新しい美食の潮流、デスティネーションレストランの未来を担う若き実力派シェフの世界観に迫る

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日本の料理界の次代を担う若きシェフたち。食の世界に精通する本田直之さんが聞き手となって、彼らの料理にかける思いやチャレンジを語ってもらう連載。第9回は群馬県前橋市にあるアートホテル「白井屋ホテル」のメインダイニング「the RESTAURANT」のシェフを務める片山ひろさん。地元群馬の食材の魅力をフレンチの技法で最大限に生かす上州キュイジーヌを掲げ、群馬に新たなガストロノミーの風を吹かせます。

本田直之グルメ密談―新時代のシェフたちが語る美食の未来図

食べロググルメ著名人として活躍し、グルメ情報に精通している本田直之さんが注目している「若手シェフ」にインタビューする連載。本田さん自身が店へ赴き、若手シェフの思いや展望を掘り下げていく。連載9回目は、群馬県前橋市にあるアートデスティネーション「白井屋ホテル」のメインダイニング「the RESTAURANT(ザ・レストラン)」の片山ひろシェフ。偉大なるシェフの名言「若者よ、故郷に帰れ」を実践し、故郷・群馬で地元の食材を使い、世界標準の料理を目指すシェフの未来の展望とは?

研究者志望から料理人を目指す道へ

片山ひろシェフ 写真:お店から

本田:まずは、なぜ料理人を目指そうとしたのかというところから。

片山:群馬県で生まれて、ずっと群馬育ちです。料理の道に進んだきっかけは、帝国ホテルの当時の料理長、村上信夫さん、村上ムッシュの本を読んで感化されたからです。「エコール辻東京」、それからフランス校に進学。最初のスタートは帝国ホテルです。憧れの村上さんの下で2年ほど働きました。そこから、ワーキングホリデーで1年間フランスで働き、帰国後は地元・群馬に戻って、小さなレストランを持ちました。それが2016年〜18年頃ですね。当時、レストランに、株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEOで、アイウエアブランド「JINS」の田中仁さんがいらして、その出会いがきっかけで「白井屋ホテル(以下、白井屋)」の「the RESTAURANT」に誘っていただき、シェフに就任しました。開業するまで2年半ぐらいあったんですけれど、その時に、レストランの監修をお願いしている「フロリレージュ」川手寛康シェフと出会いました。川手さんには国内外のシェフを紹介していただいたり、開業まで「フロリレージュ」で研修を受けさせていただいたりとお世話になりました。今でも川手さんとは、お互いにやり取りをし合って、料理を作り続けています。

白井屋ホテル外観 写真:お店から

本田:元々料理人になろうと思ってはいなかった?

片山:思ってなかったですね。スポーツ科学の研究者になりたかったんです。中高生の時は陸上競技のやり投げをやっていました。ハンマー投げの室伏広治選手に憧れて、大学に進んで、アスリートでありつつも、スポーツを科学するような研究者になりたいとずっと思っていました。大学受験に失敗して、2浪したんですけど、その時に手にしたのが、村上ムッシュの書籍でした。

本田:スポーツより料理にのめりこんじゃった。

片山:性格が凝り性なんです。シェフにも凝り性な方たくさんいますよね。マニアックに探究していくことは、学問やスポーツでも、料理でも変わらないと思います。

本田:帝国ホテルに入ったのは2009年。東京で働いたのは帝国ホテルだけ?

片山:フランスから帰国後、都内の新規オープンのカフェで料理長として働きました。いわゆるファインダイニングやミシュランガイドとかとは無縁の店でしたが、責任者として働くのはいい経験だと思い、2年ぐらい、そのカフェにいました。

本田:東京で働いた後、群馬でレストランをオープンする。

片山:地元、群馬に帰ってきて、地元の食材を使うレストランで2年ほどシェフをして、その後、独立しました。

メインディッシュの「⾚城⽜」。「シェフのおまかせディナーコース」16,500円〜より 写真:お店から

本田:ひろ(片山さん)と会ったのは2017年4月だよね。

片山:僕が開業して、ちょっと経った頃です。レストラン「TIRPSE(ティルプス)」で、33歳以下の若手シェフのイベントがあって、「Margotto e Baciare(マルゴット エ バッチャーレ)」の加山賢太さん、「Reminiscence(レミニセンス)」の葛原将季さん、「abysse(アビス)」の目黒浩太郎さん、元「TIRPSE」のシェフで現Mr. CHEESECAKEの田村浩二さん、元「La Cime」で現「middle」の藤原康浩さん、「TTOAHISU(トアヒス)」の山下泰史さんといった皆さんとご一緒させていただいて、その時だと思います。

