窓に手を当てて外を眺める人物

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子どもに性加害を繰り返す加害者には、どのような特徴があるのか。小児性犯罪の当事者に特化した治療に携わっている精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは「よく『あやしい人についていったらダメ』と言うが、加害者には『教育熱心な教師』や『親しみやすい好青年』も少なくない。彼らは『グルーミング』と呼ばれる手法を用いて子どもに親近感を持たせ、徐々に性的な行為に及んでいく」という――。(第1回)

※本稿は、斉藤章佳『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/liebre
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

■加害者は「普通の人」

「知らない人についていったらダメ」
「あやしい人に声をかけられても絶対に話さないようにね」
「人気(ひとけ)のない場所には行かないでね!」

子どもの身を案じて、このような言葉をお子さんにかける親御さんはとても多いと思います。

しかし、本当に、気をつけるべき人は「あやしい人」なのでしょうか。

私が所属する榎本クリニック(東京都豊島区)では、小児性愛障害と診断され、子どもへの性加害をしたことのある人に特化した治療グループ(SPG:Sexual addiction Pedophilia Group-meeting)を2018年に始めました。2023年8月時点で、小児性犯罪を起こした加害者200人以上が受診しています。

彼らのなかには、教員をはじめとする学校の職員、塾講師、トレーナー、保育士、ベビーシッターなど、子どもに日常的に関わる職業に就いていた人も少なくありません。また、このような職業ではなくても、近所の人にはにこやかに挨拶し、「勤勉で真面目なお父さん」「親しみやすい好青年」などのいい印象を持たれていた人も多くいます。

小児性犯罪というと、かつて世間を震撼(しんかん)させた宮勤の幼女連続殺人事件を連想する人も多いと思います。そして、そのような事件を起こす加害者は、見るからにあやしくてオタクで不潔、「非モテ」や「陰キャ」といわれるコミュニケーションが苦手な人たちと考える人もいるのではないでしょうか。もしくは、公共の場で刃物を振り回し、子どもたちに襲いかかる「ヤバい人」を思い浮かべるでしょうか。

しかし実際の小児性犯罪者は、まったくといっていいほど様子が異なります。

■「グルーミング」で子どもを手なずける

彼らのなかには、物腰が柔らかくスマートな人物も多く、とても紳士的に性的意図を隠しながら子どもたちにアプローチします。年齢のわりに童顔で細身、子どもから見ると「やさしそうなお兄さん」に見える人も少なくありません。いってしまえば、小児性犯罪者はどこにでもいるごく「普通の人」なのです。

彼らは、子どもたちを物色し、ターゲットを見定めると言葉巧みに誘い、根気強くコミュニケーションを重ね、信頼関係を築いたうえで卑劣な性加害に及びます。この性的な行為を目的に、子どもを手なずけることを「グルーミング」と呼びます。グルーミングは、見ず知らずの相手を狙う痴漢や盗撮などの性犯罪とは大きく違います。

グルーミング(grooming)はもともと、「動物の毛づくろい」という意味の英語からきています。猫が自分の体をなめて毛づくろいをする姿は、とてもかわいらしいですが、これが性犯罪の文脈では、様相はガラリと変わります。子どもと親しくなり、信頼関係を築き、その信頼を巧みに利用して子どもに性的な接触をするグルーミングという用語は、1980年代後半、アメリカの研究者から徐々に広まっていったといわれています。

■オンライン上での接触は危険性が高い

グルーミングは、次の3つのパターンに分類できます。

?オンライン上でのグルーミング
?面識のある間柄でのグルーミング
?面識のない間柄でのグルーミング

なかでも近年は、?のオンライングルーミングについて心配される親御さんも増えていると思います。SNSが急速に発達し、小学校低学年の子どもたちでもスマートフォンやタブレットに触れる機会が増えました。NTTドコモ モバイル社会研究所の調べでは、小学校高学年のスマホ所有率は37%、中学生だと76%にものぼります。中学2年生になると8割を超え、小学校高学年・中学生では女子のほうが10%ほど高いようです。

いまや子どもたちにとってもスマホは体の一部であり、電話やLINEなどによるコミュニケーション手段だけでなく、ちょっとした買い物や電車に乗るときの決済手段として、また親にとっては子どもがどこにいるのか位置情報を把握するためにも欠かせないツールです。子どものスマホ所有率は今後も増え続けるでしょう。

写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

2023年7月の刑法改正で面会要求等罪、いわゆる「グルーミング罪」が新設されたこともあり、グルーミングという言葉自体も新聞やニュースの報道で耳にする機会が増えたかと思います。

この法律ができたことで、16歳未満の子どもに対し、わいせつ目的で騙したり誘惑したりして実際に会うことを要求する、お金を渡すと約束して会うことを求めるといった場合も罪に問えるようになりました。また、オンライン上でのグルーミングや、性的な画像や動画を送るように求めた場合も処罰の対象になりました。

