一部のブランドは、卸売の拡大を一時的に停止している。

2022年、デジタルでの顧客獲得コストが上昇するにつれ、卸売が一種の万能薬のように言われはじめた。少なくともCPMが日々変わる可能性のあるFacebookとは対照的に、卸売のコストはより安定していた。アンダーウェアブランドのパレード(Parade)などは、収益性を優先している一例として、卸売の拡大を喧伝しはじめた。いくつかのブランドにとっては、卸売への進出は有効だった。

たとえば、子供服ブランドのモニカ・プラス・アンディー(Monica + Andy)は、「大手小売店のウォルマート(Walmart)に進出したことが収益に繋がった」と話す。しかし卸売取引で、どの消費者向けスタートアップが成功し、どのスタートアップが失敗するかが正確にわかるわけではない。パレードは大手小売チェーンのターゲット(Target)に進出してからわずか6カ月後に格安で売却されている。

小売店への進出に足踏み



卸売業に参入することでブランドはより多くの顧客にリーチできるようになるが、未知の実店舗に向けた流通のナビゲート、ブローカーとの提携によって発生するコスト、小売業者の広告ネットワークを通じて販売を促進するプレッシャーなど、多くの課題も伴う。現在は資本の調達が難しくなっていることもあり、小規模な自己資金ビジネスの創業者は卸売の拡大に対してより慎重なアプローチを取っている。

米モダンリテールがインタビューした複数の創業者は、「現時点で新しい卸売パートナーシップを結ぶことは考えていない」と述べている。代わりに、Amazon、オンラインマーケットプレイス、さらには自社のD2Cサイトなど、よりなじみがあって負担が少ないチャネルを優先して、ランウェイを延ばしている。つまり、ますます多くの創業者が、憧れの小売店を一時的に「No」と言っているのだ。

ある匿名希望のウェルネスブランドの創業者は、D2Cやマーケットプレイスのような自社チャネルやデジタルチャネルの成長に戻ることは、現時点では「より安全な賭け」のように感じられるという。「どちらかというと『いまではない』という考えだ」と、コンビニエンスストアチェーンのCVSやターゲットなどでウェルネスブランドを販売している、この創業者は語った。このブランドは当面、ほかの大手小売業者と新たなパートナーシップを結ぶことは控え、デジタルマーケティングを通じて既存の卸売パートナーに顧客を誘導することにしている。

この動きは、理論的には同社の次の6カ月から12カ月のランウェイを延ばし、キャッシュバーンを遅らせる。「少なくとも当面のあいだ、より収益性の高い方法でブランドを構築し続けるための方法だ」と、この創業者は語った。

自社のコントロール下に置くか、焦点を絞った拡大に賭けるか



CPGスタートアップやナショナルブランドが店舗で顧客を獲得するのを支援するプラットフォーム、ウィーストック(WeStock)の共同創業者でCEOのキャメロン・マッカーシー氏は、「一部のスタートアップはキャッシュを節約するため必要に迫られてD2Cに戻った」と述べている。

問題の核心にあるのは、新しい小売店への参入にかかるコストが高いという事実だ。ブランドはより多くの在庫を生産し、場合によってはより多くのフィールドスタッフを雇用して、卸売の開始を宣伝するためにより多くのマーケティング活動を行う必要がある。そして現在、ブランドが卸売の開始に必要な資金を調達する選択肢は、たとえば3年前と比べて多くはない。

ベンチャーキャピタリストは依然として支援するスタートアップを慎重に選んでいる一方で、コーマス関連のプラットフォームを提供するアンプラ(Ampla)など一部の資金提供者は、融資を減らしているという。

マッカーシー氏は、「小売ベンダーの観点から見ると、ブランドが卸売から撤退してD2Cや小規模なデジタルチャネルに再びフォーカスするのは、成長の兆しとは言えない」と述べ、「あと数カ月は続けようとする初期のサインのように思える」と続けた。これらのブランドのなかには、自社でよりコントロールできるオンラインマーケティングに資金を注ぎ込み、売上を伸ばそうと考えているところもある。「これは、採算をとってから、おそらく将来は小売に再びフォーカスするひとつの方法だ」。

