SNS時代「誰でも起こる誹謗中傷」、どう対処する?
音楽家、プロデューサーのつんく♂さんと、起業家、投資家として知られるけんすうさん。「人生に迷っている」人たちへエールを送る対談、第5回最終回(撮影:梅谷秀司)
音楽家、プロデューサーのつんく♂さん、起業家、投資家として知られるけんすうさん。
2023年9月、つんく♂さんが『凡人が天才に勝つ方法 自分の中の「眠れる才能」を見つけ、劇的に伸ばす45の黄金ルール』、けんすうさんが『物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術』をそれぞれ刊行。互いに話題のベストセラーになっている。
お互いの著書を読んで意気投合し、「やりたいことがわからない」「人生に迷っている」人たちへエールを送る。第5回最終回。
1回目:『会社員でも「プロ意識」全然ない人、ある人の大差』
2回目:『「"やりたいこと"わからない病」処方箋は"これ"だ」』
3回目:『できる人が「完璧」より「とりあえず完成」目指す訳』
4回目:『「スキルだけで食えない時代」"磨くべき能力"は?』
ネットの誹謗中傷にあったら、どうとらえるか?
つんく♂:けんすうさんはネットが主戦場みたいなところがあるけど、ときには批判されたりすることもあると思います。そういうときの心構えみたいなものって、ありますか?
けんすう:以前読んだつんく♂さんの本に「何か引っかかりがないとダメだ」みたいなことが書いてあったんです。
モーニング娘。のメンバーでも「完璧じゃなくて、引っかかりのある子じゃないと売れない」とつんく♂さんはおっしゃっていました。僕はこのことをずっと大事にしているんです。
つんく♂:あら。どういうことだろ?
けんすう:つまり、人って何か心に「引っかかり」があるからこそ、褒めたり、けなしたりすると思うんです。
よく「無視されたりリアクションがないことより、悪口のほうがまし」と言われますが、僕は「微妙な褒め」のほうが最悪だと思っています。
つんく♂1992年に「シャ乱Q」でメジャーデビューしミリオンセラーを記録。その後は「モーニング娘。」をプロデュースし大ヒット。代表曲『LOVEマシーン』は176万枚以上のセールスを記録。国民的エンターテインメントプロデューサーとして幅広く活躍中(撮影:梅谷秀司)
けんすう:何となく褒める人って、なぜか固有名詞を間違えるという法則が僕の中にあって(笑)。つまり、熱がないんです。
いかに熱量を引き出すかが重要であって、それがポジティブ(褒め)かネガティブ(悪口)かはあまり関係ないと思うんです。
つんく♂:たしかに、何事にも熱量は大事ですね。
大切なのは「熱量」があるかどうか
けんすう:僕は以前、匿名掲示板を運営していたんですが、名前などの個人情報はわからなくても、同じ人が書いているかどうかは、管理者にはわかってしまうんです。
そこでわかったのが、「熱狂的なアンチ」の人って、突然「熱狂的なファン」に変わる率がすごく高いということ。
もう「何があったの?」っていうくらい変わります。逆に熱狂的なファンが、ささいなことで裏切られたと感じてアンチに変わることもありますが。
つんく♂:アンチもファンも、掲示板に書き込むくらいの熱量をもって注目しているってことですよね。
けんすう:つんく♂さんは悪口とか、僕の比じゃないくらいあると思うんですけど……。
つんく♂:モーニング娘。のメンバーを増やすときは、めちゃくちゃ怖かったです。
モーニング娘。の追加メンバーに非難囂々
つんく♂:いまでこそ増えようが減ろうが「はいはい」って感じだけど。
それまでのアイドルって、それこそキャンディーズのように「メンバーが変わるくらいなら、解散して普通の女の子に戻ります」というのが美学であり、世間の正義もそこにあった。
だから、メンバーを増やすときの世間からの攻撃は半端なかったです。正直、あれは本当に怖かった……。
けんすう(古川健介)10代の頃からインターネットの面白さを体感し、「ミルクカフェ」「したらば」「nanapi」など、次々に新たなインターネットサービスを生み出す。現在はNFTの提供やクリエイター向けサービスを運営。投資家としても活動している(撮影:梅谷秀司)
けんすう:リアルタイムで見ていた僕も「え? 増えるの?」って思いましたから(笑)。
いまでは当たり前になりましたが、当時は画期的でしたよね。ファン目線ではさぞかしショックだったでしょう。
つんく♂:もちろん、決定は僕だけじゃなく、レコード会社やプロダクションという背景や大人の事情もあるわけですが、それが見えない時代だったし、見せていませんでしたから。
そうなれば、批判の的はすべてつんく♂になる。
当時もネットの書き込みもちらほらと見ていたけど、あまりの炎上ぶりに、「あ、無理」ってなって、あるときPCをパタンと閉じて、しばらく見るのをやめました。
けんすう:古い話になりますが、当時は2ちゃんねるに、モーニング娘。の(羊)板と(狼)板と、2つ板があったんですよね。
固有名詞で掲示板の板がつくられるのも異例なのに、羊と狼で雰囲気を変えないとまとまらないほどの熱狂でした。
アイドルグループについて、ファンが真剣に議論するって、新しい文化だったし、やっぱりレジェンドだと思います。
「悪口のベクトル」や「ファンの目線の変化」を実感
つんく♂:たしかに、ファンがあそこまで議論してくれるアイドルは初めてだったかもしれません。しかも、当時はガラケーメインで、PCでインターネットをしている人のほうが少数派だった時代じゃないかな?
