ミャンマー戦(16日)、シリア戦(21日)を戦う日本代表メンバー26人が以下のとおり発表された。

GK
前川黛也(ヴィッセル神戸)、大迫敬介(サンフレッチェ広島)、鈴木彩艶(シント・トロイデン)

DF
谷口彰悟(アル・ラーヤン)、中山雄太(ハダースフィールド)、町田浩樹(ユニオン・サン・ジロワーズ)、毎熊晟矢(セレッソ大阪)、冨安健洋(アーセナル)、伊藤洋輝(シュツットガルト)、菅原由勢(AZ)

MF/FW
遠藤航(リバプール)、伊東純也(ランス)、浅野拓磨(ボーフム)、南野拓実(モナコ)、古橋亨梧(セルティック)、守田英正(スポルティング)、川辺駿(スタンダール・リエージュ)、鎌田大地(ラツィオ)、相馬勇紀(カサピア)、三笘薫(ブライトン)、前田大然(セルティック)、堂安律(フライブルク)、伊藤敦樹(浦和レッズ)、上田綺世(フェイエノールト)、田中碧(デュッセルドルフ)、久保建英(レアル・ソシエダ)


ミャンマー戦、シリア戦のメンバーを発表する森保一監督 photo by Fujita Masato

 前回(10月のカナダ戦、チュニジア戦)メンバーから、故障の旗手怜央(セルティック)、板倉滉(ボルシアMG)、橋岡大樹(シント・トロイデン)らが外れる一方で、体調不良などを理由に招集外となった三笘、堂安、鎌田、前田らが復帰。森保一監督率いる日本代表は、W杯アジア2次予選にオールスターキャスト同然の豪華メンバーで臨むことになった。

 それは日本サッカーの競技団体が、時代の流れに逆行する非先進的な組織に成り下がった瞬間に立ち会ったかのようであった。

 想起するのは、いまから30年前だ。従来の日本スポーツ界にはない理念を掲げて開幕したJリーグの現場に、筆者は少しばかり胸を張るような誇らしい気持ちで足を運んだ記憶がある。

 その時と現在の心境は真逆だ。世の中に対して恥ずかしく思う。日本サッカーのイメージダウンにもつながるような選択を、森保監督並びにサッカー協会はした。「中継ぎといえども3連投はさせない」など、野球のイメージを刷新する今日的な采配を見せた中嶋聡オリックス監督の姿勢とはえらい違いである。

 なによりSDGsの精神から逸脱している。持続可能ではない招集だと言える。日本人選手の質がいまと同じペースで向上すれば、近い将来、決定的な限界が訪れることは見えている。W杯8強という限界だ。W杯アジア2次予選に、欧州のカップ戦を戦うエリートたちを送り込むことへの異常さは、この先、加速度的に目立っていくだろう。日本サッカー界には、招集の概念を早急に変更することが求められている。

【この強行軍で選手が調子を落とせば...】

 メンバー発表会見の冒頭から、それについての質問が出たにもかかわらず、森保監督は関係のない話をした。問題意識の欠片もなく、誠実とは言い難かった。次の質問者が、似たような質問をかぶせるように聞くと、ようやく「いろいろ考えた末の判断である」と口にしたが、到底納得できる受け答えではなかった。

 口を突いて出たのは、アジア2次予選を戦う大変さだった。

「ミャンマーには前回(2022年カタールW杯アジア2次予選)、国内では10点差で勝ったがアウェーでは2点しか取れなかった」

 それを大変と言えば、世の中のたいていの出来事は大変だ。残る2カ国(シリア、北朝鮮)も、同様に「難しい相手だ」と森保監督は続けたが、日本がこのなかに入って3着に沈む可能性はどれほどあるというのか。もしここで敗退したら、日本代表は2年間ぐらい活動を停止し、謹慎したほうがいい。

 森保監督はザックジャパン時代の3次予選を引き合いに出し「あの時は確か2敗している」と述べている(敗れた相手は北朝鮮、ウズベキスタン)。だがその2011年当時、日本人の海外組はわずか数人に限られていた。26人中22人、フィールドプレーヤー23人中21人が海外組で占められる現在とは、さらに言うならば欧州カップ戦を戦う海外組が14人を数える現在とは、状況が決定的に違う。

