今の時代のリーダーは、現場のメンバーが最高の環境で働くことができるように「気くばり」するのが仕事となりつつあります(写真:Graphs/PIXTA)

優れたリーダーとは「気くばりができる人」です。これまで、ビジネスは上意下達。上司が決めたことを部下が実行していれば成果は出ていました。

ところが、いまは顧客ニーズが複雑化した影響で、顧客の接点に近い、現場のメンバーが細かいニーズを吸い上げなければ成果が出なくなったのです。つまり、リーダーは、現場のメンバーが最高の環境で働くことができるように「気くばり」するのが仕事なのです。

本稿では、カルチュア・コンビニエンス・ クラブをはじめ、数々の会社で代表取締役を務めた柴田励司氏が、新刊『リーダーの気くばり』より中間管理職としてリーダーが上司に考えるべき「気くばり」について解説します。

だいたいの会社では、上司というのは忙しい状態にあります。

忙しいので、たとえば1週間前に上司から、こういうことをちょっと調べておいてねと言われてそれを持っていったとしても、上司は、1週間前にお願いしたことを忘れている可能性があります。忙しいので上司の頭はいろんなことが上書きされていくし、状況が変わっていることもあります。

上司への報告を工夫する

忙しい上司に対して、効果的な話し方があります。

「そもそも何が問題で、これを決めてほしいのですよね」

「決めるにあたっての論点はこういうことですよね」

「選択肢がA、B、Cとあります」

「その中で私はAが一番いいと思います」

「なぜならば……」

と、こういう順番で言ってもらえると。聞く側(上司)としてはものすごく助かるのです。これは、意思決定者が必要な5つの流れというストーリーです。

私はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のCOOをしていたときに、一時的に私にレポートする人が87人いたことがあるのです。

そうすると1人あたりのアポの時間が20分。それを朝から晩までやっているわけです。次から次へパワーポイントをつないで、投影して、説明しようとするのですけど、なかにはパワーポイントの数がたとえば50枚とか書いてあるわけです。

それで、「ここに50枚とあるけど、20分で大丈夫?」と聞くと、「早口で話しますから大丈夫です」みたいな答えが返ってきて、20分の時間のうち19分ぐらい説明をされます。そうなると、そこで何かを決めるなんて、まったくできないわけです。

説明は持ち時間半分以下に

だいたい上司に20分の時間をもらったら、説明は10分以内です。半分以下です。半分以上の時間をディスカッションに当てるという時間構成でいかないと、絶対に通りません。どんな場合でもそうです。

上の人への説明で炎上する原因は、内容ではありません。何を言っているかわからないということで炎上することが多いのです。

そうならないための工夫として、「意思決定者が必要な5つの流れというストーリー」に沿ったこのやり方をおすすめします。

なお、このストーリーの流れを報告者に実行してもらうことで、当時CCCでは残業時間がめちゃくちゃ減り、会議の時間もものすごく短くなりました。つまり、2回3回と検討を重ねていたものが、1回で決まるようになったので、会議の総量が減ったのです。さらにパワーポイントの資料も50枚ほどつくっているのを5枚までに制限したのも、奏功しました。

上司にアドバイスを受ける際にも意識しておきたいことがあります。

すべての上司は「担当として、あなたはどう思うのか?」と聞きたいものです。自分の考えを持ったうえでアドバイスを求めるっていうことをしないと、アドバイスを求めにいったのはいいけれど、炎上するということになってしまいます。 

本当にわからないのでアドバイスを求める場合でも、「〇〇ということじゃないかと思うのですけど」という程度のアイデアは持っていったほうがいいと思います。手ぶらで行かないということを意識してください。

上司と飲みに行く場合も、クライアントを飲みに誘う場合も基本的には同じだと思います。「ちょっとお時間いただきたいのですけど、いいでしょうか」というような感じで少し下手に出て誘ってみましょう。

「どうしてもご相談したいことがあるので時間いただけないですか」と言うと、「嫌だよ」という人はまずいないと思います。予定があったとしても、「今日はちょっとダメだけど、明後日はどうかな」というようには答えてくれると思います。

