東アジアスーパーリーグで千葉ジェッツ優勝の原動力となった富樫勇樹 ©EASL

【千葉ジェッツが事実上の初代王座に輝く】

 東アジアのバスケットボールナンバー1チームを決める、東アジアスーパーリーグ(EASL)。その優勝決定トーナメント「EASL Final Four 2024」の決勝戦が3月10日、フィリピン・セブのフープスドームで行なわれ、Bリーグ代表の千葉ジェッツが韓国・KBLのソウルSKナイツを72-69で撃破し、東アジアの頂点に立つとともに賞金100万米ドル(約1億4700万円)を獲得した。

 シーズンを通してEASLが開催されたのは、この2023-24シーズンが初めてのことだったため、千葉は事実上の「初代王者」に輝いた。

「厳しい日程のなかでも言い訳をせずに(Bリーグの)レギュラーシーズンとこのEASLに努力し続け、全員で戦いぬいた結果だと思うので、うれしいです」

 ファイナルフォーの2試合で、抜群の勝負強さを見せて千葉に王座を呼び込んだ富樫勇樹は、いつものクールさを抑えられないほど興奮した様子で、そう語った。

【課題多き船出】

 EASLは、今はまだ認知度が高くないうえに、この大会にかける価値もそれほど高いとは言えない。日本ではその存在を知っているファンがどれだけいるかも怪しい。

 だが、たとえば後に成功を収めるベンチャー企業も、最初は資金繰りなどに苦戦しながらもなんとか事業を軌道にのせ、やがて人々がよく知るブランドに成長していくものだ。EASLもシーズンを通した戦いが初めて実施されたわけで、東アジアのプロクラブの頂点を決めるというコンセプトの車輪はゆっくりと動き始めた段階でしかない。

 新型コロナウイルスの影響などにより本来目指していた2022-23シーズンからの開催ができず、代わりに2023年3月にEASLチャンピオンズウィークという集中開催方式で大会を実施するなど、周囲からすれば先が思いやられるような出だしだった。

 以上のような経緯もあってEASLの存在感はまだ薄いが、同リーグの共同創設者で昨年11月からCEOに就任したヘンリー・ケリンズ氏は、「今季はまずシーズンを通しての興行開催が無事にできるかどうかに注力した」と語り、今後は「本格的に商業的な面に力を入れていくことで、リーグをより永続的なものとしながら人気を高めていく」とした。


EASLのヘンリー・ケリンズCEO photo by Kaz Nagatsuka

 ヘンリー氏は一方で、リーグの長として耳あたりのいいことばかりを言うのではなく、反省すべき課題についても忌憚なく語る姿勢を持つ。

 たとえば今回のファイナルフォーに関してだが、開催概要の発表が2月初旬と直前で、現地にも千葉ファンはかけつけたが、その数は多いとは言えなかった。ヘンリー氏は「もし開催発表が4カ月早ければ、今回来てくれた倍の数(の日本のファンが)訪れていたに違いない」と語り、「来季のファイナルフォーの概要は、シーズン前に発表する予定だ」と改善を誓った。

【日本市場を狙うEASL】

 現状、EASLには中国リーグ・CBAが参加していない。そんななかで、香港に本社を置く団体が、中国、日本、韓国などのチームを参加させる類似の大会「ライジング・イースト・アジア・リーグ(Realeague)」を立ち上げる計画が進んでおり、それもEASLの存続が危ぶまれる理由となっている。

 Realeagueの詳細はまだ明らかになっていないが、ヘンリー氏は「われわれとしてはBリーグ、KBL(韓国)、PBA(フィリピン)、P.リーグ+(台湾)、国際バスケットボール連盟といったステークホルダーとの関係強化に集中していますし、来季は今年の倍、すばらしいシーズンになります」と自信を見せる。同氏はまた、2025-26シーズンには他国リーグを加えてさらにチーム数を現行の8から16へ増やす考えを明かしている。

 EASL は、国際バスケットボール連盟からの公式な支持を得ていることもあり、EASLのほうが優位な立場にあると言われている。一方で、EASLの永続的な開催はどれだけ安定的に資金を調達できるかが鍵を握るとされ、投資銀行で働いていた経験があり財務に明るいヘンリー氏に期待がかかる。

