中高年の夫婦でも、ペットと暮らすことを諦めない方法とは?(筆者撮影)

ロスジェネ世代で職歴ほぼなし。29歳で交通事故にあい、晩婚した夫はスキルス性胃がん(ステージ4)で闘病中。でも、私の人生はこんなにも楽しい。なぜなら、小さく暮らすコツを知っているから。

先が見えない時代でも、毎日を機嫌よく、好きなものにだけ囲まれたコンパクトライフを送る筆者の徒然日記。大好評の連載第4回です。

大木奈ハル子47歳。都心の古くて狭いワンルームマンションで、61歳の夫と猫と預かり犬の、2人と2匹暮らし中です。居室は12畳ほどしかありませんが、無駄な荷物を削ぎ落とした、好きなものだけに囲まれた空間は、意外なほどに居心地は上々です。


「チェーン店最強のモーニングを探して」の大木奈ハル子さんの短期集中連載です。連載一覧はこちら

「小さく暮らす」と題した本連載。これまで「家」や「身の回りのモノ」について、「小さな家での暮らしは、家賃も水道光熱費も安上がりでお財布に優しいよ」とか「少ないモノで暮らすと、本当に必要なモノが何かとか、自分が好きなモノが何かがわかってくるよ」というようなことを書かせていただきました。

今回のテーマはちょっと趣を変えまして、「ペットとの暮らし」について。子ナシ近所に親戚ナシの、ミドルシニア世代である私たち夫婦のペットとの向き合い方や、狭い空間でペットを飼うということについてつれづれ書いてまいります。

猫の里親になるときに、子猫を選ばなかった理由とは


愛猫モコおばあさんと、日本聴導犬協会の候補犬はくちゃん(9カ月)。最近は「ニコボ」というロボットも加わりました(筆者撮影)

この記事を書いている2023年12月現在、わが家にはモンモンモコモコ(通称モコ)という名前のおばあさん猫が暮らしています。モコは2021年の夏に、里親募集サイト経由でわが家にやってきた時点ですでに推定10歳以上でした。

2021年の春に先代の愛猫を病気で失い、新しい子のお迎えを決めたときに、私たちはあえて子猫を選びませんでした。

その理由は私たちの年齢に起因するものでした。そのときの、私たち夫婦の会話はこんな感じ。

私「今度お迎えする猫は、大人の猫にしようと思うねん」

夫「それはなんで?」

私「猫の寿命が20年としたら、子猫をお迎えしたら20年後は私ら65歳と80歳やん? 」

夫「80歳かぁ……たしかに、最期まで面倒みられるかわからんねぇ」

私「飼うからには命に責任持たないとやん?」

夫「僕たちは子どももいないし、親戚付き合いとかもあんまないし、もしものことがあっても、引き取り手を探すのは難しそうだしねぇ……」

私「現時点ですら預かってもらえる先が浮かばんのに、10年後とか20年後に見つかるわけないもんな」

夫「猫さんに、いまわのきわに『幸せだった』って思ってもらえるようにがんばろう!」

という訳で、一緒に暮らしはじめる前に、一緒の暮らしが終わるときのイメージまで描いてから、お迎えを決めたのでした。

引くて数多の子猫なら、うちじゃなくても幸せになれる


歯槽膿漏が悪化してほっぺに穴が開きました。手術して通常の食事もできるようになりましたが、あいかわらず偏食です。でもそこもチャームポイント(筆者撮影)

また、わが家は狭いうえに、犬の預かりボランティアもしているため、飼える猫の数は1匹だけというのも、モコを選んだ理由の1つ。

子猫は人気があるので、うちの子にならなくても誰かの家で幸せになれそうな気がするし、1匹しか選べないなら、あえて子猫である必要もないかなと思ったのです。

都営住宅の自転車置き場にキャリーに詰め込まれて放置されていたモコは、保護された時点で老猫だったため、引き取り手がなかなか見つからず、長らくサイトに掲載され続けていたとのこと。

「行くとこないなら、うちくる?」っていう感じでわが家にやってきたのでした。

どうやらネグレクト(飼育放棄)されていたらしき、モコさんの爪はカタツムリのように渦巻いていました。偏食だし食も細いなと思っていたら、一緒に暮らし始めて程なくして、口内の皮膚が腐ってほっぺたに穴が開いて手術を受けることに。迎え入れた時点で、歯槽膿漏がなかなか悪くなっていたようです。