昔、アクセンチュアの元パートナーでそれがとてもうまい人がいました。当時、大手戦略コンサル系の人というと、頭のよさを訴求してお客さんに接するイメージがありました。

しかし、その人は「ご相談したいことがあるのですけど、お時間いただけませんか?」と下手に出て、クライアントから「あっ、そうなの、じゃ時間つくるよ」というふうにやっていました。この人の声がけでいろいろな人の心のドアが開いていくのを見て、こういうふうに接するのもアリだなと学びました。

話を上司との飲み会に戻します。

上司に限らず、クライアントでも同僚でも、相手のことをわかる限り調べ考えて、それに合った形で食事なりサービスが提供されるようにアレンジしましょう。宴席の気くばりです。

宴席での気くばりというと、お酌をすることが気くばりみたいな感じになっていますが、それには違和感を覚えます。

ある特定の世代以上の人はそれを期待しているところもあるようなので、そこは相手とTPOを見ながら臨機応変にということになります。お酌をするといっても飲みたい人もいれば、そんなに飲みたくないという人もいますから。

自分の役割を意識する

上司と話をするときの気くばりもあると全然違います。

あなたが上司から何を期待されているのかを確認するのが、おすすめです。自分の思い込みで「こうだろう」と思ってやっていると、そこには必ずといっていいほどズレが生じます。

たとえば、これからあなたと上司が打ち合せをするとしましょう。

よくわかっている上司であれば、打ち合わせの前に内容の全体像を描いたメモを渡してくれます。よくわかっている部下は、その時点で「この案件で私に期待されていることは何でしょうか」、と直接確認します。

その確認があると、この部下は気くばりができていると評価されます。お互いの役割について話がしっかりできるので、打ち合わせにズレは生じません。

人間関係的にも目を向ける

リーダーは中間管理職として、上司と部下の人間関係的な気くばりにも目を向ける必要があります。上司と部下では利害が対立することがあります。そんな場合、中立的な立場で落としどころにファシリテートしてくれる人がいると、とても助かります。

トラブルが発生したときも第三者的な立場から、すべての関係者の話を聞くのがよいでしょう。トラブルをそのまま継続させたいと思っている人はいないはずですが、それぞれのエゴやプライドがあります。

なかなか振り上げた拳を下ろせない状態になっていることが結構あります。それを下ろせるように、うまく誘導していく役割も中間管理職には期待されます。

そこで誘導するときのスキルとして、パラフレーズの応用があります。

パラフレーズとは相手が言っていることを咀嚼しながら整理して繰り返すことです。この整理のなかで主張を少しずつ変えて、利害が相反する両者を近づけていくというものです。

ちょっとずつ近づけていき、「あれ、実は同じこと言っていませんか?」と話します。

この手法は私がファシリテーションをするときによく使います。

たとえば、明らかに買う側と買われる側で、利害が相反してああだ、こうだと言っている場合、少しでも近しい発言があったら、「この点に関しては〇〇とおっしゃっていますが、これは××という意味で、こちらも××という意味なので……。あれ! これって同じことですよね」。

こうした会話の流れの中で確認していく。

確認できたら、「もうこの点はいいですね」と言って一歩前へ(次の案件へ)進めていきます。

上司から言われた仕事を断る、これは精神的にも心理的にも難しいのですが、気くばりがあれば、うまく立ち回れるかもしれません。

「すごくその仕事をやりたいのですが、うーん……。いやあ……。そうですね……」と前向きな気持ちを伝えつつ、引き受けるのは難しいニュアンスを醸し出すのがよいでしょう。

ストレートな断り方はNG


すると、向こうはニュアンスを察して「いやあ、それなら、ほかの人にお願いするよ」とオファーを引き下げるでしょう。

「いやそうですか、いや、でもこの機会を大事にしたいのでやりたいのですけど……」

とさらにフォローするのもよいかもしれません。「〇〇という理由で、できません」と、ストレートに断るのはよくありません。

特に、上司が自分のことを成長させたいとか、何らかの意図があって仕事を依頼している場合に簡単に断られると、「なんだ! 俺の思いを無下に断りやがって」と、怒り出す人もなかにはいるかもしれません。

だからその想いはちゃんと受け止めているという気持ちを出しながら、でもご迷惑をおかけしてしまうので……というふうにして断るほうがいいと思っています。

(柴田 励司 : 株式会社IndigoBlue代表取締役)