ひっくり返った。
この日の日本には見ることがなかった種類の致命的なミスを、マリは犯してしまった。緊張度の高い試合のなかで、マリの方が先に焦れたという印象だ。山本がパスカットしたボールを受けたのは細谷で、右のライン際に持ち出し、ハンドオフで相手を制しながら低重心のフォームでドリブルを開始した。まさにここぞとばかり、疾走した。駆け寄るマーカーひとりをきれいにかわし、深い位置から折り返すと、三戸がニアに飛び込んでいた。
三戸は潰れ役に終わったが、ファーサイドで受けた佐藤恵允がシュートに持ち込む。これをGKがセーブしたこぼれ球に反応したのが山本だった。パスカットしたその足で60メートル強を駆け上がり、自らフィニッシュに結びつけた。前向きな姿勢の産物である。
いつもどおり、CF細谷にボールは集まらなかった。日本が劣勢に陥った原因のひとつである。だが彼の、山本のパスを受けた後に見せた右サイドでの疾走は、ゴール前でのやや物足りないプレーを帳消しにする殊勲のアクションだった。いっそのこと「右ウイングで使えば」と言いたくなる、鮮やかな突破だった。
オーバーエイジのいない日本。ベスト8に進めば上出来と見ていたが、すでにそれは達成した。チャレンジャー精神と高い位置からいく姿勢で、この後も日本のサッカーを五輪の舞台でアピールしてほしいものである。