クマのチョコレートで認知を広めたスペインのブランド、カカオサンパカ。同ブランドはECも展開するが、店頭のみで味わえるスイーツや板チョコレートのテイスティング等を求め、オフィスワーカーやインバウンド、ファミリー層など多くが丸の内本店を訪れる(撮影:今井康一)

アニメ大国の日本。アニメ文化が育った理由としてはいろいろ考えられるが、一つ大きなものとして、可愛いもの好きな国民性があるだろう。例えば、日本の携帯電話会社が開発した絵文字と、海外のものを比べると、日本のものが圧倒的に可愛い。また兎や蛙をユーモラスに擬人化した「鳥獣戯画図」を見てもわかるように、可愛いもの推しは古来の伝統と言える。

そんな日本で、クマのキャラクターをきっかけに伸びているチョコレートブランドがある。

スペイン発の「カカオサンパカ」だ。

可愛らしいベア型のチョコレート

広告塔とも呼べる商品が、「ハートベア カロロ」(税込1万2960円)。ハートがトレードマークの、つぶらな瞳が可愛らしいベア型のチョコレートで、高さ14.5cmといかにも食べ応えがありそうだ。また、それよりは小型の「スモールベア」には女の子のエマと、男の子のペタ、2つのタイプがある。こちらは高さが6cmで、エマが税込3240円、ペタが税込3456円。高価格だが、バレンタインデーやホワイトデーの人気商品だ。立体でインパクトがあり、プレゼントした相手にサプライズの喜びを与える。また「他と被らない」ことが人気の理由だという。


ブランドを広く知らしめた理由の一つが、ベア型のチョコレート。インパクトがあり、他のプレゼントと被りにくいことから、バレンタインデーの活発な日本市場でとくに人気を集めている(撮影:今井康一)

その生みの親であるカカオサンパカはスペイン、バルセロナで1999年にスタート。カカオ豆の輸入、チョコレート原材料製造の大手「Nederland(ネダーランド)」グループの子会社として設立された。カカオの産地にも工場をもち、カカオ豆の選別からチョコレート原材料の製造の全工程を管理できることが強みで、同社の抱えるショコラティエによって300種以上の商品を製造している。

また希少品種カカオを使った商品づくりにも力を入れる。代表的なのが看板商品の「ショコヌスコ」だ。大航海時代にアメリカ大陸で発見されたカカオ豆で、王家御用達になるほど品質が高いものの、生産に手間がかかるため100年前に市場から消えていた。それを復活させたチョコレートは、同社の技術と品質を象徴する存在となっている。


東京・丸の内にあるカカオサンパカ丸の内本店(撮影:今井康一)

同社はかつて南アメリカなどにも出店していたものの、現在の店舗網は本国スペインの2店舗、日本の3店舗(東京丸の内、大阪梅田、兵庫神戸)となっている。

名をいち早く広めた「鉄板商品」のソフトクリーム

日本への上陸は丸の内パークビルディングが竣工した2009年。日本では知名度の低いブランドだったが、商業施設からの強い要望がありテナントとして入居したのがそのスタートだった。


日本上陸以来の鉄板商品がチョコレートソフトクリーム。本格チョコレートを使いながら、夏場に合わせさっぱりとした味わいに調整されている(撮影:今井康一)

カカオサンパカの名をいち早く広めたのが、現在も「鉄板商品」のソフトクリームだ。カカオパウダーを使用した「ジャラッツ カカオ」とホワイトチョコレートを使用した「ジャラッツ ブランコ」(税込各650円)の2種類がある。

チョコレートの味はしっかりありながらも、さっぱりした甘さとサラリとした舌触りで夏にも爽やかに食べられるソフトクリームだ。とくにホワイトのほうは、一見して牛乳を使ったソフトクリームのようだが、食べると味も香りも、舌触りもまったく違うので驚かされる。リキュールのベイリーズを隠し味にしているとのことで、花のような香りが広がり高級感を感じさせる。

実はこれは本国にもない、日本オリジナル商品。夏場に低下するチョコレートの売り上げを補うための策だ。カカオサンパカ日本法人、CSJ取締役営業本部長の田村童真氏によると、夏はもちろん売り上げが伸びるが、年間を通して人気が高く、今はインバウンドがこの商品を目がけて来店する。

「ソフトクリームは日本ならではの文化なので、海外の人にとって珍しいようです」(田村氏)

同社は5年ほど前からECを開始しており、コロナ禍では店頭や催事の売り上げが落ち込む一方でECが伸びた。現在は催事なども再開されたことに加え、インバウンド需要で、前年120%超、コロナ前も超えた売上高となっている。インバウンドに人気というソフトクリームは大きく貢献していそうだ。


テイスティングができる板チョコレートは真の看板商品(撮影:今井康一)

テイスティングで最適なチョコレートを選べる

しかし同ブランドの真の看板商品は、「ラジョラス」と呼ばれる板チョコレートだ。ショーケースには、世界各地から取り寄せたカカオを原料とする、40種類のチョコレートが並ぶ。その中には、先述の「ショコヌスコ」や、カカオ含有率100%の超ビターなチョコレートも。

そして同ブランドの大きな特徴が、テイスティングで味の好みを確かめながら、最適なチョコレートを選べることだ。

筆者も試しにテイスティングをさせてもらった。店舗のスタッフの質問に答えながら、ミルクチョコレートかビターチョコか、ナッツ系かベリー系か、という風に絞り込んでいく。好みに応じて都度、1cm角ほどのチョコレートを勧められるが、噛んではいけない。舌の上で溶けていくままにして、よく味わいを確かめる。自分のイメージと違う場合、別のチョコレートを出してもらうというようにして、好きなチョコレートを選ぶのだ。