■ゲームアプリで女児に近づき…

子どもたち、そして親にも「真面目そうなお父さん」「やさしいお兄さん」に見える加害者がどんな裏の顔を持ち、いかに子どもを巧みにグルーミングしていくのか。

ここからは、これまで私が臨床の現場で関わった加害者たちの具体例を挙げながら、その手口を明らかにしていきます。なお、ここからは性被害・性加害の具体的な描写が出てきますので、ご注意ください。

事例? 他校の児童にゲームアプリで近づいた小学校教諭

小学校教諭のA(30代男性)は温和で仕事熱心。児童からの人気が高く、保護者からの信頼も厚い、いわゆる「いい先生」だったという。公務員の妻と小学校低学年になる娘の3人家族で、数年前には関東郊外に新築のマイホームを構えた。

しかしAには、誰も知らない別の顔があった。それは、夜な夜なスマホのオンラインゲームアプリに出没することだ。自分が農場のオーナーとなり、作物の栽培をする人気の農場ゲームアプリで、ほかのプレイヤーと収穫量を競ったり、チャット機能を使ったやりとりができる。ランキングも発表され、Aは常にトッププレイヤーとして一目置かれる存在だった。

残業を終え帰宅するとAは、時間を見つけてはゲームアプリを立ち上げていた。アプリ上でAは、何人ものプレイヤーとやりとりしていたが、そこには数多くの未成年者が性別を問わず含まれていた。

写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■実際に会うようになり、そして…

ある日、Aは小学校6年生の女児とゲームアプリを通じて知り合った。最初はたわいもない雑談から始まり、やがてAが希少性の高い有料アイテムをプレゼントしたり、ゲーム攻略のアドバイスをするなど、徐々にふたりの距離は縮まっていった。

さらにやりとりはゲーム外にも及び、やがてAと女児は実際に顔を合わせるようになった。彼は小学校の教諭であることは隠さず、ときに女児に勉強を教えるまでふたりの関係は親密になっていった。そしてある日、ついにAは女児をホテルに連れ込み、暴行や脅迫を用いずに膣(ちつ)内性交や口腔(こうくう)性交を含む性加害に複数回及んだ。また、その様子をスマホで撮影していた。

「自分が担任をしている児童には、そんなひどいことはできません」

これは実際にAが口にした言葉です。

私が最初にAと出会ったのは、警察署での面会でした。私はソーシャルワーカーとして、しばしば刑事手続きの入口段階で、拘留中の性犯罪加害者と面会をしています。そのなかで、裁判に必要な再犯防止計画を一緒に作成していきます。

前述のとおり、Aは女児をオンライングルーミングの末、性加害に及びました。後日、女児の様子がおかしいことから保護者が異変を察知し、警察に届け出たことでAの加害行為が明らかになりました。逮捕後、ほかにも複数人の小学生女児への同種の加害行為が発覚し、強制性交等罪、強制わいせつ罪、児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)に問われたAは懲役10年の実刑判決を受け、現在は刑務所で服役しています。

■なぜ自分の生徒には手を出さなかったのか

私がAに抱いた第一印象は「真面目そうな男性」でした。質問にも丁寧に答えますし、元教員らしい端正な文字で書かれた「リスクマネジメントプラン」は毎回、期日どおりに送ってくれます。また刑務所の中では、日々の筋トレや瞑想(めいそう)を欠かさないとも語っていました。

読者のなかには、Aが小学校教諭だったことから、彼自身が勤務している学校の児童たちに加害行為を繰り返していなかったのか疑問に思った人もいるでしょう。結論から述べると、彼は自分が受け持っている児童たちには一切、加害行為に及んでいませんでした。

当初それを聞いた私は「自校の児童に性加害を行えばすぐに犯罪行為が露呈してしまうため、ある種のリスクマネジメントなのかな?」と考えていました。しかし、その予想は大きく裏切られました。彼の答えはこうです。

「自分が担任をしている子どもには、そんなひどいことはできません。大切な児童ですから」

当然ながら、他校の生徒・児童だからといって「ひどいこと」、つまり性加害をしていい理由にはなりません。これは驚くべき認知の歪みです。

自分が担当している児童は大切だから、そんなおぞましいことはできない。Aには小学校低学年になる娘がいましたが、自分の娘に対しても同じ心持ちだったようです。職場では仕事熱心ないい先生、家庭ではやさしいお父さん……そんな彼の加害性の矛先は、ゲームアプリで知り合った女児に向けられていたのです。

■毎年2000人の児童がSNSで性被害にあう

Aの場合はゲームアプリ内でのグルーミングでしたが、いまやTwitter(現・X)やTikTok、Instagramなど若年層が集まるSNSでは、オンライングルーミングをしようと手をこまねく性加害者が数えきれないほど存在しています。

