(写真:共同通信)

写真拡大

これから行楽や帰省など、家族で旅行に出かけることが多い時期。しかし人の移動が頻繁になると、感染症被害も拡大しやすい。注意すべき12の感染症について、感染しやすさ、危険性を専門医が“評価”した!

「致死率30%の人食いバクテリアの感染者が、過去最多となった昨年の同時期に比べても、今年は28倍のペースで増加しています。

また、2024年に入り、国内でははしか感染者も確認。さらに宮崎県では百日ぜきの患者が増加していることが報じられています」(医療ジャーナリスト)

コロナ禍以降の感染症に関するニュースが続いている現状を、医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんは、こう分析する。

「コロナ禍の感染対策によって、全般的に免疫力が落ちてしまっていたり、ワクチンを敬遠したりする人も多いことが要因でしょう。

アメリカのケースウェスタンリザーブ大学の研究チームがRSウイルスの感染状況を調査したところ、コロナ既往の小児は、コロナ既往がない小児に比べ感染リスクが1.4倍と高かったため、コロナ感染によって免疫力が落ちるとも考えられています。 さらに50歳を過ぎて、過去に獲得した免疫が落ちてきてしまっている事例もあります。 ゴールデンウイーク(GW)が近づき、行楽や里帰りの予定を立てている人も多いと思いますが、GWは人の移動が頻繁になり、感染症の被害拡大が懸念されます」

このように感染症リスクが高まっているからこそ、それぞれの感染症の特徴を理解、予防することが求められるのだ。

上先生に12の感染症の感染しやすさ、危険性を、S〜Cの4段階でランク付けしてもらった。

【1】はしか(麻疹)〈感染度・S、危険度・A〉

はしかは空気感染するため感染力は非常に強く、インフルエンザの10倍もあるともいわれる。

「潜伏期間は10日ほど。初期段階で風邪症状があり、一度熱が下がった後、再び上がり発疹期に入り、赤い発疹ができます。特効薬はなく対症療法となります」(上さん・以下同)

国立感染症研究所によると、約30%の患者が合併症を引き起こす。半数を占めるのが肺炎。高齢者の場合は死亡することもある。

ワクチンは2回接種が求められているが、1972年9月30日以前に生まれた人は1回もワクチン接種をしていない可能性が高く、1972年10月1日から1990年4月1日までに生まれた人は1回接種の可能性が高い。

「過去の感染歴がわからない人、ワクチン接種が十分でない人は、抗体検査をおすすめします」

■手足が1時間に1cmの速さで壊死、急死する

【2】人食いバクテリア〈感染度・C、危険度・S〉

劇症型溶血性レンサ球菌感染症といって、発症後の致死率が30%と極めて高いのが特徴だ。

「主原因となるのは溶連菌の一種であるA群溶血性レンサ球菌です。溶連菌は咽頭炎を引き起こすことが特徴ですが、ごくまれに劇症型溶血性レンサ球菌感染症を発症。

感染経路は飛沫感染や接触感染で、はじめは四肢の先端部分から軽い痛みや発疹が出てきて、手足が急激に腫れ上がり、1時間に1cmのスピードで壊死。発症後、半日から2日ほどで亡くなるケースが多いです。ワクチンはありません」

【3】新型コロナ〈感染度・A、危険度・B〉

「5類になって死亡数は減ってきていますが、頭がぼーっとするブレインフォグ、せきが続くなど後遺症が多いので、まだまだ要注意」

【4】インフルエンザ〈感染度・A危険度・B〉

「コロナ禍の感染予防によって、免疫が弱まっていることから、今シーズンは流行しました。次シーズンの流行も例年よりも早まる可能性があるので、早めのワクチン接種が望まれます」

【5】風疹〈感染度・A、危険度・B〉

症状自体は軽いが、妊婦が感染すると早産や流産、死産、胎児に難聴や目、心臓に障害を残す先天性風疹症候群を起こすリスクがある。感染者1人から5〜7人に広がるほどの感染力だ。