もう少し早くお迎えしてあげていれば……という気持ちもありますが、モコさんはどうにか死線をくぐり抜け、今も窓のそばで日向ぼっこしながら、ゴロゴロ平和を満喫しています。

ワンルームでも聴導犬の預かりボランティアができる理由


日本聴導犬協会の候補犬まおちゃん(8カ月)。東京駅から丸の内にかけておさんぽした1枚(筆者撮影)

この記事を読んでおられる方のなかにもきっと、わが家のモコのような大人猫の里親になった方はいらっしゃると思いますし、今はペットを飼っていないけれどいつか飼いたいという人なら、里親という選択肢はもちろんご存じでしょう。

でも、聴導犬のソーシャライザー(子犬預かりボランティア)という活動を知っている人は少ないのではないでしょうか?


日本聴導犬協会の候補犬かなちゃん(4カ月)。はじめてのおさんぽでルンルンです(筆者撮影)

先代の猫が存命の2020年から、日本聴導犬協会の子犬を預かるボランティア、ソーシャライザーという活動をはじめました。聴導犬は耳の不自由な人を助ける介助犬で、日本聴導犬協会で活躍している犬たちは、ほとんどの犬が保護犬出身で、小型犬・大型犬・MIX犬とさまざまな犬種が活躍しています。

ソーシャライザーは、聴導犬候補の子犬を2カ月から3カ月程度の短期間預かり、社会化訓練をするボランティアです。訓練というと難しく感じますが、とくに難しいことはありません。一緒にカフェやショッピングモールなどいろんなところにお出かけするだけでも社会化訓練になるんです。一番大切なのは子犬に「人間って信頼できる。大好き」と人を信じてもらうこと。


日本聴導犬協会からお預かりした候補犬ももたろうくん(3歳)は、元繁殖犬。日本聴導犬協会にいるほとんどの犬が保護犬や理由があって譲渡された犬です。先代の愛猫おばけちゃんと(筆者撮影)

「人間の食べ物をあげない」「イタズラをしても叱らない」など、日本聴導犬協会の決めたルールを守って育てるだけで、特別なスキルは必要ありません。ただし責任は重大です。「わが家での暮らしの積み重ねで、この子の未来が変わるんだ」と思うと、気持ちが引き締まります。

晩婚のため子どもも持てず、(ロスジェネ世代で、不況の影響を大きく受けたとは言え)人生のほぼ大半をフリーターでろくに税金も払わず、とくに世のため人のためになるようなことをしないまま40代後半になった私にとって、子犬を通して社会貢献するということが、社会へのささやかな恩返しでもあります。

このボランティアを知ったとき、「猫がいるから無理」「わが家は狭いから無理」「マンションだから無理」と思って諦めそうになったのですが、子犬の間にさまざまな環境で暮らし、どんな場所でも順応できるようにするためのボランティアなので、「猫がいる狭いマンションで暮らす」ということが大切な社会化訓練になるそうです。

まずはスタッフと協会犬による家庭訪問があり、わが家の生活スタイル、室内や近隣の環境、わが家の猫が子犬にフレンドリーに接してくれるかなどのチェックに見事通過して、晴れてソーシャライザーとしての活動がはじまったのでした。

犬ごとに違う性格、それぞれが持つかわいさ


日本聴導犬協会から初めてお預かりした元聴導犬のかるちゃん(13歳)も保護犬出身です。犬を飼ったことのないわが家に、犬との暮らしをレクチャーしにきた先生で、愛猫おばけちゃんは、かるちゃんにおすわりを教わりました(筆者撮影)

今まで10匹の犬がわが家にやってきました。短い子は1カ月、長い子は8カ月、だいたい1匹あたり3カ月ぐらいわが家で一緒に暮らしました(1匹だけ猫との相性が悪くて数日で帰った子がいます)。

最初は子犬を中心に預かっていましたが、夫の闘病がはじまってからは、家庭犬にキャリアチェンジが決まった里親募集中の子や、元聴導犬の引退犬など、成犬を預かるようになりました。

わが家は狭いため、ほとんどの場合シーズーがやってくるのですが、どの子も性格が違い、それぞれにその子だけのかわいさがあります。べったり甘えん坊の子がかわいいのはもちろんのこと、ツンデレの子に振り回されるのも楽しいものです。

