"ブルーフレーム”の名で、90年にわたって愛され続けるイギリス生まれのアラジンの石油ストーブ。日本でライセンス契約し、開発と製造まで担っている日本エー・アイ・シー社がこのほど専用のストーブファンを発売した。

電源不要で稼働でき、効率的に空間を暖めることで、ストーブを使用したときの体感温度を上げることができ、燃料の節約にもなる。手間のかかるガスボンベの廃棄、備蓄の補充回数も少なく済むメリットもあり、昨年9月にクラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」において先行予約販売を開始して以降、わずか90分で目標金額100万円を達成。3週間後には累計1000個が完売、最終の調達金額は目標の1719%を突破し、早くも12月1日には待望の一般発売に至るなど、予想を超える大反響となった。

日本エー・アイ・シーが昨年12月に一般発売した、ストーブファン。日本でも"ブルーフレーム"の愛称で長年親しまれているアラジンストーブ専用に開発された補助器具だ

○アンバサダーからの「欲しい」が生んだストーブファン

開発を担当した、同社企画本部 商品戦略課 沖田勇磨氏によると、本製品の開発はユーザーの声から生まれたものだそうだ。毎年秋に開催されている、アラジンブランドの商品を一度に集めたイベント「アラジン展」において、アンバサダーとの会話から出た要望だった。

「アンバサダーというのは1年間の任期としてアラジンの商品開発を一緒にお手伝いしてくださる一般のお客様のことです。アラジンでこんな商品が欲しいといった意見や、開発段階の商品をモニターとして使っていただいて、改善点など率直な意見をもらってより良い商品を作っていったり、完成した商品を実際に使ってもらいSNSで使用シーンなどを投稿してもらって宣伝活動のお手伝いをお願いしています。2021年11月のアラジン展の時に、そのアンバサダーさんからストーブファンが欲しいという声がありまして、ストーブファン自体は他社の商品にもあったのですが、本当にアラジンブランドとして商品化するためには何が必要なのかを実際に社内で検討しました。」

というのも、一般的なストーブファンをアラジンのストーブで使うと、天板に段差があるので、設置した際に不安定であったり、グラグラして落ちやすかったり、安全面においてもメーカーとしては推奨できないところもあるという。他にも「十分な効果が発揮できなかったりもするので、アラジンのストーブ専用の純正のストーブファンがあったほうがいい」というメーカー側の思いとも合致した。

アラジンのストーブファンは、ペルチェ素子の表面と裏面の温度差を利用して、熱エネルギーを電気エネルギーに変換しモーターを回す、電源が不要の仕組みで、他の一般的なストーブファンと同じとのこと。ただ、「エネルギーを得る上で重要な温度差を効率的に生み出すための設計の最適化にこだわった」と言うが、この温度が製品化の難易度を高くした点でもあったそうだ。

「ペルチェ素子は電子部品ですので、耐熱温度があります。熱いストーブの上に置いて、仮に耐熱温度を超えたまま使用し続けると部品が壊れてしまいます。そのため、通常使用時でも電子部品を耐熱温度以下に抑えることに苦労しました」

ストーブファンは、本体中部にペルチェ素子を備え、ストーブからの熱エネルギーを電力に変換することで動かす仕組みだ

○「専用」のストーブファンだから苦労した開発

ストーブファンにはペルチェ素子以外にも、モーターが納められている。この2つの電子部品の耐熱温度を超えないように、専用ベースも含めてすべてのパーツそれぞれの形状や大きさ、位置を決定することが難題だったという。

というのも、アラジン専用のストーブファンではあるものの、3種類のストーブで使える仕様にしなければならない。

「1つはガス(カセットボンベ)を使ったストーブで、もう1つは燃料(灯油)が燃えるブルーフレーム。昨年の10月に新たに発売した『ブルーフレームクッカー』にも対応していなければなりません。中でもブルーフレームクッカーは、ブルーフレームのストーブ上で調理もできるのが特徴。調理ができるということは、それだけ火力も大きくなります。ブルーフレームクッカーの上でこのストーブファンを使うと、耐熱温度がまったく持たず、その課題をクリアするのも非常に大変でした」

ストーブファンは、石油ストーブの他に、カセットボンベ式と新たに発売された「ブルーフレームクッカー」の3つの製品に対応している

その解決策として形状にこだわったパーツがストーブに乗せるための専用ベースだ。

まず専用ベースの役割としては、ファンを安定して設置させる以外にも、「かこい」として機能している。このベースによる「かこい」をしなければ、熱が上に逃げてしまうため、ストーブファン本体の下側が温まりにくくなる代わりに上側が温まってしまい、ペルチェ素子の表裏の温度差が小さくなるため、エネルギーが減ってしまいファンの風量が弱くなる。この専用ベースを設けたことで、ストーブの熱を効率的に集めて、本体の上下の温度差を大きくすることができ、1.5倍の風量を生み出す効果につながった。

そして、調理のできるブルーフレームクッカーで使う際の耐熱温度の問題だが、沖田氏によると、当初の専用ベースはブルーフレームクッカーの五徳を避けながら天板の上に設置する構造だったそうだ。しかし、「そうすると、ペルチェ素子の耐熱温度がまったく持たなくて、(五徳は外さずそのまま)五徳の上に載せる現在の仕様に変更して、何とかペルチェ素子の耐熱温度はクリアできました」と話す。

ところが、今度は浮かせた(五徳の上に載せる仕様にした)ことにより、専用ベースの下にできた空間から熱が漏れ出てきて、それをファンが吸い込むので、ペルチェ素子は耐熱温度をクリアしても、ファンのモーターの耐熱が持たないという新たな問題が発生した。そこで、「最終的には、専用ベースの前方(つまりファンの吹き出し側)に大きな開口部を設けることで、そこから熱を積極的に放出するように設計し直し、モーターの耐熱温度をクリアすることもできました。さらに、この前から出た熱はそのままファンが生み出す風に乗って送り届けられるので、より体感温度が上がる一石二鳥の効果にもなりました」という。

このストーブファンでもう1つ特徴的なのが、「創風リング」と呼ぶパーツだ。一般的なストーブファンにはない、アラジンが初めて開発したという、一見するとファンの周りの防護カバーのようなパーツだ。この創風リングには、熱を周りに散りばめてしまうことを抑えて、風をより遠くまで届ける「筒」としての効果がある。この効果を最大限に発揮するためにはリングの大きさが重要だったといい、これを決めるのにも苦労したという。

ストーブファンの技術的なポイントとなっているのが、専用ベースと創風リングの2つの部品

「リングがあまり小さいと、羽根との距離が近すぎて当たってしまったり、風切音がうるさかったり。逆に大きすぎると風が漏れてしまうのであまり効果がありません。大きさを決める際には、筒の中を通る風の風速を計測する“風洞試験”を自作した装置で行い、最終的に直径200ミリがもっとも風量が出るとわかり、かつ筒の厚みも検証してあります。さらに、あわせてファンの羽根の枚数も、実際に4〜6枚の羽根を付け変えて比較検証を行いました。結果、多すぎる羽根は重量が重たくなり回転数が落ちて、かえって風量があまり出ず、最終的にはもっとも効率的である4枚羽根に決定しました」

日本エー・アイ・シー 企画本部 商品戦略課 沖田勇磨氏

ユーザーの熱望に応えて誕生した、アラジンのストーブ専用のストーブファン。次回後編では、外観のデザインを中心にメーカーのこだわりと秘話を紹介する。

(後編に続く)