反町康治JFA技術委員長インタビュー(後編)

◆反町康治・前編>>17歳の遠藤航をどう育てた?「デュエルの強さは教えたものではない」

 FIFAトップ20の国々で、日本、ブラジル、アルゼンチン、フランスの4カ国に共通点があるのをご存じだろうか。

 4つのカテゴリーによる直近の世界大会──2021年の東京オリンピック、2022年のカタールワールドカップ、2023年のU-17ワールドカップとU-20ワールドカップのすべてに、この4カ国は出場しているのだ。インドネシアで行なわれるU-17ワールドカップは11月10日開幕で、日本はアジアチャンピオンとして出場する。


反町康治が語るJFA技術委員長の仕事 photo by Sano Miki

 日本サッカー協会(JFA)の反町康治技術委員長が言う。

「FIFAランキングの20位以内では、トップ3のアルゼンチン、フランス、ブラジルと、18位の日本だけが、直近の世界大会にすべて出場している。20位以下では韓国もそう。

 日本の場合は2017年からすべてのカテゴリーの世界大会に出ていて、なおかつグループステージを突破してきた。残念ながら今年のU-20ワールドカップで、グループステージ突破は途切れてしまったのだけれど」

 U-20世代は2009年から2015年まで、4大会連続でアジア予選敗退を喫した。2015年はU-17世代もアジア予選敗退を喫し、育成年代に停滞感が漂った。しかし、2017年以降はアジアにおけるプレゼンスを取り戻している。

「朝起きたらいきなりチームが強くなっている、ということはない。これまで若年層や代表の強化に携わってきた方々が、いろいろな施策を打ってきた。

 アジアを超えて強化へ出ていき、課題を持ち帰って、また強化に生かす。それをずっとやってきて、世界大会に参加することが評価されていた時代から、ラウンド16入りが当たり前になってきた。

 ある一定のラインを超えてきた、という感触がある。超えて満足しているわけではなく、これからがもっと大事になってくる」

【早生まれの子どもがサッカーを辞めてしまう要因】

 ラウンド16の常連から世界のベスト8、ベスト4入りを現実的なターゲットとしていくために──。反町技術委員長は育成年代の強化のさらなる充実を進めている。

 まずは、選手の発掘だ。

「高校生年代に関して言えば、単一のクラブ、高体連、Jクラブのアカデミー、それから海外にいる選手にも情報網を広げている。現状はすごくアナログで、こういう情報が入ってきました、じゃあ見に行こう、といった感じ。

 そうではなくて、データベースをしっかり作ろうとしている。この選手はこのタイミングで呼んでいるから資料を見てみよう、映像をチェックしてみよう、ということがワンクリックでできるスキーム作りを急ぎたい」

 たとえば、12歳のタイミングで選考の網にかかった選手をデータ入力しておけば、その後の成長過程を追跡できることになる。ある時期を境にピックアップされなくなった選手がいれば、その原因を究明する手助けにもなるはずだ。

 才能を発掘するだけでなく、脱落させないことも重要だ。反町技術委員長は自身の経験を踏まえつつ、サッカーの価値を高めていこうとしている。

「たとえば、三笘薫の少年時代のプレー映像があれば、この時にこんなことをやっていたんだとか、これはできていなかったんだ、このタイミングで一気に成長してきたんだな、といったことがわかる。身体が小さい子どもさんに『これを見てごらん、キミだって三笘になれるよ』と言ったら、サッカーを辞めないかもしれない。

 早生まれの子どもは成長のタイミングが遅いから、それが理由で辞めちゃうことがあるんだ。俺自身も3月生まれで同級生より小さくて、うまくいかないから辞めてしまおうと思ったこともしばしばだった。そういうこともあり得るわけで、日本代表選手の幼少期の映像などを資料としてパッと見せれば、親御さんも子どもさんも、安心してもらえるかもしれない」

【コロンビアはミドル級で、日本はライト級だった】

 反町技術委員長がタレント・ディベロップメント・スキーム、通称「TDS」の構築の必要性を痛感したのは、昨冬のカタールワールドカップがきっかけだった。

 ドイツとスペインを破ったチームには、久保建英のように年代別の世界大会にすべて出場してきた選手がいれば、伊東純也のようにカタールワールドカップが初めての世界大会だった選手もいた。三笘薫もU-17やU-20のワールドカップには出場していない。

