GMクルーズが開発中の自動運転車両。ホンダは2026年に東京都心部で計画する自動運転タクシーでの活用を想定している(写真:ホンダ)

高齢化や人手不足といった社会的な課題の解決が期待される自動運転タクシー(ロボタクシー)。日本で最初に実用化を目指すホンダの計画がスタート段階から難題に直面している。

昨年10月、ホンダはゼネラル・モーターズ(GM)と、GM子会社でホンダも出資する自動運転システム開発会社GMクルーズ(クルーズ)と組み、2026年初頭に日本で自動運転タクシーサービスを開始すると発表。サービス提供を担う合弁会社を2024年前半には設立するとしていた。

しかし、予定していた合弁会社の設立が遅れている。ホンダは「できるだけ早期に立ち上げたい」としているが、メドは立っていない状況だ。

3社で共同開発する自動運転車両「クルーズ・オリジン」を使った自動運転サービスを2026年に東京都心で始める計画だった。クルーズ・オリジンは運転席がない専用車両で最大6人乗り、特定条件下での自動運転に相当する「レベル4」の技術を適用するとしている。開始当初は数十台で運用を始め、500台規模での展開を見込む。

昨年の記者会見でホンダの三部敏宏社長は「日本で最も交通量が多く、最も多彩で走行難易度の高い場所でサービスをスタートする。ここでお客様にご満足いただければ、このサービスを他の都市でも展開できるはず」と語っていた。

パートナーの交通事故が影響

計画遅れの原因の1つとなっているのは、昨年の発表直前にアメリカ・カリフォルニア州内でクルーズの自動運転車両が起こした事故だ。他車両がはねた歩行者の女性を自動運転車両が引き、さらに数メートル引きずったまま走行して重傷を負わせた。この事故に関しては、6月20日にカリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)が、クルーズが同委員会に適切に情報を提供しなかったとして約1800万円の罰金を科すと発表している。

ホンダはこうした事故が日本での合弁会社設立に影響していることを認め、「安全性が担保されているかどうかしっかり調べる必要がある」としている。ただ、2026年のサービス開始は現状で変更はないという。


昨年10月のホンダ本社の記者会見で三部社長と握手を交わしたクルーズCEO(当時)のカイル氏。翌月には退任した(写真:ホンダ)

クルーズでは2023年11月、共同創業者でCEO(最高経営責任者)だったカイル・ヴォクト氏が退任、今年7月にはマイクロソフトのゲーム機「Xbox」と同オンラインサービスのエンジニアを務め、Amazonなどでキャリアを積んだマーク・ウィッテン氏が新CEOに就任している。クルーズはアリゾナ州やテキサス州で乗員がある状態での自動運転サービスの試験走行を再開している。

自動運転サービスはまだまだ発展途上だ。

今年2月にはアリゾナ州でグーグル傘下ウェイモの自動運転車が自転車との衝突事故を起こし、ウェイモの事故については同州当局が調査している。日本国内でも2023年10月、福井県永平寺町で自動運転「レベル4」の実証車両が、道路脇に止められていた自転車に接触する事故があり、開発を進める産業技術総合研究所などが約半年間運行を停止した。

自動運転技術は確実に進化しているものの、複雑な現実の交通環境に対応しきれていない。規制も含めて課題は多い中、実用化に向けた模索が続く。

2035年には市場規模70兆円の予測も

一方で、過疎地域での代替交通手段、タクシー業界の人手不足対応など、自動運転タクシーの社会的意義は大きい。移動時間の有効活用といった新たなビジネスが生まれる可能性もある。


完全自動運転が実現すれば、移動時間を有効活用する新しいビジネスチャンスも生まれそうだ(写真:ホンダ)

PwCコンサルティングは、現状世界でもほぼゼロに近い完全自動運転タクシーが生み出す収益が、2035年には約70兆円まで拡大すると予測する。アメリカのEV(電気自動車)専業メーカー・テスラも8月8日に自動運転タクシーを公開するとしている。日本勢では、日産自動車も2027年度以降に、本社がある横浜市などを中心に事業化を目指している。


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もともと2026年に東京都心で自動運転タクシーを走らせるというホンダの計画は、高い目標を掲げることで事業化を推進する側面もある。多少の遅れは驚くことではない。ホンダとサービスで手を組むタクシー会社の幹部は「改めて仕切り直しということでは」と話す。

とはいえ、自動運転サービスはアメリカ勢だけでなく、中国の新興メーカーなども開発でしのぎを削る。計画に遅れを取れば、他社の後塵を拝する可能性が高まる。ホンダは開発の加速と安全性の担保の間で難しい局面に立たされている。

(横山 隼也 : 東洋経済 記者)
(村松 魁理 : 東洋経済 記者)