大型店には全国の小規模メーカーが生産する調味料類を集めた「和シュラン」コーナーがある(筆者撮影)

家族経営の中華料理店が弁当を販売し2400万円の追加収入。福岡のマクロビオティック専門店が首都圏に弁当販売で進出し800万円超、トマトや椎茸などを生産する岐阜県の農家は最大2300万円稼いだ―――。

ここに示したのはいずれも、直売ショップ「わくわく広場」で商品を販売する出品者の1カ月分の販売実績だ。

わくわく広場を運営するタカヨシホールディングス(千葉県・千葉市)は、2021年に東証マザーズに上場し、流通総額は上場直前の約160億円から右肩上がりで、2023年9月期には約250億円に拡大している。

値付けや販売量、陳列は出品者に委ねる

イオンモールなどのショッピングセンターにテナントとして入るわくわく広場では、近隣の飲食店や農家がお弁当や野菜など、食に関するあらゆるものを販売する。搬入のタイミングや、販売量や値決め、陳列に至るまで、基本的にはすべて出品者に委ねられている。

すべてを任せるとなると、日によってはお店に並ぶ弁当や食材の数が少ない日が出てくるかもしれない。そんな疑問もふと沸いてくるが、毎日店にはずらりと商品が並び、出品者は着実に売り上げを伸ばしている。つくり手が商品販売で直面する数々の「障壁」を取り除き、自由度の高い売り場を提供するビジネスモデルは”流通革命”とも称される。わくわく広場のビジネスモデルに迫った。

愛知県豊田市内にある中華料理店「ふうみ屋」。店を経営する盛安商会は2021年、長引く外食需要の低迷に苦しんでいた。

代表の戴宇(サイ・ユウ)(57)さんは、中国の料理人として最高ランクの資格「高級技能」を持つ凄腕の料理人で、23年前に中国東北部の瀋陽から出稼ぎで日本に移り住んだ。

日本にやって来た戴さんは、妻の曹麗梅(ソウ・リーメイ)さんと8席の店を始める。手頃な価格で本格中華が味わえると、たちまち地元の人気店になり店を拡大、3店舗を構えた。

80〜85席の各店の毎月の賃料は38万〜80万円。20人の従業員を雇用しながら、大型商業施設への出店を目標に堅実経営を心掛けてきた。

だが、そこに、新型コロナウイルス感染拡大が直撃した。全3店で月商2500万円程度あった売上高は3割減の状態が続き、初めて赤字に陥った。

店を減らすべきか、従業員をどう守っていくべきか。息子・博文さん(32)を交え連日家族会議を開いた。そんな2021年6月のある日、店に一本の電話がかかってきた。

「イオンに新しくオープンした売り場で中華弁当を販売してみませんか」

イオンショッピングセンター三好店の1階に開業した「わくわく広場」からの営業の電話だった。料理を提供できるならどんな形でも構わない。博文さんは二つ返事で応じ、翌日から早速、麻婆豆腐やチャーハン、エビチリなど店で人気のメニューを2種類の弁当にして30個を納品した。

初日は4個しか売れなかったが…

ところが、初日売れたのは4個のみ。ほとんどが廃棄になった。売り場の向かいにあるファストフード店の窓越しで1日中、客の動きを観察していた曹さんはすぐに「売れない理由」をつかんだ。

「種類が全然足りない。明日から品数を増やしてみよう」―――。ここから、盛安商会の快進撃が始まった。

初月の6月、三好店だけで5万9619円だった中華弁当の売り上げは、品数を30種類にして近隣県を含む10店舗超に納品を増やした結果、7月には140万円、9月には490万、11月には1000万円を超えた。


わくわく広場向けに中華弁当を製造販売して雇用と売り上げを伸ばしている盛安商会の(左から)戴宇さん、曹麗梅さん、戴博文さん=愛知県・イオン三好ショッピングセンター(筆者撮影)

「わくわく」が愛知・三重・岐阜県内に次々と開業するのに合わせて納品先を広げ、2024年1月には過去最高の2402万円を売り上げた。これらはタカヨシに支払う手数料を差し引いた手取りの金額だ。

盛安商会は現在、料理人や補助スタッフ15人を含め従業員を50人に増員し、平日は毎日2500食、土日は4000食を製造している。冷蔵車10台をリースし「わくわく広場」27店舗に毎日配送する弁当事業が、店舗に並ぶ経営の大きな柱になった。

「わくわく広場はたくさんの問題を解決してくれました。自分たちで1日3000食分近くの売り上げをつくるには、新たに店舗をいくつも持たなければできません。それだけで億単位の投資が必要です。(参加している)生産者全員が、わくわくさんに心から感謝しています」と博文さんはいう。

一方で、中華弁当の販売実績が積み上がっていくにつれ、店の厨房設備にも限界が出てきた。衛生面への対応も強化する必要がある。弁当販売の展開に、さらなる成長可能性を見た金融機関から融資の申し出を受け、盛安商会は近隣に800坪の用地を確保し、最新設備を備えた弁当の生産工場を建設中だ。8月中旬に稼働する予定で、「わくわく」を軸にさらなる販路拡大を見込んでいる。


中華弁当の生産拡大に向け建設中の新工場を案内する戴博文さん(筆者撮影)

