(写真:takeuchi masato/PIXTA)

2024年に入って、メーカーから相次いで取り扱いを減らすと発表されたストロング系チューハイ。以前は、少量でもすぐに酔えるコスパのよさや手軽さなどから人気となっていた商品だ。ストロング系チューハイに何が起きているのか、消費のトレンドを時系列で見てみたい。

全国のスーパー、コンビニ、ドラッグストアなど、約6000店舗の販売動向を追っている「インテージSRI+」から、チューハイの家庭用市場規模の推移をアルコール度数別に確認する。ここで、チューハイとは、サワーやカクテル、ハイボールなど割らずにそのまま飲めるRTD(Ready To Drinkの略)全般とした。

「ストロング系」高アルから中アルにシフト

チューハイの市場規模は成長を続けており、2023年には5333億円となった。2013年との比較でおよそ2倍の規模と大きく伸びていることが見て取れる。

度数別に見ると、8〜9%台のストロング系「高アル」の市場規模が2013年から2018年にかけての5年で2倍を超える1650億円にまで拡大。2016年から2018年にかけては5〜7%台の「中アル」の規模を上回っていた。同じ量、同じ価格でも度数が高いほど酔いやすいとコスパが重視されていたのだろう。


ところが、2019年には中アルの市場規模が再び高アルを上回った。中アルの伸長には、甘さを抑えたすっきりとした飲み口で食事に合わせやすいと訴求するレモンサワーの人気が寄与したとみられる。レモンサワーだけではなく、プレーンサワーなどでも甘さを抑えて食事と合わせやすい商品が発売され、中アルの市場規模は2023年にかけて好調を維持。2023年には10年前の2013年と比較して3倍を超える3282億円となった。

一方、高アルの市場規模は2020年に伸び悩んだ後、2021年からは減少に転じている。2023年にはピークの2020年と比べ20%以上減少し、1365億円となった。

高アルの苦戦要因として、度数が強すぎるお酒による健康への影響が懸念されたことが挙げられる。減少傾向が顕著となった2020年は、新型コロナの感染が急速に拡大した年でもあった。コロナの重症化リスクを下げようと健康志向が高まったことも高アルを控える動きにつながったと考えられる。

また、コロナをきっかけとして、生活様式は大きく変化した。コロナ前は、毎日のように通勤し、帰宅後に時間をかけずに酔いたい時に高アルを飲むこともあったのではないだろうか。コロナ以降は、在宅勤務や外出自粛により家で過ごす時間が増えたため、酔いやすさよりも、食事と一緒にお酒を楽しむことを重視するようになってきたとうかがえる。

加えて、家で過ごす時間の増加とともに家事の負担が増えたことも影響したようだ。お酒を飲んだ後も家事をしなければならないこともあり、あまり酔いたくないという心理があったのだろう。

低アル好きの20〜30代でも人気だった「ストロング系」

アルコールの消費量はシニア層が多いとされているが、年代ごとに購入するチューハイの種類は異なるのだろうか。全国15〜69歳の男女約5万人のモニターから買い物データを継続的に聴取している「インテージSCI」から、飲酒が認められている20歳以上に絞って、チューハイの度数別・購入金額構成比の推移を年代別に見てみよう。

20〜30代の若年層では、2013年に1〜4%台の低アルの構成比が37.1%と最も大きかった。他の年代よりもお酒を飲む量が少ない若年層にとって、飲みやすい低アルが人気だったことが見て取れる。


高アルの構成比は2017年の39.7%まで増加し、中アル・低アルの構成比を上回っていた。高アルの構成比は2018年から減少に転じ、代わりに伸びてきたのが中アルだ。中アルの構成比は2020年から高アルを上回っており、2022年以降は半分以上を占めている。

低アルの構成比は2013年から減少傾向にあり、2023年には2013年の半分以下の17.0%にまで減少した。これは、低アルの代わりに中アルを飲むようになった人が増えたことのほか、あえてお酒を飲まずにノンアルコール飲料を選ぶ人が増えたこともあるのだろう。(参考:『「ノンアル飲料」をあえて選ぶ20〜30代の飲酒観』)

「ストロング系」好きシニアの消費の変遷は?

40〜50代の中年層では、中アルの構成比が2013年には40.8%と最も大きかった。若年層よりもお酒を飲む量が多いことから、高アルが人気となる前は、低アルではなく中アルが中心だったようだ。


高アルの構成比は2018年に44.6%まで増加し、中アル・低アルを上回っていたが、2019年から減少傾向となる。中アルの構成比が2020年から高アルを上回っており、2021年以降は半分以上を占めている。以前から中アルを飲んでいた中年層では、若年層よりも中アルの伸長が早かったことがうかがえる。

60代のシニア層では、中アルの構成比が2013年に42.2%と最も大きかったのは、中年層と同様である。特徴的なのは、2019年に高アルの構成比が半分を超えていることだ。若年層や中年層と比べてお酒を飲む量が多いシニア層では、酔いやすい高アルがとりわけ人気となっていた。それでも、高アルの構成比は2021年には半分を下回り、伸長してきた中アルの構成比が2023年には半分を超えている。シニア層でも、高アルから中アルへとシフトしてきているようだ。


健康への影響懸念で中アルへとシフト進む

年代を問わず、一時は高アルが人気となっていたものの、足元では中アルへとシフトが進んでいる。2024年2月には、厚生労働省が「飲酒ガイドライン」を公表し、お酒を飲みすぎることは生活習慣病の原因になると警鐘を鳴らした。健康への影響を懸念して高アルを控える動きは今後も続くのかもしれない。

チューハイの種類は多様化してきている。フレーバーでは、レモン・プレーン以外にも、グレープフルーツ・シークワーサー・梅などさまざまだ。焼酎だけではなく、ウォッカやジンベースのサワーや、ウィスキーベースのハイボールなど味わいの違いを楽しむこともできる。好みに応じていろいろな種類を楽しむこともできるのも、チューハイの魅力の1つだろう。

また、若年層を中心に、あえてお酒を飲まない「ソバーキュリアス」という考え方も広がり、ノンアルコール飲料を選ぶ人も増えてきている。自分自身に合った種類の飲み物を食事とともに楽しむのが、これからの飲酒スタイルとなっていくのではないだろうか。

(木地 利光 : 市場アナリスト)