年末年始に全席指定となる東海道・山陽新幹線「のぞみ」に使われるN700S(写真:尾形文繁)

2023年の12月28日から2024年1月4日まで、東海道・山陽新幹線の「のぞみ」が全席指定席で運転される。

また、2024年春のJRグループのダイヤ改正を機に、JR北海道の特急「北斗」「すずらん」、「おおぞら」、「とかち」、JR東日本の特急「しおさい」、「わかしお」、「さざなみ」が全席指定席となることが発表された。

時刻表で全席指定の歴史をさぐる

SNSの反応を見ると、新幹線が混雑期に全席指定となることに歓迎の声が多い一方、在来線特急の全席指定に関してはネット購入で割引となるものの自由席を利用した場合よりも料金が上がるため、ネガティブな声もあがっている。

最近はJR東日本やJR西日本で新幹線や在来線特急の全席指定化が進んでいる。このような全席指定化はどのように進んでいったのか。時刻表には、新幹線や主な特急列車が何両編成で、何号車が指定席で何号車が自由席で、といったことが図で記されている「編成表」が載っているので、過去の時刻表からその流れを調べてみた。

調査したのは1964〜2023年までの1月号の時刻表と、2023年12月号。データは著者が手作業でチェックしたものなので「ここが間違っている!」とめくじらを立てず、軽い気持ちで読んでいただけるとありがたい。

東海道新幹線が開業する前の1964年1月号の特急の編成表には「指定席」、「自由席」の記述がなかった。記されているのは「1」、「2」の数字だけ。「1」は1等車で現在のグリーン車に当たる車両、「2」は2等車で現在の普通車だ。時刻表の表紙をめくると最初のほうに時刻表に使われている記号を説明するページがある。そこには「全席指定」というマークがあり、次のような説明が書かれていた。

特急や週末準急などのように全部の座席が指定制の列車

つまり、すべての特急が全席指定なのだ。

新幹線や特急の指定席のチケットを見ると「特急券」、自由席のチケットを見ると「自由席特急券」と記されている。普通に考えたら指定席の特急券には「指定席特急券」としたほうがわかりやすい。また、自由席よりも指定席のほうが料金は高く、指定にする分だけ料金を高くしたと考えれば自由席は「特急券」、指定席は「特急券・指定席券」としてもいい。「特急券」、「自由席特急券」というルールとなっているのは「特急」イコール「全席指定」という考え方がベースとなっているからだろう。

初めて自由席が設定されたのは新幹線「こだま」

1964年10月に東海道新幹線(東京―新大阪間)が開業。開業後初となる年末年始の時刻が掲載されている1965年1月号の編成表を見ると、新幹線も在来線の特急も全席指定席となっていた。が、東海道新幹線のページの欄外を見ると、こんな注意書きが。

12月26日〜1月15日まで特急「こだま号」各列車(臨時列車を除く)の1〜6号車は2等に限り自由席制となります。(特急料金は「こだま」料金の100円割り引きになります。)

新幹線、特急に初めて自由席が設定されたのは、新幹線「こだま」だったのだ。

おそらく、年末年始で混雑することから、より多くの人を運ぶために自由席としたのだろう。2023年の年末年始、混雑を理由に「のぞみ」の自由席を廃止する東海道新幹線で、1964年の年末年始、混雑を理由に全席指定の「こだま」に自由席を作ったというのは興味深い。

自由席の評判が良かったのか、翌年1966年1月号を見ると「こだま」の自由席が定着。さらに2両ある1等車(グリーン車)のうち1両(7号車)まで自由席化。土休日午後に東京―三島間で1往復運転される臨時の「こだま」は、1等車、2等車すべてが自由席で運転されていた。

そんな自由席の広がりは在来線の特急にも波及した。「つばめ」(名古屋―熊本間)、「はと」(新大阪―博多間)、「しおじ」(新大阪―下関間)、「しおかぜ」(新大阪―広島間)などの山陽本線を走る特急のほか、「しらさぎ」(名古屋―富山間)、「あすか」(名古屋―東和歌山間、紀勢本線経由)にも自由席が設定された。

自由席、衰退と拡大の歴史

1967年1月号を見ると「こだま」の自由席が拡大。12両中1等1両、2等7両の計8両が自由席となる(1等車2両の「こだま」の場合、1等1.5両、2等6両が自由席)。 在来線では「雷鳥」(大阪―富山間)の1往復に自由席が登場。「あすか」は全席自由席に。

1969年1月号では「ひだ」(名古屋―金沢間、高山本線経由)、「あずさ」(新宿―松本間)、「あさま」(東京・上野―長野・直江津間)に自由席が登場と、自由席拡大路線が進むが、1970年1月号を見ると「こだま」のグリーン車が全席指定席(1969年5月に1等車をグリーン車に名称変更)に。「しらさぎ」の自由席が消滅する。