 その意味では、これから日本のマーケットでEASLがどこまで浸透していくかが、重要となる。ヘンリー氏は、EASLに参加するリーグにはそれぞれが「旗振り役」になってもらう必要があるとしながらも、とくに創設から急速な成長を遂げビジネス面ではアジアのみならず世界においても存在感を増しているBリーグが、重要なパートナーだという認識を示している。

 日本のマーケットへの働きかけを狙うヘンリー氏は、「日本のバスケットボールファンに『EASLのことを知っていますか』と聞いたら『知っている』と答える人は30%もいないのでは」とEASLの認知度の低さを認識しており、「そこをマーケティング面からのアプローチで変えていきたい」と語る。



ホームのような後押しを受けて栄冠を手にした千葉ジェッツ ©EASL

【もっと注目されるべき大会】

 今回のファイナルフォーの開催地・フープスドームは、バスケットボールに関連した名称とは裏腹に、設備が整っているわけではなく、シャワーも完備されていないため、選手たちは宿舎に戻ってからようやく汗を流せるという環境だった。

 にもかかわらず、原修太などは純粋にバスケットボールを楽しむファンの前でプレーできたことに興奮を覚えた様子で、「またここでやりたい」と語った。そして、危惧される今後のEASLの継続についても「もっと、もっと注目される大会であるべきですし、サッカーみたいにみんなが出たいと思ったり、もう少しチームが増えて規模が大きくなるとさらによくなると思います」と続けた。

 千葉が優勝を遂げたことでBリーグの力を見せられたが、なかでも富樫勇樹の俊敏性を生かした魔法使いのようなプレーぶりは、バスケットボールが国技であるフィリピンの観客や各国メディアの耳目を大いに集めることとなった。

「MVP! MVP!」

 ソウルSKナイツとの決勝戦の最終盤。フリースローを打つ富樫に向けて、スタンドの観客はどよめくようなチャントを鳴り響かせた。富樫本人の耳にも入っており、現地のファンによるそれは彼にとって至福の瞬間だった。

 大会後、ファンの期待通りファイナルフォーの最優秀選手に選ばれた富樫が言う。

「ホテルで従業員の方たちなどを見ていても、すごくバスケットが大好きな国なんだというのを実感しました。フィリピンの方々もそれほど体が大きくないので、僕みたいな選手を見て何か感じたのか、さまざまなサポートをしてくれたので、すごくうれしいです」

 これが3年前ならばフィリピンで富樫のことを知っている人は多くなかったが、ヘンリー氏は「現在は違う」と力説する。

「今は、多くのフィリピン人が彼を見るためにチケットを買うわけです。それは彼が日本代表で活躍しているからだけではなく、身長がそれほど高いわけでもないのにあれだけやっている姿を自分たちに重ねられるからです」

【EASLに感じた希望】

 Bリーグは今後、NBAに次ぐ世界第2位のリーグを目指し、国際事業にも取り組んでいるものの、リーグの英語ページの拡充が遅れるなど課題が残る。そんななかで千葉がEASLで優勝したことで、彼らがBリーグのアンバサダーとなって海外でその名を知らしめ、千葉ジェッツと富樫は少なくないファンを獲得したのは間違いない。

 富樫に「日本のリーグを代表して強さを証明できたか」と問うと、言葉に力を込めて、「クラブチームの国際大会で、日本のチームがこうやって結果を残せたのはBリーグの成長だと思います」と話した。

 バスケットボールを楽しむことが力の源である彼にとって、海外チームとの対戦はいつもとは違う刺激や興奮を感じたようで、「日本代表で海外に行くとアウェーの雰囲気ですが、海外でこれだけホームを感じながらプレーできたのは本当に幸せでした」と微笑んだ。

 現地観戦したBリーグ・島田慎二チェアマンは千葉の社長時代、その手腕でバスケットボール面でも経営面でも千葉を日本屈指の球団に育てあげた人物だ。同氏は、富樫が海外の人々から人気を獲得していることについて、「ファンを味方にしていたことも力になったはず。彼はやっぱりスペシャルで、どこに行ってもすばらしいプレーを見せてくれて本当にうれしい」と目を細めた。

 現地に赴いたわれわれ日本メディアも、千葉が優勝したことでファイナルフォー終了直後は体の火照りを感じていたが、EASLの将来に対しての危惧が頭から離れたわけではない。

 しかしながら、ファイナルフォーの成功や、EASLが狙う日本市場にある千葉が、富樫を含め海外にその存在をアピールした姿を目の当たりにし、その危惧が薄れる感覚を持ったのもまた事実だ。