「感染経路は飛沫感染が主ですが、接触感染もします」

1962年4月1日以前生まれの人はワクチン接種をしていない可能性が高く、1979年4月2日から1987年10月1日生まれの人は個別接種のために接種率が低いなど、年代によってワクチン接種状況が異なる。

【6】百日ぜき〈感染度・B、危険度・B〉

現在も幼児へのワクチン接種がされて予防できているが、一部、接種をしていない人や免疫が十分でない人もいる。

「さらに高齢者では、免疫が下がり感染するケースも。大人で3週間せきが続いている人の18.5%が、百日ぜきが関与しているという調査もあります。

日本では抑え込まれていますが、グローバル化によって、東南アジアやアフリカから持ち込まれることもあります」

【7】おたふく風邪〈感染度・A、危険度・C〉

「ムンプスウイルスに飛沫・接触感染すると、耳下腺が腫れておたふくのように見える症状に。大部分は、症状自体は軽く終わります。しかしまれに起こる精巣炎や卵巣炎、髄膜炎などの合併症が怖い。感染歴がなく、予防接種をしていない人は要注意です」

【8】破傷風〈感染度・C、危険度・A〉

「日本の破傷風発症率は、米国の9倍、欧州の4倍。破傷風菌は、土の中などに常在しており、なかでも関東ローム層でも検出。ガーデニングや山登りが趣味の人などはリスクが高いといえます」

病状が進めば、痺れや麻痺が残る可能性も。

「強直性痙攣といって筋肉が強く収縮し、背中がそり返り、そのまま骨が折れて亡くなるケースもあります。2018年の破傷風の届出数は134です」

ワクチンに関しては、1967年生まれ以前の人は接種していない可能性が高い。

「さらに1968年以降に生まれた人も、その効果は50年ほどで低下するといわれるので、50歳以降は10年ごとに追加接種しておくと安心。1回あたり3千〜5千円ほど」

【9】帯状疱疹〈感染度・C、危険度・B〉

80歳までに3人に1人が発症するといわれる帯状疱疹。

「原因となる水疱瘡のウイルスは、一度かかると神経に潜んでいます。加齢や疲労で抵抗力が落ちたり、ストレスなどにさらされると、潜んでいた水疱瘡のウイルスが暴れ出すというイメージ」

好発年齢の50代以上を対象に、ワクチン費用の一部を負担する自治体が多くある。1回あたり5千円〜2万円ほど。

■ワクチン接種の機会は年代によって逃していることも

【10】日本脳炎〈感染度・C、危険度・A〉

感染しても発症するのはわずかだが、ひとたび発症すると後遺症が残ったり、死亡する確率が高い。

「1歳以上で予防接種をするので1歳未満の乳児で感染するケースがあります。2015年には千葉県で日本脳炎患者が発生。日本脳炎ワクチン接種前の10カ月の男児で、重度の四肢麻痺が残ったそうです」

日本脳炎のウイルスは、豚が持っており、蚊を媒介にして人に感染。全国的に定期接種されているが、媒介する蚊が少ない北海道で定期接種が始まったのは、2016年から。また、1995年度から2006年度までに生まれた人はワクチン接種の機会を逃しているなど年代によって異なる可能性があるので、母子健康手帳などで確認しておこう。

【11】肺炎球菌〈感染度・C、危険度・A〉

「肺炎を起こす菌です。高齢者の場合、肺炎は死に至るので要注意。重症化した場合、20%が死に至るともいわれています。患者の約70%が65歳以上といわれています。肺炎球菌ワクチン(65歳以上は一部自己負担あり)の高齢者の接種率は2014〜2018年度で32.4〜38.3%、2019年度で13.7%、2020年度で15.8%と低迷しています」

【12】デング熱〈感染度・B、危険度・C〉

東南アジアや南米などではポピュラーな感染症で、ネッタイシマカなど日本にもいる蚊が媒介。2014年には70年ぶりに国内で感染者が確認された。

「日本は冬に蚊がいなくなるので流行しませんでしたが、今後、温暖化によって流行する可能性も」

ワクチン接種や抗体検査を視野に入れ、日常的には手をよく洗い、飛沫感染を防ぐため人混みではマスクを着用するなどして予防することが大切だ。