本田:当時、俺と「TIRPSE」のオーナーだった大橋直誉と二人で「Seven Samurai(セブン サムライ)」、7人のシェフと7つの日本酒の蔵のコラボディナーをするというイベントをやっていた。

片山:この「Seven Samurai」が僕としては大きな転機になったと思います。地方にいて、僕の店はファインダイニングというカテゴリーではなかったし、皆さんと勝負できるとは思っていませんでした。皆、年齢も近いのに、目黒くんとかは、もう「ミシュランガイド」の星を取っていた。すごくうらやましく思っていました。群馬から東京を憧れの眼差しで見ていて、才能って何だろう、何か自分の殻を壊したいと思っていた時期で、駄目元で応募したら、ご縁があって参加することになりました。

本田:あのイベントがあったから、今の繋がりもある。

片山:そこから始まった繋がりで、シェフ同士、何か力になりたいという関係が、今でも続いているのがありがたいですね。

偉大なるシェフの名言に導かれ、掲げた上州キュイジーヌ

「まえばしヒラメ」。ヒラメの活魚を養殖  写真:お店から

本田:群馬・みなかみ町の「別邸 仙寿庵」でパリ「PAGES(パージュ)」の手島竜司シェフを招いた「Inspire by Relux」というイベントをやった時、ひろには群馬の食材などのアドバイスとか、イベントのサポートをしてもらったよね。その時、2017年に会った時のメモを見返していたら、地元の生産者と繋がって、群馬の食材を調理し、群馬で作られている器に盛りつけた上州キュイジーヌという言葉をすでに使っていた。

片山:当時からコンセプトは変わってないですね。

本田:あの当時は、まだ、デスティネーションレストランという発想そのものが日本にはなかった。一部にそういったレストランをやっている人はいたけどね。だから、最初、上州キュイジーヌって聞いた時、この子、何言ってんだと思ったぐらい。でも7年前ぐらいからそういうことを掲げて、実行していたのは、今思えば、先見の明というか、すごいことだよね。

片山:いやいや、そんなすごいことではないです。

「鮎」 鮎をソテーし、鮎の肝のクルトンとハーブを重ねた一皿 写真:お店から

本田:元々、高崎に戻ろうと思ったのは、フェルナン・ポワン(フランス料理の神様と言われる伝説のシェフ)の「若者よ、故郷に帰れ」という言葉からだよね。「その街の市場に行き、その街の人のために料理を作れ」。でもあの当時そんなことを言って、群馬で店やっても誰も理解してくれないじゃん。今なら「デスティネーションレストラン。地元の食材を使ってすばらしい」となるけど、あの当時は、お客もそういった考えについてくる時代じゃなかった。よくそんな時に上州キュイジーヌをやったよね。

片山:フェルナン・ポワンの言葉がどうしても僕の心にあって。偉大なシェフの下から名シェフたちが故郷に戻り、それぞれの地方で店を成功させて、三つ星を獲得するというストーリーが、すごく美しく見えたんです。僕は東京や世界では勝負できないし、自分の器もわかっていた。でも絶対に群馬、上州だったら歴史の1ページを作れるはずだという思いは当時からあったんですよね。それをやり始めたのが7年前。お客様に理解されているんだろうか。毎日がそんな感じでした。上州にこだわらないから、東京のものを出してと言われることもありました。

本田:「別に群馬の食材じゃなくていい」みたいなことを、最初は言われたんだろうなと思う。

片山:「白井屋」でも同じコンセプトを掲げていますが、明らかに、今の方が上州キュイジーヌという認知度が高い。あと、「ゴ・エ・ミヨ」のような外部の評価をいただいたりして、市民権を少しずつ得てきているのかなと思います。7年経って、群馬、上州、前橋にこだわる意味とか、この「白井屋」でやる意味とかが理解され、いろんな人とのご縁もあって、上州キュイジーヌが確固たるものになってきていると思います。

本田:よく、今までコンセプト、折れなかったよね。上州キュイジーヌ、こいつ、何、言ってんだって、多分、思われてたと思うよ。

片山:上州やめた方がいいんじゃないかと言われたこともありました。けれど、1回試させてくださいと言って、なんとか「白井屋」の「the RESTAURANT」の開業にこぎつけました。うれしいのは川手さんがすごく理解してくださって。片山は上州キュイジーヌ、群馬の料理を表現するべきだって言ってくれて、今でもフォローアップしてくれています。そこはすごく誇りや励みになってますね。

地元の筍のフランに上州地鶏のコンソメを注ぐ 写真:お店から

本田:最初、群馬にどんな食材があるのかというところから始まるわけじゃない。今なら、デスティネーションレストランが増えてきて、地方の食材も注目されて、レベルの高いものも出てきている。けれど、当時は、そこまでにはなっていない。開拓するのも大変だったでしょう?