筆者が選んだのはビターのベリー系。あくまで自分なりの印象だが、より素材に近い味わいに思えた。

カカオ100%のチョコレート「エクアドル カカオ100%」(税込1836円)とショコヌスコ(税込2700円)も試しにテイスティングさせてもらった。前者は今までに食べた中で最もビターなチョコレートだが、木の実の風味や植物性の油脂の香りがあり、カカオ率の高いチョコレートにありがちなえぐみなどはなかった。

後者は一言でいえば、バランスが良いチョコレート。まろやかで、上品な味だ。田村氏によれば、「コーヒー、紅茶、お酒、いろいろな飲み物に合わせられる」とのことだ。

本格的なチョコレートのおいしさを伝える商品づくりを


ダークチョコレートとカカオパウダーを使用して焼き上げた「マダレナ ショコラタ」税込1512円(撮影:今井康一)

その他、店舗ではボンボンチョコレート、ロールケーキやシュークリームなどの生菓子、マドレーヌ等のほか、賞味期限の長い焼き菓子など幅広く扱っている。これらも日本オリジナルの商品。日本ではとくに手土産や贈答の文化が発達していることから、さまざまな用途に合わせて開発しているのだという。

そうした商品開発で大事にしているのがチョコレート文化の発信だそうだ。つまり、生菓子や焼き菓子であっても、スペインで作られたクーベルチュールチョコレートを用い、本格的なチョコレートのおいしさを伝える商品づくりをしているという。すべてを合わせると、100種類は扱っているそうだ。


日本の顧客の声を取り入れた小型のベア。向かい合わせだとお互いに挨拶を交わし合う様子になる。頭からかじるのではなく、ホットミルクに投入しお風呂に入れてあげるようにしてホットチョコレートとして飲むのがおすすめだそうだ(撮影:今井康一)

もう一つ大切にしているのが、客の声を生かした商品開発だという。日本オリジナル商品だけでなく、スペイン本社での商品開発にもそれらの声は生かされているそうだ。


CSJ取締役 営業本部長の田村童真氏。店舗での販売から営業、商品開発まで幅広く担当している(撮影:今井康一)

具体的に日本の意見が反映された商品が、冒頭にも紹介したベア型のチョコレート。ファンシーで、子ども向けにも見える商品なのだが、実は高い技術が使われており、おいそれと真似できないそう。

「特殊な型にチョコレートを流して作りますが、まず型を作るのも難しいでしょう。型は何度か使うと劣化するので、都度作り直します。またチョコレートを流し込み、最後に外すのも修練が必要で、専属の職人が行っています」(田村氏)

もとは2017年に本国で開発された商品で、大きなタイプのみだったが、コロナ禍、日本の声を取り入れて、小型のベアが開発された。よく見ると右手を上げており、しかも男の子のペタは吊り目で、ちょっとニヒルな笑みを浮かべている。右手を挙げているのは、コミュニケーションが難しくなったコロナ禍、「Hola!」(スペイン語で「やあ!」)という挨拶の気持ちを大事にしたいという気持ちを込めたのだそうだ。

ニヒルな表情は、ちょっと大人好みのテイストとも見える。これは筆者の想像だが、子どもだけでなく大人もキャラクターや可愛いものが好きな、日本の国民性に合わせてのことなのではないだろうか。


まるでホテルのレセプションのようにシックな店内(撮影:今井康一)

実際、同ブランドの客層は、立地がオフィス街というのもあって、30代から50代オフィスワーカーが中心。経営層クラスも、手土産のためによく利用するそうだ。なお、丸の内はショッピング街でもあるので、休日はファミリー層も訪れる。

このようにブランドとしての訴求力が高い同社に対しては、FCの打診もよく寄せられるが、FCによる多店舗展開は考えていないという。テイスティングなどを通じて客の声をダイレクトに取り入れられる店舗は、同社にとって重要な顧客との接点だからだ。

日本の特殊な市場にスペイン本社も期待

店頭の声を今後も大事にするために、国内3店舗の店頭売りを要にしながら、ECやセレクトショップなどへの卸売りで認知度や売り上げを高めていく方針のようだ。


贈答文化が発達した日本の市場に合わせ、生菓子から賞味期限が長めの焼き菓子まで、幅広くそろえる(撮影:今井康一)

海外のチョコレートブランドと言えばまず1994年に日本法人ができたゴディバ(国内約300店舗)や、同じく1988年のデメル(24店舗)が思い浮かぶ。本国での歴史が長く、日本でも上陸前に知名度が上がっていた印象がある。

一方今回紹介したカカオサンパカは、それまでほとんど知られていなかったというところで、珍しいタイプの海外ブランドと言えるだろう。また日本の声を商品開発に生かし、いわばコラボのような商品を生み出しているのも面白い。


クリスマスケーキ(税込8856円)。ECや店舗で予約できるほか、百貨店でも予約を受け付けている(写真:CSJ)

日本は贈答文化が発達しており、またチョコレートのイベントとして、バレンタインデーの盛り上がりは世界的にも珍しい。さらに新しいものが好きで次々と新商品を求める特性がある。

田村氏によると、こうした日本の特殊な市場にスペイン本社も期待し、注力しているところだそうだ。

さらに、日本の特性としては今回述べてきたように、「キャラクター好き」も加わる。カカオサンパカのベア型チョコレートに見られるようなキャラクター性がさらに発展していくのか否かを含め、ブランドとしてどのような特徴を発揮していくのか、今後の展開が興味深い。

(圓岡 志麻 : フリーライター)