高木豊の前半戦総括 セ・リーグ編

 首位から4位までが3.5ゲーム差(7月21日時点、以下同)と大混戦のセ・リーグ。オールスターが終わったあとの後半戦でどんな動きを見せるのか。かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏が、セ・リーグ各チームの前半戦を総括。今後の展望と併せて語った。


前半戦を首位で折り返した巨人。高木氏は坂本の起用法についても言及した photo by Sankei Visual

【巨人】

 打線がつながりだしたのが大きいです。ホームランもある程度出はじめて点が取れるようになってきましたし、丸佳浩をはじめ、吉川尚輝、エリエ・ヘルナンデス、岡本和真、大城卓三らの調子が上向きです。ピッチャーは中継ぎがいいですね。大勢は戦列復帰して以降は抜群の投球をしていますし、投手力も安定しています。

 懸念点は、ショートの門脇誠や泉口友汰らが、自分がやるべきことをしっかり考えて野球をやっているのかどうか。また、内野の全ポジションをこなせる新外国人のココ・モンテスが入ってきますし、どう起用していくかが問題です。仮にうまく機能しなかった場合、悩みの種が増えることになります。もちろん戦力になれば万々歳ですし、うれしい悩みになればいいのですが......。

 それと、菅野智之は8勝(2敗)していますが、期待の大きさからするともう少しビシッと抑えてほしいところ。また、今季の戸郷翔征は安定感が物足らないですね。ほかにも、赤星優志など若手が先発の時には勝ち星を拾ってほしいといった課題はありますが、全体的に見れば、ショート以外はうまくチームが機能しているんじゃないですか。

 僕が考えているのは、3連戦のうちの2試合はショートに坂本勇人を起用し、1試合を若手に任せるということ。それなら坂本も体力的に持つと思うんです。坂本は、成績以外にも精神的支柱としてまだまだチームに必要な選手。坂本を含め、門脇、泉口、モンテスら内野陣をどう起用していくかが、今後のポイントになると思います。

【広島】

 先発投手陣が安定していることはポジティブな要素ですが、打てませんね。ただ、ジェイク・シャイナーが(7月17日の)DeNA戦で決勝の3ランを打ち、やっと結果を出しましたね。それも、難攻不落の東克樹を一発で沈めた価値ある本塁打でした。あれこそ、チームが待ち望んでいた勝ち方のひとつだったと思います。

 ずっと長打力不足で悩んでいたところで、助っ人のシャイナーがやっと打ってくれた。その試合以外はあまり打てていませんが、後半戦でも本塁打が出るようになれば、打線が活性化する可能性もあると思います。それと、混戦を抜け出すためには坂倉将吾もキーマンになると思います。坂倉がマスクをかぶった時の勝率を上げたり、バッティングを復調させるための起用も大事です。

 今の打線でやってくれそうなのは小園海斗しかいないんです。秋山翔吾や野間峻祥もいい働きをする時がありますが、やっぱり中軸が機能しないと。なので、坂倉が状態を上げて中軸に加わると小園も楽になるはずです。

 ピッチャーのキーマンは、不調で選手登録を抹消されていた中継ぎの島内颯太郎。しっかりとした形で一軍に戻ってきてくれれば、チームにとって心強いでしょうね。

【DeNA】

 ほかのチームと比べた時の強みは、打てるということ。今年は足も使っていますし、バランスがとれた攻撃ができています。また、外野手の層が厚く、筒香嘉智がケガで離脱している影響をあまり感じさせません。内野手にしてもそう。タイラー・オースティンを休ませる余裕がありますし、野手陣は非常にいい状態です。

 心配なのはリリーフ陣。伊勢大夢がおらず、上茶谷大河が故障。山粼康晃は投げてみなければわからない感じで、松本凌人は球に力がありますがちょっと経験が浅い。一方で先発陣は、石田裕太郎が出てきて、アンドレ・ジャクソンとアンソニー・ケイが安定していますし、東克樹は期待通りの活躍を見せています。そう考えると、課題はやっぱりリリーフ陣。ここがそろえば優勝も狙えるでしょう。

