宇野昌磨は異例の厳しいジャッジを乗り越えられるか 4回転の神、急成長の新鋭との争い
いよいよ開幕するフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナル(12月7〜10日)。昨年は2位に30点以上の差をつけて圧勝した宇野昌磨(トヨタ自動車)が、連覇に挑む。前回は4選手が出場した日本勢は今回3人になったが、海外勢は実力者ぞろいで熾烈な優勝争いになりそうだ。
GPファイナル連覇に挑む宇野昌磨
昨季はフリーで4回転ジャンプ5本の構成に挑んでいた宇野は、前回大会では唯一300点台の304.46点をマークした。昨季世界選手権も300点超えで連覇を達成し、充実したシーズンを送った。
だが、ショートプログラム(SP)では、昨季には「なかなか跳べない」と口にしていた4回転トーループ+3回転トーループを克服。中国杯で、その時点の今季世界最高の105.25点を出した。
次戦のNHK杯も、ミスがありながら100.20点。100点台をアベレージにしている。フリーはゆったりしたピアノ曲で表現も強く意識するなかで、NHK杯ではジャンプもしっかりとまとめる、納得の演技ができている。
しかし、NHK杯のフリーの結果は4回転ジャンプすべてが4分の1の回転不足と判定される。異例ともいえるこの厳しいジャッジングで186.35点にとどまり、鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)を追い上げきれずに2位となった。
それでも難しい曲調のなかで力強さもある集中した滑りはみごとだった。本人は一時、悲観的な発言もしたが、そのあとは自らの道を信じる意欲も見せている。
4回転トーループが2回転になるミスもあっただけに、4分の1の回転不足がなくなればフリーで200点を超え、合計300点を超えてくる実力を見せた。GPファイナルでそれを実現できるか、大きな見どころになる。【マリニンは4回転を増やす?】
宇野に立ちはだかってくるのが、スケートアメリカを310.47点で制しているイリア・マリニン(アメリカ)だ。4回転アクセルを含め、すべての種類の4回転ジャンプを跳べることで注目された。
だが、フリーを4回転6本の構成で臨んだ昨季世界選手権では、4回転2本のチャ・ジュンファン(韓国)に後れをとるなどし、マリニンは「4回転を増やすよりプログラムの完成度を高める必要がある」と発言した。
今季は冒頭のアクセルをトリプルに抑えて4回転は4本の構成としていて、スケートアメリカでその成果を見せた格好だ。
次のフランス杯は、小さなミスが出て2位にとどまったが、304.68点をマーク。SPで100点台に乗せる安定感が出てきたことが、300点台をコンスタントに出せるようになった要因だ。
GPファイナルは中4週開けた大会だけに、4回転を増やす可能性もある。宇野にとって強敵になることは、必至だ。
フランス杯でそのマリニンを破り、翌週の中国杯では宇野を破ったアダム・シャオ イム ファ(フランス)は、今季、驚くような進化を見せている。
2020−2021シーズンにシニアに移行した彼は、ジュニア時代の2019年には福岡で開催された世界国別対抗戦に出場していて、トリッキーな動きと勢いのある滑りで一部には注目されていた選手。だが、当時はジャンプのミスも多く上位に入ることはなかった。
しかし、昨季はフリーでサルコウとトーループ2本の4回転3本の構成をとり、フランス杯はノーミスで滑って自己最高の268.98点を出して優勝。ただ、NHK杯は5位にとどまり、昨季はGPファイナル進出を逃している。その後の大会も浮き沈みは大きかったが、SP、フリーともブノワ・リショー氏の振付けで独特な世界観を見せる魅力的な存在になっていた。
そしてシャオ イム ファは今季、4回転ルッツを習得したことで大きく進化した。エッジを正確にアウトサイドに乗せて跳び上がるジャンプで、フランス杯のSPでは、+3.78点というGOE(出来ばえ点)評価を受ける。さらに昨季まで冒頭にしていた4回転トーループ+3回転トーループを後半に入れる構成にしている。
そのSPの結果は、マリニンに0・51点差の2位。101.07点と100点台に乗せてきた。そしてフリーでは、4回転4本の構成をノーミスで滑り、マリニンに2.1点差をつける306.78点で逆転優勝を果たした。
勝因のひとつに、リショー氏の振付けが3シーズン目になるなか演技構成点を上げてきていることが挙げられる。フランス杯の逆転勝利も、フリーの演技構成点でマリニンを3点以上、上回ったからこその結果だった。
その翌週の中国杯にも出場すると、疲労があったのかSPは4回転トーループの転倒で宇野に14点以上差をつけられる発進だった。しかし、フリーをノーミスで滑って自己最高の207.17点を出す逆転勝利で、GPファイナルへトップ通過を決めた。ジャンプの確率を上げて安定感が増しただけでなく、合計も310点超えの可能性を見せる強力な選手に開花した。
宇野、マリニン、シャオ イム ファの3人が完璧な演技をすれば、310点前後のハイレベルな優勝争いを繰り広げることになるだろう。そんななか、鍵山も、その3選手にミスがあれば表彰台に食い込める勢いを取り戻してきている。
鍵山の武器は、GOE加点の高いジャンプと演技構成点の進化だ。NHK杯のSPでは4回転2本の完璧な滑りで、演技構成点は3項目すべてを9点台に乗せ、今季世界最高の105.51点をたたき出した。
ただ、フリーはケガからの復活途上ということもあって4回転は冒頭のサルコウと次の4回転トーループの2本のみ。基礎点が1.1倍になる演技後半のジャンプもトリプルアクセルと3回転ルッツ+2回転トーループ、3回転フリップと、本来の鍵山の実力からみればかなり抑えた構成になっている。
それでもNHK杯のフリーでは、後半のトリプルアクセルの転倒などの取りこぼしがなければ、プログラム全体の完成度もかなり高めていて、190点台後半に乗せられる可能性は大きい。
彼らに続くのは2回目のGPファイナル出場となる三浦佳生(オリエンタルバイオ/目黒日大高)だが、自己最高は281.53点ともう一歩の状態だ。今季のフィンランド大会はSPでシットスピンが0点になるミスをしながらも93.54点を出し、90点台後半に乗せられる可能性はある。
三浦のフリー自己最高は189.63点。今季のGPシリーズ2戦では冒頭に入れる予定だった4回転ループを回避していて、4回転4本の構成に挑戦してノーミスの滑りができれば、290点台後半も見えてくる。三浦は、宇野や鍵山に迫る足がかりをGPファイナルでつかんでおきたいところだ。
GPファイナル6位進出のケビン・エイモズ(フランス)は世界選手権4位の実績はあるが、4回転はトーループだけでフリーでも1本の構成で自己最高は282.97点。完成された演技を楽しみたい選手だ。
GPファイナル男子シングルは、12月7日にSP、9日にフリーが行なわれる。決戦は、まもなくだ。