警察庁のデータによれば、2019年には子どものSNSにおける被害が過去最多の2082人を記録しました。その後やや減少しているものの、毎年2000人近くの児童が被害にあっている事実に変わりはありません。

出所=『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』

そもそもSNSでは、どんな投稿がきっかけで子どもと小児性犯罪者が知り合うことになったのか、年頃の子どもを持つ親御さんなら気になるところでしょう。同データによれば、子どもと加害者が知り合うきっかけとなった最初の投稿は「子どもの投稿」が約75%を占めています。さらにその内容は、性的なものではなく、プロフィールや趣味、友達募集、日常生活といった、日常のたわいもない投稿だったことも明らかになっています。

出所=『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』

彼らはまるで投網(とあみ)をかけるように、SNS上で不特定多数の子どもたちに狙いを定め、グルーミングできるターゲットを探しています。

■1つの投稿に一斉に群がる男性たち

NHK「クローズアップ現代」の取材班が性被害者支援に取り組むNPO法人「ぱっぷす」と協力し、架空の女子中学生のTwitterアカウントを作成したところ、「友達がほしい」とひと言つぶやいただけで、わずか2分間で12人もの男性たちからメッセージが殺到しました(*1)。そのなかには一方的に性的な要求をする、まるで人を人とも思わないようなメッセージも見受けられました。

この投網をかけるようにターゲットを探す手法は、性犯罪以外でも見られます。かつて主にTwitterで「死にたい」など自殺願望があるような投稿をしている女性に狙いを定め、「一緒に自殺をしよう」と誘い込み、殺害を繰り返した「座間9人殺害事件」と構造は共通しています。加害者はオンライン上で、不特定多数のなかからターゲットを虎視眈々(こしたんたん)と見定めているのです。

たとえSNS上で知り合っても、リアルで対面しなければ問題ないというわけではありません。SNS上のグルーミングで性加害者が子どもと信頼関係を構築したうえで、性的なメッセージを重ねた末、子どもたちに性的な写真や動画を送らせる事案も頻発しています。加害者の男性が女児のふりをして一方的に性的な画像を送りつけ、「私はこんなに見せたのに」と同様の画像を送るように要求するパターンもあります。

もちろん加害者が先に送ったのは、インターネット上で手に入れた画像です。しかし、信用して性的な写真や動画を送ってしまう。場合によってはそれらのデータが流出、拡散され、取り返しのつかない「デジタルタトゥー(インターネット上で一度拡散された書き込みや個人情報などが、入れ墨のようにいつまでも残り続けること)」となり、その後の人生にも深い影響が及んでしまいます。

(*1)「追跡・SNS性犯罪~ネット上で狙われる子どもたち」NHK「クローズアップ現代」、2021年11月4日

写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

■女性だと偽ってわいせつ画像を送らせる

2021年9月にも、当時11歳の女児にわいせつな画像を撮影させて送信させたとして、元力士が逮捕されました。加害者と女児はアバターを作成して交流するインターネットアプリ上で知り合ったとされ、犯行当時、加害者は現役の力士でしたが、自らを16歳の少女であるように偽ったとも報じられています。

また、この加害者は、顔が写った写真を送ることを嫌がる子どもに対しては、やりとりした性的な写真などを「ネットで公開する」と脅したそうです。被害者はそのほかにも当時9~13歳の女児4人にのぼり、翌年3月、強制わいせつと児童買春・ポルノ禁止法違反(単純製造)の罪で、懲役2年10カ月の実刑が言い渡されました。

■最初は簡単なところから要求し…

2023年7月に新設された「グルーミング罪」では、16歳未満の子どもに対して性的な画像や動画を撮影させ、送るように要求すると懲役1年以下または罰金50万円以下が科せられることになっています。

斉藤章佳『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)

ちなみに、グルーミングによって手に入れた画像や動画を加害者たちが私的に所有するのみならず、悪徳業者が動画や画像を違法なサイトで販売し、利益を貪っているケースも先に挙げた「クローズアップ現代」の取材で明かされていました。このサイトに出品していたのは23人で、いずれも会社役員や会社員でしたが、手っ取り早い小遣い稼ぎとしての認識しかなく、罪の意識は希薄だったといいます。

「『かわいい』と言ってつけこんで(中略)脱がせる。最初は簡単なところから、『逆立ちして』とか。逆立ちすると服がめくれるじゃないですか、そこからいくんですよ。ちょっとずつステップアップしていく感じになります」などといったおぞましい証言も飛び出していました。

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斉藤 章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士
大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模と言われる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、長年にわたってアルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で現在まで2500名以上の性犯罪者の治療に関わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。主な著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(ともに幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)がある。
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(精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤 章佳)