Photo: Yohei Amazaki

ショッピングモールやスーパー、高速道路のPA・SAの駐車場で、車いすマークのついた幅広の区画が増えてきました。車いすマークなだけに、車いすを使用しているドライバーや同乗者がいるクルマ専用の駐車場なのかと思いきや、障害のある方、高齢者、妊婦等、移動にサポートが必要な方ならば駐車可能、という話も聞きます。

「健常者が車いすステッカーをつけて、我が物顔で使ってる!」「車いすじゃないのに使ってる人には罰金を課すべき!!」といった苦情も多いといいます。実際にはどう使うのが正しいのでしょう?

「車いすマークの区画」ですが、実は車いすに限定していません

この車いすマークの区画、正式には「車いす使用者用駐車施設」といいます。クルマから車いすを出し入れする際に広い乗降スペースが必要で、一般の駐車スペースではドアを開くことができません。そのため、この幅広の駐車区画が必要なのです。

クルマのドアを大きく開放でき、さらに車いすが転回できるように、幅が3.5m以上(車体スペース2.1m+乗降用スペース1.4m)あり、障害者を表す国際シンボルマーク(車いすマーク)を掲げた駐車スペースと定義されています。

「車いす使用者用駐車施設」というだけに、使用できるのはやはり車いすの利用者だけなのでしょうか? 国土交通省は下記のようにアナウンスしています。

「『車いす使用者用駐車施設』と規定していますが、法令上、車いす使用者だけでなく、身体の機能上の制限を受ける高齢者・障害者等であれば、『車いす使用者用駐車施設』を利用することは可能」(国土交通省「義務付け措置等に関するQ&Aより。Q9を参照

つまり、高齢者や妊婦、障害のある方といった移動に際してサポートが必要な方ならば、車いすユーザー以外でも使えるスペースということです。

「急いでいたから」「便利だから」と使う人も…

Photo: Yohei Amazaki

「車いす使用者用駐車施設」は、2006年のバリアフリー新法によって、一定の施設への設置が義務付けられ、普及してきました。ですが、普及にともない、健常者がそのスペースに不正に駐車し、必要とする方が駐車できないという問題(総務省の資料より)も噴出してきました。

全国脊髄損傷者連合会の調査では、「車いす使用者用駐車施設」に停めようとしたときに、すでに満車で停められずに困った経験があると答えた車いす使用者が38%もいるそうです。

また、国土交通省のアンケート調査(3p目)によると、「車いす使用者用駐車施設」に停めた経験がある人は8.5%で、そのうち2割以上の人が「急いでいたから」「一般利用者用が空いていなかったから」「出入り口に近くて便利だから」と答えています。

適正な利用の集中によって停められないならば仕方ありませんが、健常者の不正利用で、本当に必要としている方が利用できないのは納得できません。

総務省にも「車いす使用者用駐車施設」の不正利用に関する苦情は数多く寄せられています。

健常者が車いすパーキングに駐車することが放置されているので、罰金を科すなど対策を講じてほしい。スーパーや高速道路で身体障害者のための駐車スペースに健常者が駐車するケースが目立つので取締りを強化するなど対策を講じてほしい。障害者ではないのに国際シンボルマークを自動車に付けて障害者用駐車場に駐車する人がいるので、何とかしてほしい。

多くの方が困っている状況が察せられます。

上記の苦情のように、個人のマナーに依存するのではなく、ルール化すべきという声が増えている印象です。海外では、障害者用スペースを不正利用について厳しく罰則が設けられている国も多く(8P目)、イギリスでは不正駐車に対し、最高1000ポンド(約20万6000円)の罰金、アメリカ・ハワイ州では最高500ドル(約8万円)の罰金が徴収されます。