 これから夏場に向けて一番大切なのは、バッティングなんです。ピッチャーは、疲労感からどうしても打たれてしまうので、バッティングのいいチームが抜け出していくんじゃないかと。DeNAは2、3点取られてもすぐに取り返せる打線の力がありますし、後半戦はチャンスがあると見ています。

【阪神】

 ピッチャーが頑張っていますが、相変わらず村上頌樹が勝てていませんし、伊藤将司も今ひとつ。もう少しバランスが崩れると、ピッチャー陣全体がガタガタになりそうな感じもします。

 懸念点は打線のつながりの悪さでしたが、オールスター前の(7月21日の)広島戦では先発全員安打・全員打点を記録しました。これが後半戦に向けて、いいきっかけになればいいですね。選手たちが額面通りの実力を発揮できるようになって、打線を固定できたら、優勝を狙える一番手は阪神です。

 森下翔太がよくなければ、前川右京や野口恭佑をしばらく3番で固定して使ってみてもいいと思います。核となるのはやっぱり、1番の近本光司、2番の中野拓夢、4番の大山悠輔、5番の佐藤輝明。それぞれがもう少し調子を上げたいところです。最近は佐藤を4番、大山を5番にすることもありますが、やっぱりベストは大山、佐藤の並び。ランナーがたまって佐藤が仕事をするようになると、阪神は勝てますよ。

【中日】

 ポジティブな要素は、勝ちパターンに入った時の強さ。中継ぎが充実していて、抑えのライデル・マルティネスが抜群に安定しています。先発陣では涌井秀章の離脱が痛い。柳裕也も不振でファームにいますし手薄になってきています。しかし、何より、郄橋宏斗が抜群にすばらしい。今の彼から点を取るのは至難の業でしょうね。

 打つほうは出塁率が悪いですね。特に1、2番に出塁率が悪い選手を入れると打線はつらくなりますよ。岡林勇希(打率.189、出塁率.231)を使うのあれば8番でいいですし、2番に田中幹也(打率.223、出塁率.266)を入れることもありますが、中日の場合は打順をイメージで決めずに、打てる順から並べてもいい。上位にオルランド・カリステ、細川成也、福永裕基らを並べて点を取る、といったことも試してほしいなと。

 岡林はイメージとしては1番かもしれませんが、数字を見たら1番を任せるのは到底無理です。それと、中日打線を調べてみると、1番に入った時の打率がみんな悪いんです。1番バッターをどうするかは大きな課題でしょうね。1番・カリステ、2番・板山祐太郎、3番・細川、4番・福永、5番・高橋周平といった打順にしてみてもいいんじゃないかと思うんですが......。出塁率の問題を解決しないと、上にいる4チームに離されていくでしょう。

【ヤクルト】

 村上宗隆と山田哲人の調子が上がらず、ドミンゴ・サンタナが左足を痛めて離脱......これでは他のチームに置いていかれます。ヤクルトは打線でなんとかしなければいけないチーム。開幕前からピッチャー陣は手薄だとわかっていたわけですから、打てないとどうにもできません。トップバッターとして申し分ない塩見康隆の長期離脱も痛いですね。

 打つほうでポジティブな要素がなかなか見当たりません。宮本丈や丸山和郁らはいい働きを見せる時もありますが、打線がなかなか噛み合わないんです。本来であれば破壊力があるチームなのですが......。

 数字的に優勝の可能性がないとは言えませんが、今の状態であれば気運が上がってこないというか、なかなか活路が見出せません。塩見、サンタナと外野が2枚抜けているのは痛いですし、山田も先発で出たり出なかったりといった状態では厳しいです。

 (7月21日の)DeNA戦では、ホセ・オスナのサヨナラヒットで乱打戦のシーソーゲームを制しましたが、そうやって打ち勝って勢いをつけていくことが大事。そして先発ピッチャーに白星をつけていくこと。いずれにせよ、ヤクルトが上昇するカギは打線です。村上や山田がいかに復調できるかでしょうね。

(パリーグ編:Aクラス争いはどうなる? 最下位・西武の後半戦の戦い方にも言及した>>)

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。