片山:最初はそうでしたね。使いたい食材の生産者とせっかく出会っても、その後、続かなくて、また探す。そんなことがよくありました。料理や食材の質を一緒にレベルアップしようとか、そういうモチベーションのある方、熱意がある方とは未だに関係が続いています。東京に卸すよりは「白井屋」や片山さんに一番いいものをと言ってくださる人もいて、ありがたいですよね。それはこれまで積み重ねてきたものがあるからだと思います。

本田:互いにレベルアップしてきたというのもあるよね。デスティネーションレストランでよくあるのが、ハワイなんかそうだったんだけど、なかなかいい食材が地元だけでは手に入らないということ。90年代ぐらいに、ハワイのシェフたちが、ハワイのレベルを上げようと、農家や生産者と組んで、こういう野菜が必要だとか、鶏や牛、豚とかもこのぐらいのレベルのものが必要だとか、だから、一緒に努力しようとなった。そうすると、両者のやり取りがあって、どんどんレベルが上がっていく。生産者だけだと、レストランではこういうものが必要だとか、このレベルのものが欲しいとかがわからない。

片山:おっしゃる通りだと思います。シェフと生産者、お互いの気づきでより良いものができる。例えば、冬場のちぢみほうれん草。根っこもおいしいのに、農家さん、根っこは売り物にならないと言う。私たちのレストランは根っこ付きでいいんですよと言うと、驚かれますね。シェフの常識、農家さんの常識、双方の思いがわかると、いろんな発見があります。

郷土料理の「おきりこみ」を冷製にリメイクした一皿「OKIRIKOMI」  写真:お店から

本田:ひろみたいなシェフがいると、地元食材のレベルも上がる。これから、群馬にも新しいデスティネーションレストランが増えるかもしれない。今、群馬、いろいろ回っていて、「別邸 仙寿庵」オーナーの久保くんと一緒に群馬を盛り上げなきゃと言っています。

片山:素晴らしい!

本田:何がデスティネーションなのか、何が受けるのかというのは、やっぱり外からの目がないとさ、わからない。でも、群馬、いいレストラン、増えてきてるよね。そうなると、シェフたちも増えて、切磋琢磨してもっといいものができるかもしれない。一軒だけ頑張ってもさ、農家や生産者のビジネスもあるから。正論を言っても広がらない。ひろが、最初に上州キュイジーヌで生産者の開拓を始めたのは、群馬にとっても価値のあることなんだなと思う。

片山:そう言っていただけて、うれしいです。ありがとうございます。

アートホテル「白井屋ホテル」だからこそ生まれる料理

レストラン内観  写真:お店から

本田:「the RESTAURANT」を開業してから4年目。どうですか。変化はあるの?

片山:コロナ禍の真っ只中での開業だったので、その当時と今との比較は難しいですけど、開業当時より料理は安定してクオリティの高いものを提供できていると思っています。当時より、ホテルあるいはレストラン自体のチームができあがっていて、僕自身の思考の整理だったり、クリエーションのロジックやフォーマットができていて、そこに、川手さんからの刺激や他のレストランのシェフのエッセンスを加えて、バランス感覚が安定してきたかなと思っています。経営的な面でみると、ホテルやレストランの稼働も、前年比でどんどんお客様に来ていただけているという実感です。

「上州地鶏」 ⽕⼊れをした上州地鶏に地鶏のレバームース、ナスのピューレ、トマトのジュレを重ねた前菜。ドリンクのペアリングとともに 写真:お店から

本田:もはや、地産地消は当たり前で武器にはならない。自然環境に従うことは料理人にとって必然ということだね。今は、その一歩先に行かなければいけないというのは、確かにある。「白井屋」はホテル自身がアートデスティネーションを掲げている。これも面白い考え方だよね。料理の中でアートはどう表現しているの?