冒頭でも述べたように、全国各地の大型ショッピングセンターや格安スーパー、百貨店の一角や隣接地に「わくわく広場」はある。創業者は同社の郄品政明会長(77)だ。

ホームセンターのスペース有効活用が始まり

自動車販売の営業職から、ガソリンスタンド、カー用品店、カラオケボックスなどの経営を経て2000年、自身が手掛けるホームセンターのスペースを有効活用する目的で直売所を設けたのが始まりだ。


「わくわく広場」創業者の郄品政明会長(筆者撮影)

わくわく広場は、自由で多彩な売り場がすぐに地元客の評判を集め、ほかの自社店舗内に売り場を増やしていった。

路面店からさらに生活圏に近いショッピングセンター内へ、出店の軸足を移したのは2009年ごろから。それを機に事業は軌道に乗り、現在31都道府県に186店(24年5月末現在)、登録事業者数は3万件を超えた。

出品者の自由度が高い一方で、運営はどう成り立っているのか。運営者のタカヨシの売り上げは、販売実績に対してかかる25%の手数料(生鮮・総菜等)になる。商業施設との賃貸契約からレジの対応、店内の清掃を担うことが表向きの役割だが、裏方にこそ、タカヨシ独自のビジネスモデルが機能している。

もっとも注力するのが、売り場を彩る出品者の開拓だ。全国各地で在宅勤務するコールセンターのスタッフ35人が、店舗周辺の飲食店などをリサーチし、弁当や総菜の出品を依頼する。先述の盛安商会はまさに、この電話を受け、弁当製造のきっかけをつかんだのだ。さらに、店舗近隣の農家を直接訪問して、青果などの納品を依頼する17人の専任スタッフがいる。

郄品会長自身、農家を営む家庭で育った。「家族経営で人手が足りず、日中農作業で電話に出られない」「安定的な供給の約束はできないが、直接販売できる安定した場所はほしい」。そんな農家の事情を考慮して設けたのが、対面で広報活動をする営業社員たちだという。

加えてもう1つ重要視しているのが「出品者のやる気を駆り立てる」(郄品会長)、システム開発とデータの提供だ。スマホやパソコン上でリアルタイムに店舗ごとの販売状況を確認することができ、生産量の調整や納品頻度、来店客数の分析や販路開拓の吟味に役立てることができる。

また、産直野菜や弁当類の開拓とは別に、全国各地の小規模メーカーがつくる希少な調味料類を発掘する事業「和シュラン」では、千葉にある物流センターで一括管理して各店舗に配送する仕組みを持ち、これらの組み合わせによって独特な産直チェーンが支えられている。

運営体制のすべてに「生産者にとって使い勝手のいい売り場にしたい」という郄品会長の理念が貫かれ、売り場には絶妙な規律と秩序が生まれている。

食品スーパーやデパ地下が競合に

とはいえ、実際に「使える舞台」にしていくには、既存の商習慣や強固な流通形態の「壁」をいかに乗り越えていくか、試行錯誤の連続だったという。

「壁」の代表例は、同じショッピングセンターや近隣店にある食品スーパーやデパ地下との競合だ。

「実際に、『わくわく』に商品を出すなら、正規のルートでは扱えないと卸業者や組合に言われ、生産者の直売が制限される事例も少なくない」(郄品会長)

だが、出品者側も知恵を絞る。制約の外にある隣の地域の店に商品を出すなど、あの手この手で「わくわく広場」を自分たちのものにしようと喰らいついてくる。そんな生産者の意気込みに背中を押されるように、タカヨシは全国の空白地を埋める勢いで出店拡大に動いている。

もう1つの「壁」は、売り場内で起きる出品者同士の競争と競合だ。品質や味に対するクレームも評価も直接出品者の元に届けられ、毎日売れ行き比較の勝敗がつく。

人気の弁当の真横に、見た目やロゴをまねた割安な商品を置いて客を誘導する出品者や、納品に関するルールを順守しない出品者も現れたり、カレーやナンなど作りやすく売りやすいメニューを中心に陳列台が埋まったりする現象も出てきた。

創意工夫と自由な挑戦を促すつもりが、互いの足を引っ張りかねない、売り場全体の価値を損ねかねない状況に、運営者としてどう対処するのか。出品者の自立と自由を尊重するタカヨシにとって、改革手腕が今後ますます試されることになるだろう。

真似されるビジネスでも存続する理由

「このビジネスはきっとすぐに真似される」

店を始めた頃、郄品会長は周囲によくこう言われたというが、実際にこれだけの規模で直売所を展開している企業は珍しい。事業が存続し、成長し続けられるのには、仕組みのユニークさ以外にも理由があるだろう。

売り場には、出品者の土地柄や人柄が映し出され、一般的なスーパーでは出会えない多国籍の料理、珍しい旬の食材に出会える。「目利き」を発揮するのは小売企業でもバイヤーでも卸業者でもない、いわば”直接民主主義”の担い手である客だ。つくり手の参入障壁が低く、誰にでも開かれ、健全な競争や協調が求められる店は、民主的なあるべき社会の縮図のようでもある。

つくり手が主役になれる流通システムが求められるのは、万国に共通する。タカヨシが海外展開を意識したビジネスのブラッシュアップに動いた時、わくわく広場は「生産者のためのリアルのプラットフォーマー」として、今後さらなる経済成長が見込まれる東南アジア、そして世界へと、拡大していく可能性は十分にある。

(座安 あきの : Polestar Communications社長)