 欧州のカップ戦を戦う選手をアジア2次予選に招集することの是非を問うているにもかかわらず、論理をすり替えて10数年前の昔話を引き合いに出し、「大変だ」と言う。"ご飯論法"と言われる国会答弁を聞かされているかのようだ。記者会見という限られた時間で、質問に簡潔に答えようとする姿勢にも欠けていた。

 残念である。これを聞いた選手はどう思うか。森保監督に全幅の信頼を寄せることができるか。この強行軍が原因で調子を崩せば、次に呼ばれる可能性は減る。代表監督と選手の関係はまさに強者対弱者である。弱者の信頼を得たいならば、強者は丁寧に説明する必要がある。森保監督は、記者会見に集まった記者たちを代表候補選手に見立てて話す必要があったのではないか。

 W杯出場アジア枠は今回、4.5から8.5にほぼ倍増した。ミャンマー、シリア、北朝鮮と戦う2次予選で2位以内に入り、最終的に8.5番目までに入る可能性はどれほどか。繰り返すが、落選の可能性はほぼ皆無だ。実力と枠の関係を見れば、日本は世界で最も緩い環境に身を置いていると断言できる。

【仕事の分担が明確でないサッカー協会】

 森保監督は世界で最もゆとりがある監督なのである。この現実とどう向き合うかについて議論しようとしているにもかかわらず、森保監督は「大変だ」と言って、建設的な議論を避けようとする。

 ただし前にも述べたが、これは森保監督の問題というより日本サッカー協会の問題だ。海外組の増加とそれに伴う代表強化の関係を、これからどうしていくべきかを語るのは会長あるいは技術委員長の仕事である。この日の会見で森保監督の傍らに座っていた山本昌邦ナショナルチームダイレクターも例外ではない。そのあたりの仕事分担が、いまの協会はまるで明確でない。

 カタールW杯が終わった後、森保監督の続投会見で、その傍らに鎮座していた反町康治技術委員長はなぜいないのか。なぜ代わって山本昌邦氏が登場したのか。森保監督との仕事分担や職務権限はどうなっているのか。日本サッカーに大きな転換期が訪れているにもかかわらず、協会組織は不透明な状態にある。

 選手はそれに翻弄されている。8.5枠という世界一甘いW杯予選の環境。代表選手の9割近くが海外組という現実。さらに本場欧州と極東の国、日本との距離を加味すれば、代表チームは強化の概念を少なからず変更する必要がある。欧州組の選手、あるいは欧州でプレーした経験のある選手もそう考えているはずだ。

 問われているのは、4年に1度のW杯本大会に向けて、"ベストメンバー度"をどう高めていくかだ。外国にはサンプルがいくらでもある。対戦相手のレベルに応じ、それに相応しいメンバーで臨む。強者相手には全力で立ち向かうが、弱者相手には実験色を強めたメンバーで臨む。強豪チームはなかなかベストメンバーを編成しようとしない。その必然性が低い試合が多いからだ。

 予選しかり。森保ジャパンは前回のアジア2次予選でミャンマー、モンゴル相手にホームでそれぞれ10−0、14−0の勝利を収めている。ともに、オールスターキャストで臨んでいるが、欧州の強国はそのような真似はしない。

"ベストメンバー度"を下げて臨む。それにより、ごく稀に番狂わせを許すことがある。予選落ちする可能性もゼロではない。だが、そのやり方を変えようとしないのは、W杯本大会で上位を狙うなら、それがベストな選択だという確信があるからだ。

 その覚悟、割り切りを日本はまだ持つことができない。相手を毎度、過度に怖がり、絶対に負けられないとばかりオールスターキャストで臨む。一戦必勝の甲子園スタイルでW杯ベスト8以上を狙おうとしている。「2050年までに優勝する」と言うが、その方法論では無理だ。早晩、何らかの形で限界が来る。

 前回のホーム戦で10−0の勝利を収めた相手に、アウェーでは0−2だったことを引き合いに出し、オールスターキャストを編成する日本代表監督。このノリに付き合わされる選手に思わず同情したくなる。気がつけば日本のサッカー界は、考え方が前時代的になってしまったものだ。この30年で、成績は出るようになったが、それと引き替えに大切なものを失ったようでさえある。残念だ。