「タイパ」重視のZ世代にテレビCMを見てもらうには?(写真:IYO/PIXTA)

昨今何かと話題のZ世代は、他世代と比較すると特有の価値観を持ち、行動も独特な世代であると解説されることが多いが、本当にそうなのか? 野村総合研究所の「生活者1万人アンケート調査」では、1997年から3年ごとに同一調査項目による調査を継続しており、例えば30年前の若者の価値観・行動と比較した分析により、今のZ世代の特徴を明らかにすることが可能となる。

本稿では、時系列の大規模アンケート調査をベースにまとめた『データで読み解く世代論』を上梓した著者が、Z世代にテレビCMを見てもらうにはどうしたらいいか、具体例を交えて解説する。

Z世代はテレビをつけていても、見ていない

インターネットが普及するにつれ、テレビの視聴時間は減少し、特にZ世代のテレビ視聴時間が短いのは、周知の事実であろう。ただし、それでもまったく見ない、というわけではない。NRI(野村総合研究所)におけるテレビCM効果検証サービスにより蓄積されたデータを分析すると、Z世代のテレビ視聴時間は平日平均で80〜90分ほどはある。

若年層において平日平均で80〜90分の視聴時間は長いと感じる人もいると思うが、大学生を対象としたインタビュー調査では一人暮らしの寂しい時間を紛らわせるために、帰宅したらとりあえずテレビはつける、といったコメントも得られたように、テレビ自体はつけているケースも多い。

しかし肝心なのは、きちんとテレビを見ているか、である。NRIの調査では、テレビはつけているけど、画面は見ずに聞いているだけだとか、他のことに集中しているためにながし聞きしているといった割合はZ世代に多くいた。

一方、NRIの調査ではZ世代におけるインターネット利用時間は平日平均で280〜290分であった。毎日5時間近くもインターネットに触れていることについて、時間で見ると驚きであるが、通勤・通学の移動時間や休憩時間などの隙間時間にスマホをいじっている様子を見ると、塵積(ちりつも)で5時間近くになるのは納得できる。Twitter(現X)やInstagramなどのSNSやYouTubeやNetflixなどの動画サービスの利用時間はZ世代において圧倒的に多い。

Z世代が「タイパ」を重視する背景

Z世代において激増するインターネット利用時間の中で、どのように動画を楽しんでいるのか。そこにはZ世代ならではの「時間が惜しい」および「時間を大切にしたい」志向(タイムパフォーマンス、略して「タイパ」)と絡んで、特殊な動画視聴の在り方が生まれている。

「タイパ」は聞きなれない言葉かもしれないが、昔からある「コスパ」と似たものだと思えば理解しやすいだろう。コスパとは、使った費用(コスト)に対して得るモノ(パフォーマンス)の大きさを表す「費用対効果」のことである。

この「費用(コスト)」の部分を「時間(タイム)」に置き換えていわれ始めたのが「タイパ」である。つまり、使った時間(タイム)に対して得るモノを大きくしたいという気持ち、すなわち「時間対効果」という効率面を大きくしたい気持ちのことである。

この「タイパ」志向が基で、Z世代を中心に動画を倍速で視聴する、というスタンスが定着している。動画には通常、再生スピードを1.5倍や2倍にする機能が備え付けられており、大学のオンライン講義などでは生講義でないなら「倍速視聴」は当たり前で、「エンターテインメント」としての映像作品も倍速で見る人が多いという。

これら「タイパ」重視の背景にはZ世代に強い「失敗したくない」志向がある。動画配信サービスが充実化したことから、友人知人との話題となる作品にはドラマだけでなく、映画やアニメなど膨大な数に上る。それらをチェックしておかないと友人知人との会話においていかれてしまうおそれもあり、話題となりそうな作品は1つでも多くチェックする必要がある。

そのため、1つの作品をじっくり見ることよりも多くネタを手に入れることを優先し、倍速などでの動画視聴は必須になる。さらには視聴する動画が面白くなかった場合に備え、映画を観る際にはどんなエンディングとなるのかを把握してから視聴したり、ミステリーものなら犯人を知っておいてから視聴するといった「ネタバレをチェックしてから」といった行動をとる人もいる。

ここまでくるともはやZ世代にとってはメディアを楽しむものではなく、情報を得るためのコンテンツとして「消費する」ものとしての感覚に近いのではないだろうか。Z世代はデジタルネイティブな世代ともいわれ、普段から大量の情報に触れ、その中から欲しい情報を効率的に入手することが当たり前の環境を生きている。「タイパ」を重視するZ世代には、他世代と異なるニーズがあり、行動がまったく違ってくることを意識しなければならない。

Z世代にテレビCMを見てもらうには?

テレビをながら見、ながら聞きしてしまうZ世代では、テレビCMはなおさら見られないのではないか。テレビCMを意識してもらうにはどうすればいいのだろうか。

1つの方法としては単純であるが、Z世代に好まれる楽曲や馴染みのある替え歌、声優など特徴的な声の人物を出演させることで“BGM化”しているテレビにインパクトを持たせ、イヤーキャッチでスマホからテレビ画面に目を上げてもらうことが必要だ。

例えば、童謡「クラリネットをこわしちゃった」の替え歌をCMに使った例や、キャンディーズの「年下の男の子」の替え歌をCMに使った例ではZ世代におけるCM認知率が高く得られている。どこかで聞いたことがある曲が、変わった形でテレビに流れることはZ世代の興味を引くことにつながる。

もう1つの方法は、SNSやまとめサイト等と連携していくことにある。Z世代に対し、テレビCMコンテンツの認知経路を調査したところ、テレビ自体の情報だけでなく、SNSやまとめサイトで見たことがきっかけで意識され、実際にテレビで流れたときにCMコンテンツを見たと回答する割合が多くあった。

デジタルネイティブでありタイパを重視するZ世代は、テレビCMに1次接触するよりも、使い慣れたデジタルツールを使い、誰かがまとめてくれた情報に2次接触として初めて情報に触れるケースも多いため、デジタルにおいてテレビCMコンテンツと連携した施策が有効だ。

テレビCMに誘導する「下準備」が必要

ただし、その際に単にテレビCMと同じコンテンツを置いておくだけではもったいない。15秒や30秒で尺の決まっているテレビCMと異なり、デジタルコンテンツはある程度自由を利かせることができる。


例えばコンテンツの冒頭をオリジナル楽曲とダンスで演出し、途中に特徴的なキャッチコピーをシンプルに見せることによってZ世代の関心を誘ったコンテンツは、弊社の広告効果測定の調査結果からZ世代において購入意向を大きく高めていたことが示されていた。

テレビを見ないとされるZ世代に対し、テレビCMによりアプローチするのを諦めてはいけない。インパクトのあるシーンやフレーズで興味を掻き立て、ユニークさや遊びを持たせることでSNS上でバズることに成功すれば、自然とZ世代の中でも話題となる。そして、そこまで下準備を整えることができれば、実際にテレビCMが流れたときにZ世代からも注視され、テレビCMとしての役割を果たせるだろう。

(林 裕之 : 野村総合研究所 コンサルティング事業本部 マーケティングサイエンスコンサルティング部 シニアコンサルタント)