 カタールワールドカップを経て、日本代表の森保一監督は「ダブルチーム構想」を描く。同じ実力を持った選手を2チーム分保有したい、というものだ。

「誰が出ても同じぐらいの力を持っているチームをふたつ作るには、アンダーエイジのワールドカップから国際経験を積んだ選手を増やすことが必要になってくる。今やっとそういうふうになってきているけれど、伊東や三笘はU-17やU-20の代表に選ばれるレベルではなかったのか、それとも選手を選ぶ側に問題があったのかは、しっかりと検証していこうと思っている」

 パスウェイと呼ばれる選手の成長の道筋をつまびらかにすることで、日本代表の戦力をさらに充実したものにする。未来への種蒔きは、地道な作業の積み重ねだ。

 反町が技術委員長に就任した2020年3月は、新型コロナウイルス感染症がまさに世界を襲おうとしているタイミングだった。国際大会が相次いで延期や中止に追い込まれ、日本国内から海外への渡航や帰国後の行動に厳しい制限がかかった。

 今年6月のU-20ワールドカップに出場したU-20日本代表は、コロナによるパンデミックの影響を強く受けた世代である。国際的な強化が叶わなかった。

 反町技術委員長が静かにうなずく。

「渡航制限が緩和されてからは、海外での経験不足を取り戻そうと国際大会に参加したけれど、FIFAの公式戦とは相手の熱量がやはり違った、というのはある。日本にもうまいプレーヤーはたくさんいる。けれど、うまいだけでなく強くないといけない。

 今回(U-20ワールドカップ)のU-20日本代表は、プレーがドメスティックだったというか、力強さで見劣りした。ボクシングの階級で言うと、1-2で負けたコロンビアはミドル級で、日本はライト級だった」

【遠藤航や前田大然が反町監督から学んだこと】

 海外渡航に障壁がなくなった現在は、育成年代のチームが積極的に遠征を行なっている。一方で、国内の育成環境にも課題がある。

「コーンとか人形をピッチに立てた練習と、相手を入れた練習では、どちらが強度は高いか。崩しのパターンを作ったりするために、相手を入れない練習も必要かもしれない。

 でも、俺自身は常に相手を入れたメニューを組んでいた。それによって積み上がっていくものがあったから。海外へ行けばミドル級の選手と対戦できるけど、国内の練習で自分たちの階級を上げることも、決してできないわけではないと思う」

 反町技術委員長が監督を務めたアルビレックス新潟、湘南ベルマーレ、松本山雅FCは、タレントの質で対戦相手を凌駕するチームではなかった。とりわけ湘南と松本は、高強度の練習を土台とするハードワークを強みとした。湘南では遠藤航が、松本では前田大然が彼の薫陶を受け、国内でのステップアップを経て海外移籍を果たしている。

 1対1のバトルで勝つことができれば、ピッチ上で起こるさまざまな問題を個人で解決できるようになる。ドイツで言うところの「ツヴァイカンプフ(1対1)」を若年層から磨いていくことが、アンダーカテゴリーの世界大会での好成績へ結びつき、引いては日本代表の強化にもつながっていくのだ。

 2024年は、オリンピックイヤーだ。

 8大会連続の出場権獲得へ向けて、大岩剛監督が指揮するU-22日本代表は海外での強化試合を重ねてきた。11月18日のU-22アルゼンチン代表戦(静岡・日本平)が、国内初のテストマッチとなる。

「ここまでは目線を五輪本大会へ向けて、3月にドイツとベルギー、6月にイングランドとオランダ、10月にメキシコ、アメリカと試合をしてきた。11月にはアルゼンチンとやる。

 FIFAランクで日本よりも上の国々と試合を重ねて強化をしてきたわけだけれど、パリ五輪のアジア最終予選にあたるU-23アジアカップは来年4月で、直前の3月の試合をどうするか。ここは現実路線で、アジアの国とやるのも選択肢のひとつ。9月のU-23アジアカップ予選で、ちょっと苦労したところもあったので」