片山:ゲストにとって一番わかりやすいのは、色彩感覚や切り方、フォルムなどのビジュアル的要素が一番大きいと思います。上州キュイジーヌは別にして、「白井屋」らしさというか、アートホテルで食べる意味をビジュアルで表現する。全部じゃないですけど、コース料理の中に鮮やかな色彩や、一見奇抜なビジュアルをはめ込むようにしました。それで、ゲスト満足を捉えつつ、そこにリメイクした郷土料理「おきりこみ」を散りばめて、バランスをとっています。あとは味わいとして、誰が食べても圧倒的においしいフランス料理のベースをテクニックとして使った一品と、香りもテクスチャーも複雑で、考えながら味わう、まるでアート鑑賞をするような一品を入れています。料理はアートだと思ってはいないんですけど、共通する、リンクするような要素は料理にあると思います。映画やアート作品を見た時のちょっとした高揚感をコースの中に意識的に入れ込む。そういったバランスで考えています。

本田:シェフってアーティストだと思うんだよね。美的センスがない人がやると、なかなか難しいじゃない。料理は皿の上のアートみたいな部分もあるから。でもそこに、単なるアートじゃなくて、「おきりこみ」のような群馬的なものを入れながら、アートにしていくというのは、センスがないとできない。「おきりこみ」とフレンチって、一歩間違えると野暮ったくなる。

片山:最近ホテルでは宿泊者向けに夜食として「おきりこみ」を提供しています。メインダイニングでモダンな「OKIRIKOMI」を食べて、ラウンジで夜食として「おきりこみ」を食べる。皆さんにすごく喜んでもらっていて、デスティネーションらしさというか、群馬を感じてもらっています。

レストラン内観  写真:お店から

本田:群馬で7、8年レストランをしていて、この食材がすごいというものがある?

片山:すごく有名になった代表だと赤城牛、赤城和牛。今、フォーシーズンズとかリッツ・カールトンとかからも引き合いがあって、相当お願いしないと、キープできなくなってきています。シンガポールやフランスでも結構人気があります。赤城牛、赤城和牛は徹底的に品質管理されていて、こだわり抜いた食材で、他の上州牛とかとは肉質も全然違います。開業してからずっと鳥山牧場さんと取引をさせてもらっているんですが、とにかくこだわりが半端ではない。当時から肉への思いというか、熱がすごくて、そういう人がやっぱり、全国的にも世界的にも名前が通ってくるようになるんだなと思います。あとは沼田市、金井農園さんのブランド米、小松姫。「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で金賞を取った米で、90点以上という高いスコアを毎年キープしています。僕はこの小松姫がブレークするんじゃないかなと思ってます。

本田:最初の頃に見つけたものがやっぱり、今もいい感じなんだ。

片山:そういったものが多い気がしますね。この生産者さんはすごい思いがあるという人は、長く付き合いができていますね。品質も未だに向上し続けています。

赤城牛を使った一皿  写真:お店から

本田:デスティネーションレストランをやるからには、そういう生産者さんとの付き合いがすごく大事になってくる。自分で全部育てるわけにはいかないし、その人たちの協力あってこそだから。他、どっかあるの?

片山:小さな生産者ですけど、前橋に「スリーブラウン」という家族経営のチーズ工房があります。赤城山の現地まで行かないと基本、買えないチーズ。「7 Samurai」で使ったカチョカバロはここのチーズです。あれから、もっとクオリティが上がっています。ブラインドで食べてもフランスのチーズと思うぐらいです。ただ、毎週末にしか売り出さないので、僕もスタッフと交替で買いに行っています。

本田:買いに行ってんだ。

片山:行っています。そこでコミュニケーションしています。今年の出来はどうですかとか、暑くなってきたから、牛は大変そうですよねとか。母方の実家が、高崎の農家で、乳牛を飼っていたんです。生産者さんのところを訪ねると、幼少期の頃の記憶が蘇って、そこから出てくる風景や体感、感覚がクリエーションになって、料理に繋がるんじゃないかなと思っています。なので、直接、生産者のとこには行くようにしています。

本田:こういう食の情報は、地元の他のシェフたちに広げていった方がいいよ。他のシェフたちも使ったりしているの?

片山:赤城牛や米に関しては使っています。「Beef Laboratory(ビーフラボラトリー)」の岡田さんは多分ご存じだし、「ファン・ダルクオーレ(FAN×DALCUORE)」の星野さんも「ヴェンティノーヴェ」の竹内さんも絶対知っていますね。皆、めちゃくちゃ仲良くて、お互いの店を行き来しているんですよ。いい食材は皆で情報を共有しています。

本田:いいね。でも、ひろは最初の7年前から発掘していたわけだ。

片山:ものすごく、今、シェフとして幸せです。

群馬ガストロノミーの歴史の1ページを刻む

郷⼟料理の「おきりこみ」をリメイクした料理「OKIRIKOMI」 ⾓切りの根菜にうどんのムースと昆布とコンソメの熱々のスープを合わせ、さまざまなフレーバーのオイルをまとわせる

本田:今後はどういうふうにしていきたいの、ひろは?