しかし同氏は、「ウィーストックのクライアントブランドには180度方向転換して小売業から完全に撤退するのではなく、また、できるだけ多くの卸売パートナーを追加するのでもなく、利益率の高い少数の主要な小売店で流通を加速するようアドバイスしている」と述べた。「各ブランドはありとあらゆる全国チェーンと提携する必要はない」と同氏は言い、「大手小売業者1社と提携できるだけの資金とマーケティング予算を確保するだけでいい」と話す。

こうした状況があるなか、それでも全体として卸売流通は量的に成長しており、消費者向けブランドにとってそれは引き続き最優先事項となっている。オンライン卸売マーケットプレイスのニューオーダー・バイ・ライトスピード(NuOrder by Lightspeed)が2024年5月に行ったブランドの調査によると、依然として卸売はブランドにとってもっとも収益性の高い投資チャネルだった。卸売パートナーシップは平均すると企業総売上高の60%を占めているという。ただし、この調査では卸売流通のプロモーション費用が上昇していることも示されており、また、ブランドによるマーケティングアウトリーチが昨年より7%増加していることも明らかになった。

リスクを回避し、自分で手綱を握れる場所に



Amazonのようなオンラインマーケットプレイスで販売を行っている、ある健康志向の食料品ブランドの創業者は、現在は新しい大手小売業者と提携する自信がないため、デジタル販売の拡大にフォーカスしていると述べた。「少なくとも私個人としては、オンラインのメリットのほうがはるかに魅力的だ」と話す。「資金がどこに使われているかが分かり、まさに望む顧客と適切なタイミングで接触でき、投資がより予想どおりで実りがあるものになると思える」。

とはいえ、「現在はウォルマートを検討中だ」とのことだ。しかし、このブランドがウォルマートと契約を結べるかどうかは、バイヤーのスケジュールに合わせてブランドが開始時期を見いだせるかどうかにもよる。毎年のライン見直しは、このブランドが属するカテゴリーの需要が高まるシーズンの合間に行われる。「バイヤーは、季節商品のあいだで刷新しようとは思っていない」と、この創業者は述べた。

また、全体として卸売に関しては「リスクは取りたくない。慎重になっており、『もちろんやりたい』とはとても言えない」とも語った。代わりに、Amazonのようなより管理しやすいチャネルに投資したり、スライブマーケット(Thrive Market)のようなマーケットプレイスで有機的に安定した売上を生み出したりすることで、ブランドは顧客獲得を続ける予定だという。これにより、ウォルマートのような大型小売店と契約を結べるようになるまで、成長の勢いを維持しつつコストを比較的安定させることができるという。

「オンラインプラットフォームは何がどう動いているかわかりやすく、ある程度は自分で手綱を握れる」と、この食品ブランドの創業者は語った。

いまは成長が抑制される時期?



しかしながら、企業は可能であればウォルマート、ターゲット、コストコ(Costco)などの大手小売店で全国的な流通を確保することをめざしている。卸売は費用のかかる取り組みだが、可能な限り大規模な取引先に集中して時間とお金を使うほうがブランドにとっても良いことだという考え方によるものだ。

それでも卸売に関しては、どれくらいだと多すぎるのかという疑問が続いている。「一度にひとつの主要市場を狙うという考え方は、現状からすると時代遅れだ」とマッカーシー氏は述べた。「しかし取引先を維持するには、より多くの資金を調達する必要がある」。

そしてもちろん、いつ新しい卸売チャネルに参入するかに関する決定権は、必ずしもブランド側にあるわけではない。前述の食品ブランドの創業者によると、このブランドが属するカテゴリーのバイヤーも、とくに抑制的な経済情勢においては「非常にリスクを嫌う」とのことだ。この創業者が会うバイヤーのなかには、卸売取引の交渉時に活用できる優れたツールとしてよく宣伝されているオンライン販売データに、まったく興味がない人もいるという。

「夢のような取引先や最適な取引先、とくにファンを見つけて育てるチャンスを何度も与えてくれるとわかっているバイヤーが相手なら、大きな取引を開始するつもりはある」と、この創業者は語った。しかし、「いまは本当に成長が抑制される時期だ」とも言い添えた。

[原文:Why some brands are being more cautious about wholesale expansion]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:島田涼平)