1971年1月号では「雷鳥」「あずさ」の自由席が消滅、代わって「ひたち」(上野―平間)、「あいづ」(上野―会津若松間)に自由席が登場する。

止まったと思われた自由席拡大の流れだが、1973年1月号を見ると再び拡大の方向に。山陽新幹線の新大阪ー岡山間開業、東京から房総方面への特急の誕生、エル特急の誕生などのダイヤ改正により、「ひかり」に初めて自由席が登場。在来線の特急では新たに「やくも」、「わかしお」、「さざなみ」、「とき」、「ひばり」、「はまかぜ」、「あさしお」、「あおば」、「南風」、「しおかぜ」に自由席が設定され、「あずさ」にも自由席が復活する。

以降、特急の自由席は拡大の道を進む。1979年1月号を見ると、最後まで全席指定の特急として運行されていた「はつかり」、「みちのく」、「つばさ」、「北斗」、「おおとり」、「おおぞら」に自由席が誕生。季節運行の「そよかぜ」や、座席車のついた臨時夜行特急に全席指定の列車は残ったが、毎日運転される昼間の特急から全席指定の列車は消滅した。

全席指定復活が確認されたのは1987年1月号。室蘭本線経由で函館と札幌を結ぶ「北斗」の早朝函館発(北斗1号)と深夜函館着(北斗16号)の1往復が全席指定となった。前年のダイヤ改正で小樽経由の「北海」2往復が廃止。代替列車が「北斗」となった。廃止直前の「北海1号」の函館発時刻が4時40分、「北海1号」の函館発時刻が4時45分だったため、廃止後は「北海」の代替となる「北斗1号」4時40分、旧「北斗1号」の「北斗3号」が4時45分と2本の列車が同区間をほぼ同時刻に並行で走るため、全席指定にしたと思われる(北斗16号も同様の事情か)。この新しい「北斗1・16号」の途中停車駅は、長万部、東室蘭、千歳空港のみ。当時のディーゼル特急最速の列車となった。

新幹線「のぞみ」が全席指定列車で登場

青函トンネルの開業後の1989年1月号の時刻表を見ると寝台特急「北斗星」の運行開始で全席指定の「北斗」は消滅。代わって登場したのが「かがやき」、「きらめき」だ。「かがやき」は長岡と金沢を結ぶ特急で、途中停車駅は直江津、富山、高岡。上野から長岡までノンストップのタイプの上越新幹線「あさひ」に接続しており、都内から金沢まで早く行ける特急として登場。「きらめき」は米原と金沢を結ぶ特急で途中停車駅は福井。米原に停車する東海道新幹線「ひかり」に接軸しており、東京から金沢まで早く行ける特急として誕生した。

1991年1月号を見ると、観光仕様の新型車両を使った「スーパービュー踊り子」、1992年には「成田エクスプレス」「あさぎり」、そして1993年1月号では「のぞみ」が全席指定の列車として登場する(2003年のダイヤ改正で自由席を設定)。

その後、全席指定の特急は、停車駅が少ない速達列車タイプ(「はやて」「はやぶさ」)、観光列車タイプ(「ゆふいんの森」「日光」など)に増えていく。

そんな全席指定の流れが加速したのが2015年1月号。「スワローあかぎ」の登場でJR東日本に全席指定の特急が増えていく。2016年1月号で北陸新幹線の「かがやき」、常磐線の「ひたち」「ときわ」。2020年1月号で中央本線の「あずさ」、「かいじ」、「富士回遊」、「はちおうじ」、「おうめ」と、全席指定の特急が続々登場。2021年1月号では「踊り子」、「湘南」といったJR東日本の特急だけでなくJR西日本「びわこエクスプレス」、「はまかぜ」も全席指定となっていた。

2024年春のダイヤ改正後、毎日昼間に運転される全席指定の新幹線は「はやぶさ」、「はやて」、「こまち」、「つばさ」、「かがやき」となる。特急は「おおぞら」、「とかち」、「北斗」、「すずらん」、「ひたち」、「ときわ」、「しおさい」、「わかしお」、「さざなみ」、「あずさ」、「かいじ」、「日光」、「きぬがわ」、「富士回遊」、「はちおうじ」、「おうめ」、「草津・四万」、「あかぎ」、「踊り子」、「湘南」、「ふじさん」、「びわこエクスプレス」、「くろしお」、「きのさき」、「まいづる」、「こうのとり」、「はしだて」、「はまかぜ」、「ゆふいんの森」だ。

ネット販売普及も全席指定を後押し

昔は指定席の数を増やすと指定席を販売する窓口の人員や発券機を増やさなければならずコスト増の要因となったが、現在はネット販売が整備され負担が軽減された。これも全席指定の特急が増えた一因だろう。

大手私鉄でも座席指定制の列車が増え、特急列車に「早く着く」だけでなく「確実に座れる」という需要が伸びている。手軽に予約できるシステムがあり、座りたい人が増えている。となると、近い将来、国鉄時代のようにすべての特急が全席指定になるかもしれない。

(渡辺 雅史 : 時刻表探検家)