片山:シェフとしては、上州キュイジーヌを広めていきたいですね。まだ東京にも世界にも十分に届いていないと思っているので。「the RESTRAUNT」は「白井屋ホテル」の中にあるという利点もありますが、ホテル内のアートや建築に埋もれて、食の力が発揮できてないような気もします。シェフとして、食だけで呼べる、デスティネーションレストランとしての「the RESTRAUNT」を加速させたいと思ってます。もう一つ、ホテルの総料理長としての役割があります。レストランだけでなくベーカリーやパティスリー、アートラウンジなどの営業も見ているんです。そういったマネジメント能力も成長させていきたいですね。日々、難しさを感じています。今後を考えるなら、シェフとしての成長と、自分の料理をクリエイトする責務、それから「白井屋ホテル」としてのチームビルディング。「白井屋ホテル」というのを広く認識していただき、群馬、上州の魅力がより一層高まるようにしていきたいですね。

本田:今は、ベーカリーとラウンジの朝食、パティスリーを見ている。

片山:ホテル内に4つの食の部門があって、それぞれに担当者がいます。例えばパティスリーだったら「EMME」の延命寺美也シェフが監修してくれているので、この季節はこのタルトで、こういう色彩でいきましょうといった打ち合わせをして、現場のパティスリーのスタッフと原価や価格、販売構成などの全体のスケジュールを共有するといった作業をしています。ベーカリーやラウンジも同様ですね。それぞれにシェフがいるので、新メニューやメニュー変更などをその都度話し合っています。

群馬県産マスカットに川場村ヨーグルトのブランマンジェ合わせたデザート  写真:お店から

本田:最後に聞いておきたいんだけど、「白井屋」に入る前に、自分のレストランを経営していたわけでしょ。その店を閉めて、「白井屋ホテル」をやろうとなったのはなぜなの?「JINS」の田中さんから声がかかったという話だったけど。

片山:田中さんが店に来た時、上州キュイジーヌという群馬の食にフォーカスしたシェフがいることを喜んでくださったんです。その縁があって、田中さんが主催する「群馬イノベーションスクール」という起業家や地域活動家を発掘・育成するビジネススクールに、2017年、4期生として参加させていただきました。料理は好きだけど経営者としての学びや知見が本当に乏しかったので、ビジネスって何かという基礎を田中さんのスクールで1年間、勉強しました。そこから田中さんと関わる機会も増えていく中で、前橋「白井屋ホテル」の話も耳に入るようになってきたんです。当時はまだ設計図程度でしたが、何かすごいものができるという予感がしていました。目標の一つだったオーナーシェフになることはできたけど、まだまだ上州キュイジーヌも理解してもらうのが難しい時代。シェフとして何が足らなかったんだろう、他に何かチャンスがあるんじゃないかと悩んでいる時に、田中さんから声をかけてもらいました。これはもうセレンディピティが訪れたと思って、店を閉めて「白井屋」でやっていく決断をして、今に至ります。

本田:それはなかなかの決断だね。

片山:大きな決断だったと思います。当時は、料理もリーダーシップも全然できていなくて、皆さんが、僕を耐え忍んで育ててくれたという感じです。今もまだまだ足りませんが、少しでも恩返しをしたい。「白井屋」でシェフとしてどんどん活躍して、個人としてのクリエーションも、「白井屋」としての存在も、群馬の歴史の1ページになるようにしたい。そういう思いは、決断した時から、ずっと変わらないですね。

左:「フロリレージュ」川手シェフ、右:片山シェフ

本田:これからも楽しみだね。いい話が聞けました。群馬を盛り上げたいと思っているので、次、群馬ツアーを秋ぐらいにやろうと思っています。

片山:その時はぜひ「白井屋」も経由に入れていただいて。

本田:ぜひぜひ訪れたいです。引き続き頑張ってください。

片山:ありがとうございます。


<店舗情報>
◆the RESTAURANT
住所 : 群馬県前橋市本町2-2-15 SHIROIYA HOTEL 1F
TEL : 027-231-4618

取材:本田直之、食べログマガジン
文:小田中雅子

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