シューズ、バッグ、そしてメガネまで? メガネ業界は近年急速に成長しており、ファッションモデルのベラ・ハディッドとTikTokのおかげで、奇抜なメガネが2024年のトレンドに仲間入りしようとしている。統計データプラットフォームのスタティスタ(Statista)によると、メガネ市場は現在、350億ドル(約5兆2500億円)に及ぶと推定されており、さらにリテール業界に詳しい市場調査企業ファクトエムアール(Fact.MR)の予測では、ラグジュアリー業界の市場規模は2033年までに560億ドル(約8兆4000億円)に達するという。

メガネブランドのなかには、ニューヨークを拠点するセリマ・オプティーク(Selima Optique)のように、エンターテインメント企業とのパートナーシップ提携によって成長を遂げたブランドもある。創業31年のセリマ・オプティークはこの10年で、映画『ドライヴ(原題:Drive)』の主人公を演じたライアン・ゴズリングのために特注メガネを作っている。また、マイケル・ジャクソンやリアーナがパフォーマンスで着用した特注メガネを用意したのも、このセリマ・オプティークだ。なお、同ブランドのオーナー兼デザイナーでもあるセリマ・サラウン氏は、自社の収益や成長率の具体的な数字は明かしていない。

セリマ・オプティークが最近コラボした映画は、2024年オスカー賞受賞作品の『哀れなるものたち(原題:Poor Things)』だ。ビクトリア朝様式の限定メガネコレクションは、エマ・ストーンが演じた主人公をモチーフにしたもので、わずか50本のみ販売された。価格は580ドル(約8万7000円)で、3月14日の販売と同時に瞬く間に完売した。

絶大なる「映画」の影響力



メガネと映画の結びつきを当たり前にしたのは、俳優のスティーブ・マックイーンだとサラウン氏は指摘する。というのも、映画『華麗なる賭け(原題:The Thomas Crown Affair)』で主演のマックイーンがペルソール(Persol)のサングラスを着用したことで、同ブランドが一躍有名になったからだ。

ファッション業界のコングロマリットであるLVMHも、エンターテインメントに特化したパートナーシップ提携を強化しつつある。今年2月に同社は、エンターテインメント部門「22モンテーニュ・エンターテインメント(22 Montaigne Entertainment)」を設立した。北米LVMH会長兼CEOを務めるアニッシュ・メルワニ氏は、このプロジェクトには映画とのコラボレーションが含まれると話した。

サラウン氏によると、セリマ・オプティークならではの独創的なデザインが、映画の衣装デザイナーたちに刺激を与え、コラボ実現につながっているという。その一方で、業界をリードするルックスオティカ(Luxottica)やLVMHのテリオス(Thélios)は、より一般的なデザインに注力していると同氏は指摘する。

「映画の影響力というのは、我々の想定をはるかに上回る。『哀れなるものたち』のおかげで、顧客から個性的なメガネを求めるメールや要望が殺到した」。

映画とのコラボで成長をめざすラグジュアリーブランド



セリマ・オプティークが数量限定メガネの生産を迅速に実現したことも、コラボする相手にとっては魅力的にうつる。『哀れなるものたち』とのコラボでは、通常6カ月かかるコレクションを6週間で仕上げるために「手回し」したとサラウン氏は話す。「我々はパリにオーダーメイド専門の工房を持っているが、近いうちにニューヨークにも立ち上げたいと思っている。そうすれば、少量生産がとても迅速にできるようになる」。

そのほかのラグジュアリーブランドも、映画とのコラボで売上拡大をめざしている。たとえば、ジュエリーブランドのジェイ・ハンナ(J.Hannah)は、2023年に公開された映画『プリシラ(原題:Priscilla)』のために、独立系エンターテインメント企業のA24と共同で400ドル(約6万円)のロケットペンダントを作った。また、腕時計ブランドのハミルトン(Hamilton)は小道具界の巨匠であるダグ・ハーロッカー氏と提携し、今年2月に2800ドル(約42万円)の『デューン 砂の惑星 PART2(原題:Dune: Part Two)』限定モデルを作った。これに関連して、主演のティモシー・シャラメはこの映画のプレミア上映の際に着用するために、『デューン 砂の惑星 PART2』をテーマにしたカルティエ(Cartier)のカスタムネックレスをデザインしている。

映画のファンは層が厚く、映画とのコラボはそうしたファンの心をしっかりつかむことができる。サラウン氏によると、3月16日にセリマ・オプティークの『哀れなるものたち』コレクションがアクセサリー協会(Accessories Council)の「メガネ部門 最高アクセサリー(Eyewear, the Ultimate Accessory)」賞を受賞した際には、イベント会場の警備員が、受賞アイテムが盗まれないように必死に警備しなければならないほどだったという。

人々の働き方や価値観の変化も成長要因に



セリマ・オプティークの成長を後押ししているそのほかの要因としては、世の中の働き方が変わり、リモート勤務が浸透したことも挙げられる。「誰でも、Zoomのリモート会議のたびに毎回同じメガネをかけることは避けたいのだ」とサラウン氏は分析した。

さらにサラウン氏は、顧客は個性的なメガネにお金をかけるのを厭わないと指摘する。セリマ・オプティークの商品価格相場は通常300ドルから500ドル(約4万5000円から7万5000円)である。最近インフレの影響を受けて、50ドル(約7500円)の値上げに踏み切ったが、売上には全く影響しなかったという。

セリマ・オプティークではニューヨークにある4店舗で、『哀れなるものたち』コレクションの関連アイテムの展示や限定トートバッグのプレゼントを実施し、コラボをアピールした。

メガネ業界では、ファッションブランドとのコラボも拡大を見せており、たとえば、3月9日にはメゾン・マルジェラ(Maison Margiela)と韓国のメガネブランドであるジェントル・モンスター(Gentle Monster)、3月19日にはアルワリア(Ahluwalia)とオランダのメガネブランドであるエース&テート(Ace & Tate)がそれぞれコラボを発表した。

[原文:Fashion Briefing: Film x fashion collaborations are now luxe]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:SI Japan、編集:都築成果)