わんぱくな子犬とボール遊びや紐での引っ張りっこをするふれあいもいいものですが、おっとり静かな老犬は手がかからずそれはそれで最高なのです。


日本聴導犬協会からお預かりした候補犬いずみくん(2歳)と、わが家の旧型AIBO。ロボットと社会化訓練できるのは、わが家ならではかもしれません(筆者撮影)

預かりボランティアならではの楽しさややりがい

本音を言ってしまえば、やはり相性というものはあるので、特別にお気に入りの子というのはいますが、気に入らなかった子というのはいません。どの子も愛しく、また一緒に暮らせたらうれしいです(なかには実際に2回預かった子もいます)。

ペットとして家庭に迎え入れ、同じ子と長く暮らすのと比べると、やはり絆ではかなうべくもありませんが、たくさんの犬と暮らしたからこそ、その子の個性に気づけるということもあり、預かりボランティアならではの楽しさややりがいもあります。

よく「犬とお別れするのが悲しくないの?」という質問を受けますが、だいたいの場合が預かっていた犬と交代で新しい犬が来るので、バタバタしていて悲しんでいる暇はありません。

しかも、月に1回ソーシャライザーや聴導犬ユーザーが集まるイベントが開催され、キャリアチェンジした犬も里親さんと一緒に顔を出したりするので、永遠の別れとかではなく、はやければ翌月にはまた会うため、感慨深さなどはなく、けっこうドライにバイバイします。


日本聴導犬協会からお預かりした候補犬たけるくん(1歳)は、スリッパ運び名人。今はキャリアチェンジして家庭犬になりました(筆者撮影)

ただし、預かりボランティアを休んだ月は「家が静かで仕事がはかどるぅ!」「早起きして散歩しなくていいの超ラクチン!」「夫婦でゆっくりお出かけできるの最高!」と最初は夫婦の会話に感嘆符が飛び交うほどに、犬のいない生活を満喫するものの、10日もするとすっかり寂しくなって「来月はどの子が来るんだろう」「聴導犬協会からの連絡まだかな……」と、首を長くして再び犬がやってくるのを待つのです。

ペットとの暮らしを諦めない、年齢とライフスタイルに合った方法を探す


日本聴導犬協会からお預かりした元聴導犬のまるくん(9歳)。元置き去り犬から聴導犬になりました。病気療養も兼ねてわが家で8カ月暮らしました(筆者撮影)

高齢者とペットというのは、最近社会問題にもなっていますし、私がいつも観ている、東京のローカルテレビ局の保護犬・保護猫情報コーナーは、飼い主が高齢(死去、入院、施設への入居など)のためという理由で家を無くす犬や猫が圧倒的に多いのが現状です。

「保護犬・保護猫は60歳以上には譲渡しません」という保護団体も多く、SNSでは「高齢者はペットを飼うな」という意見も多くみられます。たしかに、ペットの立場に立つと、そのとおりです。

でも、一方で、

「年齢を重ねて時間ができた今こそ、ペットと暮らしたいのに、年齢を理由に諦めなくてはならないのも、残念すぎるのではないか」

……いざ自分が中高年の仲間入りするようになって、私はそう感じるようになりました、年齢を重ねたからこそ、命の大切さに向き合える自信もありました(中高年世代の皆様はどう思いますか?)。

今から子猫や子犬を飼うには遅すぎると判断したわが家は、ライフステージや暮らしのサイズを考慮して、老猫の里親と、聴導犬のソーシャライザーという、ペットとの関わり方を選びました。

頭ごなしに否定するのではなく、さまざまなことを考慮したうえで、ペットの命に責任を持つこと、自分たちがもし飼えなくなったときのペットのその後まで考えることで、みんなが幸せになる答えが見つかるかもしれない……。それも、「小さく暮らす」ことをモットーにしているわが家がたどり着いた、結論の1つなのでした。

(編集部より)本連載は隔週連載です。下のボタンから読者登録をすると、更新時に通知が来るのでご利用ください。大木奈さんのもうひとつの連載「チェーン店最強のモーニングを探して」も好評更新中です(こちらは毎週)。

(大木奈 ハル子 : ブロガー・ライター)