【パリ五輪に向けて大岩ジャパンをどう強化する?】

 アジアの国々との対戦を控えた日本は、アフリカ勢を対戦相手に選ぶこともある。中東相手のシミュレーションの位置づけだ。

「U-23アジアカップの上位3カ国が五輪の出場権を得て、4位はアフリカとの大陸間プレーオフにまわる。そこまで考えておくと、アフリカ勢とやることに意味がないわけではない。けれど、アフリカのチームが日本に来る場合は、チーム編成が計算できない。

 6月にU-16日本代表がU-16ナイジェリア代表と試合をしたけれど、6-1での勝利だった。そういう相手だと、試合をする意味が薄れてしまう。それならば、アジア最終予選に出場する国で、順当に勝ち上がったら決勝まで当たらないポット1のチームを中心に、交渉するのもひとつという話はしている」

 11月23日に行なわれるU-23アジアカップの組み合わせ抽選で「ポット1」となっているのは、開催国のカタール、サウジアラビア、ウズベキスタン、それに日本である。ポット2はオーストラリア、韓国、イラク、ベトナムだ。

「U-23アジアカップがカタールで行なわれるのに、サウジアラビアがわざわざ日本に来るはずがない。カタールもしかり。ウズベキスタンとは、このところ何度も試合をしている。我々の強化にはなりにくい。いずれにしても、組み合わせ抽選のあとに理想の対戦相手を見つけるのは難しいので、早い段階から動いてきたのは確かだ」

 大岩監督が率いるU-22日本代表には、多くの海外組が含まれている。これまでの活動はFIFAのインターナショナルウインドウと同時期に行なってきたため、欧州のクラブに所属する選手も招集できた。

 しかし、U-23アジアカップはアジア独自のスケジュールで行なわれる。選手の招集について聞かれると、反町技術委員長は「まだ何とも言えない」と厳しい表情を浮かべた。

「海外でプレーしている選手については、所属クラブとの話し合い次第になる。監督が呼びたいと考える選手については、もちろんそうなるように動く。Jリーグもリーグ戦の期間中なので『1チーム何人まで』という人数制限を設けることになると思う。とにかく現場の意向に沿うように必死に調整する、ということだ」

【日本サッカーの未来は10年後、20年後を想像して】

 また、日本代表との兼ね合いもある。森保一監督は10月の活動に、パリ五輪世代のGK鈴木彩艶(シント・トロイデン)を招集した。DF半田陸(ガンバ大阪)、DFバングーナガンデ佳史扶(FC東京)、MF川粼颯大(京都サンガ)らも、過去に招集されている。

「一般論として」と前置きをして、反町技術委員長が語る。

「鈴木彩艶が日本代表としてアジアカップに出場して、4月のU-23アジアカップにも出場できるかどうか。4月のベルギーリーグはプレーオフの時期にあたり、シント・トロイデンとしても簡単には出しにくい、と考えるのが普通だ。パリ五輪世代の海外組をどちらに招集するのかについては、JFAのなかでも決めていかなければいけないところがある」

 Jクラブ入団1年目や大学進学1年目の選手の出場機会を、どうやって増やすのか。2019年を最後にユニバーシアード大会からサッカー競技がなくなった大学生年代の強化を、いかにして充実させていくか。技術委員会が取り組む課題は多岐にわたる。

「10年後、20年後を想像しながら、目の前の課題に取り組み、大会で結果を残す。その積み重ねが、日本サッカーの未来を作っていくと信じている」

 11月10日開幕のU-17ワールドカップで、日本はどこまで勝ち上がることができるか。どんな成果をあげ、どんな課題が浮かび上がるのか。

 インドネシアでの戦いが、2026年や2030年のワールドカップにつながっていく。

<了/文中敬称略>


【profile】
反町康治(そりまち・やすはる)
1964年3月8日生まれ、埼玉県さいたま市出身。清水東高→慶應大を経て全日空に入社。横浜フリューゲルス誕生後も社員選手として続けるも、1994年にベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)へ移籍した際にプロ契約を結ぶ。1997年に現役引退。2001年〜2005年はアルビレックス新潟監督、2006年〜2008年は北京五輪世代のアンダー日本代表監督、2009年〜2011年は湘南ベルマーレ監督、2012年〜2019年は松本山雅FC監督。2020年3月に日本サッカー協会・技術委員長に就任。日本代表4試合0得点。ポジション=MF。身長173cm。