体感球速はメジャーリーガー以上?! 東大生が「キャップ野球」の魅力を解説「ウィルキンソンの蓋はスピードが出やすい」
ペットボトルのキャップとプラスチック製のバットを使った野球のようなスポーツ「キャップ野球」が、若者たちの間でジワジワと人気を高めている。
SNSではプレー動画が拡散され、なかには視聴回数が1千万回を超えるものも。そんなキャップ野球の魅力はどこにあるのか? 東京六大学による「六大学蓋野球」リーグ戦で2連覇中の東京大学キャップ投げサークルを訪ねてみた。
駒場キャンパスの体育館で「キャップ野球」の練習にはげむ東大キャップ投げサークルのメンバー
東大駒場キャンパスの体育館での練習中にインタビューに応じてくれたのは、サークル代表の九町健太郎さん。チームTシャツに短パン、足元は高校時代の部活で愛用していた卓球シューズで、野球に比べるとずいぶんリラックスした格好だ。
「キャップ野球用のシューズというのはないので、体育館用シューズならなんでもいいんです。ウェアはあるもので、ペットボトルのキャップはそのへんにありますし、バットは買っても1400円くらい。初期費用はほとんどかかりません」(九町さん、以下同)
インタビューでキャップ野球の楽しさを語る九町健太郎さん
スポーツでありながらこの"ゆるさ"に今の時代を感じるが、キャップ野球はいつ頃、どのように始まったのか。
「キャップ野球は、ペットボトルのキャップを指で弾いて投げる遊びを野球型の競技にしたものです。お笑い芸人のわっきゃいさんがアメリカの高校に通っていた時にキャップ投げにハマり、2017年の京都大学入学後に『キャップ投げ倶楽部』を立ち上げ、競技にしたところから始まりました。関西の学生サークル、そして全国へと広がり、社会人チームも各地にでき、現在は国内競技人口が約1500人と言われています」
試合は5対5の少人数で男女混合。イニング数は6回と短い。ペットボトルのキャップを投げ、プラスチック製のバットで打つ。グローブはつけず、守備は素手で行なう。
「野球と大きく違うのはふたつ。まずはフィールドの大きさです。バスケットボールコート半面ほどのフィールドを背の低いフェンスで囲ってプレーします。もうひとつが、打撃結果の判定方法です。ヒットゾーンまで打ち返せば一塁打。バウンドしてフェンスまでキャップが到達したら二塁打、ノーバウンドでなら三塁打、柵越えはホームラン。守る側は投手、捕手、野手ふたりです。残りのひとりは指名打者となります」
体育館にはプラバットでキャップを打つ快音が響く
キャップ投げから始まったキャップ野球の魅力は、なんと言ってもピッチングだ。
「いろんな投げ方がありますが、親指と中指で固定したキャップを中指で弾き出すのが基本です。デコピンみたいな感じといったらわかりやすいでしょうか。コントロールがしやすいサイドスローで投げる人が多いです。キャップの凹みを下にして投げると空気抵抗が生まれるので、カーブやスライダーなどの変化球は野球のボールより大きな弧を描きます」
デコピンのようにキャップを挟むのが投球の基本的な握り
軽いキャップからは想像がつかないほど、ストレートに迫力がある。速球派のピッチャーなら球速は90キロを超える。キャップが空気抵抗を受ける分、バッターの手前で浮き上がるような軌道を描く。
「マウンドからホームベースの距離が9.22メートルで、ちょうど野球の半分なんですよ。ピッチャーがリリースしてからバッターに届くまでスピードがほとんど落ちないので、単純計算で体感速度は倍くらいでしょうか」
さまざまな変化球が楽しめるのがキャップ野球の楽しさのひとつ
体感速度は、プロ野球やメジャーリーグを超えるというわけか。一方で、野球のボールにはない、キャップならではの、簡単な変化の付け方もある。
「キャップの凹みを上にして投げれば、空気抵抗が少なくなり、より真っすぐな軌道となります。また、ペットボトルのメーカーによって、キャップの厚みや固さが微妙に違うので、同じような握り方で投げても変化球のキレやストレートのノビに差が出るのがおもしろいところです。個人的には頑丈なつくりでスピードが出やすい(炭酸水の)『ウィルキンソン』のキャップがお気に入りです」
ドリンクの種類によってキャップの固さが異なるという
ピッチングの種類が多岐にわたる分、打つほうは苦労しそうだが、実際のところどうなのだろう?
「バットは(野球に似たスポーツの)ウィッフルボールのもので代用しています。プラスチック製でとても軽いんですが、野球のバットより細い。公式戦の規定では太さが66ミリ未満と定められています。小さなキャップを打ち返すのはたしかに難しく、野球での3割バッターが、キャップ野球だと2割バッターといったところでしょうか。基本的に"投高打低"の競技ですね」
バットは軽いが野球のものより細いため力より技術が求められる
打撃での活躍が野球ほど期待できないとなると、サークル内でピッチャーの座を争うことになるのだろうか。
「キャップ野球がみんなで気軽に楽しめる大きな理由でもあるんですが、ピッチャーの交代が頻繁に行なわれるんです。1チーム5人で戦いますが、指名打者も登板できるのがキャップ野球。最大3人まで指名打者を登録できて、試合状況に応じてどの選手もマウンドに立つチャンスがあります。そのため、もっとスピードを出すにはどうしたらいいか、変化球の落差を大きくするにはどうしたらいいか、それぞれ考えて話し合って投げる練習をしています」
速球は、リリースより前にバットを振り始めるイメージじゃないと当たらない
では、キャップ野球の魅力とは?
「メジャースポーツを大学から始めるとなると技術や体力が追いつきませんが、キャップ野球は基本的にみんな初心者。体格差もあまりが関係なく、頭を使って工夫することで上達することも多いので、スポーツ経験のあるなしに関係なく、みんな一緒に楽しめるところですね。その気になればペットボトルのキャップさえあれば始められる。この気軽さでこれからもっと広がっていくんじゃないでしょうか」
後編<東京六大学「蓋」野球2連覇中! 東大生たちが「キャップ野球」にかける、ゆるさと情熱の間にある青春>を読む
東大キャップ投げサークルの皆さん