鉄道写真家の南正時氏が鉄道博物館に寄贈した膨大な作品を公開する写真展の第4弾として、「鉄道写真家・南 正時 写真展 Lの時代 国鉄特急、大集合!」が2024年7月6日から開催中だ。国鉄特急の魅力を余すところなく伝える作品展の見どころを紹介しよう。

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鉄道写真家の南正時氏が、鉄道博物館に寄贈した膨大な作品を公開する写真展の第4弾として、「鉄道写真家・南 正時 写真展 L(エル)の時代 国鉄特急、大集合!」が2024年7月6日から開催中だ。

半世紀ほど前に大活躍した国鉄特急の魅力を余すところなく伝える作品展の見どころを紹介しよう。

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国鉄の特急列車とは

もともと特急列車とは特別急行列車の略で、全国各地で走っていた急行列車よりワンランク上の、文字通り「特別な」列車だった。

機関車がけん引する客車列車で、1956年11月時点では東海道本線を走る「つばめ」「はと」、京都〜博多を走る「かもめ」、夜行の「あさかぜ」の4本しかない貴重な存在でもあった。


東海道本線の全線電化が完成すると、電車による特急列車が開発され、1958年に「こだま」がデビュー。ボンネットスタイルの先頭車および赤とクリームの斬新な塗装は一世を風靡(ふうび)し、以後、特急列車のカラーとして受け継がれていく。

当時、全国の幹線の電化は未発達だったので、まずはディーゼルカーによる特急車両の開発が進み、1961年の白紙ダイヤ改正により、北海道から九州まで(四国をのぞく)、特急列車によるネットワークが張り巡らされた。

1968年10月のダイヤ改正で、東北本線全線電化複線化が完成したのを機に、交直両用の485系特急電車が投入され、電車特急が主流となっていく。また、1日1往復だった特急列車が増発され、2往復以上走る線区も増えていった。

特急列車の大衆化が決定的となった「エル特急」誕生


1972年10月のダイヤ改正で誕生したのが「エル特急」だ。毎時××分発、自由席設置、そして路線によっては1時間に1本運転など、特急列車は気軽に乗れる列車となっていく。

高度経済成長期でもあり、旅行や出張の需要も増え、長距離列車の主役は完全に急行から特急へと移った。この時期から国鉄分割民営化までの15年ほどの間の特急列車の記録が、今回の写真展のメインとなる。

現在では、新幹線の愛称としてすっかり定着している列車名もいまだ在来線特急として活躍中で、「やまびこ」「つばさ」「とき」「あさま」「はくたか」「かもめ」などおなじみの列車が美しい日本の四季の中を走る様子を詩情豊かに撮影している。

今ではJR化以降に開発された新型車両で運行中の人気列車「あずさ」「ひたち」「おおぞら」「オホーツク」「ひだ」なども国鉄特急色をまとい快走している。

それにしても、赤とクリームの塗装は、近年のステンレス車両や奇をてらったデザインの車両よりもはるかに日本の自然によくマッチしていると思うのは筆者だけであろうか?

「絵入りトレインマーク」登場


鉄道に詳しくない人が見ると、どの列車も同じように見えてしまうので、列車の愛称名をアピールしたのが、1978年に登場した「絵入りトレインマーク」だ。

当時の子どもに大人気で、さまざまなグッズも販売された。現在の特急では、ほとんど姿を消してしまっただけに、思い出の記録として見ておきたい。

最後の国鉄形特急電車として先日話題となった381系「やくも」(岡山〜出雲市)も、ディーゼル特急時代と電車特急時代の2枚が展示されているのでお見逃しなく。

また、撮ろうとして撮れるものではない列車のすれ違いシーンも貴重な写真だ。それも、東北本線の看板特急だった「やまびこ」と「はつかり」の出逢いは、ハプニングとはいえ、後世に残る名作であろう。

「鉄道少年の部屋」、トークショーなども企画


写真以外で興味深いのは、1980年前後の「鉄道少年」の部屋。特急列車の写真やグッズはもちろんのこと、元プロ野球・王貞治選手のポスターやラジカセ、修学旅行でお土産として購入したペナントなど、ある年齢以上の層には「ささる」のではないだろうか?

作品展の会期は2024年9月23日まで。それに合わせて、鉄道博物館にて保存されている特急電車ではヘッドマークを付け替えるなどのイベント、南氏のトークショーも複数回計画している。こどもの夏休みに合わせて訪問してはいかがだろうか?

取材協力=鉄道博物館

この記事の筆者:野田隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。
(文:野田 隆)