ルール化することで、利用できるクルマを明確に

Photo: 国土交通省

一方、日本はどうでしょう? 国、自治体ともに罰金は設けられていませんが、不正利用に対する苦情が多く受けられている点、利用の基準が不明確という点から、「パーキング・パーミット」という制度を多くの自治体で取り入れて、ルール作りを始めています。

「車いす使用者用駐車施設」の利用対象者の基準を明確にし、希望する対象者に自治体が利用許可証を交付し、適正利用を促す取り組みです。許可証は駐車時に車内のルームミラーにひっかけて、車外から駐車許可車であることをアピールできます。

自治体の名称が入ったオフィシャルな利用許可証なので、カーショップや100円ショップで購入できる車いすマークのステッカーとは違い、利用者も周囲も「ステッカーがニセモノと思われないかな…」「このクルマ、不正利用じゃないの?」とモヤモヤすることなく、お互いに安心して利用できるはず。

障害のある人の中には、内部障害などにより歩行が困難なものの、外見からはわかりにくい人も多くいます。パーキング・パーミット制度は、このような人たちが利用対象者であることを明確にするためにも役立っています。

「優先駐車区画」をプラスして「ダブルスペース方式」に

Image: 埼玉県

さらにパーキング・パーミット制度では、車いすマークの駐車区画である「車いす使用者用駐車施設」とは別に、知的障害者、精神障害者、高齢者(要介護、要支援)、難病患者、妊産婦、一時的なけが人など(自治体によって適用範囲は異なる)を対象にした「優先駐車区画」の整備・確保も進められています。

「優先駐車区画」は、幅3.5m以上が必要な「車いす使用者用駐車施設」とは異なり、必ずしも広い幅員を必要とはしない駐車区画です。車いすユーザー以外の、ドアを広くあける必要はないけれども、移動に配慮が必要な方を対象としています。

車いすは使っていないけど、移動にサポートを必要とする人には利用しやすい区画です。「車いす使用者用駐車施設」でなく「優先駐車区画」を選択できることで、「自分のせいで車いすユーザーが停められなかったらどうしよう…」という心配もなくなるはず。

「車いす使用者用駐車施設」と「優先駐車区画」の2つをあわせて「ダブルスペース方式」として、移動にサポートが必要な方に対する駐車区画を複数種類で運用するスタイルも増えてきています。

なぜか東京都で採用されない「パーキング・パーミット」制度

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パーキング・パーミットの導入によって、不適切な駐車が減って、必要としている人が停めやすくなったというレポート(5枚目)もあります。また「車いす使用者用駐車施設」や「優先駐車区画」の駐車条件が明確化され、サポートを必要としている人にとって、移動しやすい環境になってきているようです。

ただひとつ気になるのは、パーキング・パーミットが国全体の制度ではなく、各自治体の制度となっている点です。各自治体「ゆずりあい駐車場」「おもやり駐車場」と名称はさまざまですが、パーキング・パーミット制度は現在42府県(2024年2月時点)で採用されています。採用されていないのは、北海道、青森県、東京都、神奈川県、愛知県の5都県ですが、神奈川県は2024年11月から採用を予定しています。

意外なのは、首都である東京で採用されていないこと。いつ採用予定なのか、東京都の生活福祉部企画課に尋ねたところ「東京都はパーキング・パーミット制度導入の予定はない」とのこと。なぜ導入しないかについては、明確な回答はありませんでした。

理想は、サポートが必要な方もそうでない方も、お互いに快適に移動できる環境を実現すること。現状では、すべての自治体でパーキング・パーミットを導入することがその理想への近道に見えます。

ですが、最大の人口を抱える東京都が「導入未定」としている以上、日本全体でのパーキング・パーミット導入は難しいかもしれません…。

ルール化するのも有効ですが、やはりマナーとして徹底するのが大事。「車いす使用者用駐車施設」や「優先駐車区画」を必要としている人がいる、ということを心にとめて、お互いに思いやりの精神で気持ちよく、誰もが移動が楽しめる社会になることを実現することが肝要です。