けんすう:2000年頃はそうでしたね。でも、当時PCを触るような知的好奇心の高い人たちがアイドルについて真剣に議論していたわけで、つんく♂さんはそういう時代をつくった人なんですよ。
つんく♂:たしかに、当時は「日本の掲示板とネット環境はモーニング娘。が育てた!」くらいに思っていたもんな(笑)。
でも、いまはAKB48はじめいろいろなグループが出てきてくれたおかげで、「悪口のベクトル」が変わったんです。
以前は「つんく♂ VS.モーニング娘。(のファン)」の構図で、つんく♂とメンバー+ファンの戦いみたいな感じだったけど、だんだん「ハロー!プロジェクト VS. AKBグループ」みたいな構図になって、僕が矢面に立つことも減りました。
同時に、ファンも「批判する目線」から「みんなで頑張ろう」みたいな盛り上がりに変わっていったわけです。
けんすう:なるほど、「相対的なライバル」が出てきたことで、「ファンの目線」も変わったわけですね。それって、5期とか6期あたりの話ですか?
つんく♂:もう少しあと、7期以降かなあ。あの辺りが一番の転換期だったかもしれないですね。
けんすう:最近、つんく♂さんがSNSで傷ついたことって、ありますか?
SNSで身近に感じるからこそ起こる、心ないコメント
つんく♂:というより、僕自身、最近はSNSへの投稿内容がふんわりしてきているように思います。
僕はいまハワイに住んでいますが、できるだけ自慢話になりそうなことは、日常の一場面であってもアップするのを躊躇するようになりました。
たとえば、一杯15ドル(約2200円)のラーメンを食べてSNSにアップしたら「いいよなー。つんく♂はこんな高いの食べられて。僕らじゃ無理だし」ってなるやん? もちろん突っ込みたい方の気持ちもよくわかる。
そうなってくると、だんだん何も書けなくなって、それこそ途中まで書いて、というか、ほぼ書き上げて、結果、送信ボタンを押せないことも多々あります(笑)。
けんすう:高級レストランの食事をアップするとたたかれるみたいな現象ですよね。
そういう意味では、SNSが普及して、「目線」を気にする人が増えた印象はあります。その人の「中身」よりも「どこに目線があるか」をみんな気にしている感じ。同じ目線なら共感するけど、そうでなければ共感できないというような。
その人の発言内容に賛成か反対かよりも、SNSでは「共感できるかどうか」のほうが大事なのかもしれませんね。
つんく♂:ビジネスの機内食とか高級フレンチをアップされたら、裏切られたみたいな感覚かな。話題のインフルエンサーならOKで、俺や秋元(康)さんがやるとなぜかアウト!ってやつですね。(笑)。
けんすう:つんく♂さんがエコノミークラスに乗っていたら、おかしな話ですけどね。でも、それはみんながつんく♂さんを身近に感じているからこそでしょうね。SNSをやっていると、いつのまにか距離が近くなっちゃうというか。
つんく♂:最後に聞きたいのですが、けんすうさんは起業家、経営者としてすでに成功を収めていますよね。仕事へのモチベーションって、どのあたりにあるんですか?
けんすう:僕の場合はお金を稼ぐことより、仕事を頑張らないと友達がいなくなるみたいな不安が大きいかもしれません(笑)。
自分が頑張っていれば、周りの人たちとお互いに情報交換して刺激的な話もできるけど、何もしなくなったら、会話がなくなっちゃうからつまらない。それが仕事のモチベーションのようなものになっているというのが、最近の自己分析です。
仕事の目的は「お金」だけじゃない
つんく♂:いわゆるお金持ちになると、宣伝費をかけても自分の知名度を上げてもっと有名になりたいタイプと、港区あたりで派手に飲み歩くタイプがあると思うけど、どちらでもないですよね。
けんすう:個人的にそういうのは楽しくなさそうと感じてしまうんです。
僕はエンジェル投資家としてスタートアップへの投資もしていますが、これも友達づくりだと思っています。出資しているから連絡しても仲良くしてくれるだろうみたいな(笑)。
それに、お金にこだわりすぎないと、結果がともなわなくても、そんなに落ち込まないみたいな部分もありますね。
とはいえ、「挑戦しつづけていないとダメだ」という感覚はつねにあります。たとえば2年とか働かないでいると、働けなくなってしまう気がして。
つんく♂:やっぱり、仕事をしていないと楽しくないんですよね。それは僕も同じです。
けんすう:本当にそうですね。でも、せっかく仕事をするからには「なりたい自分」や「プロ中のプロ」を目指してほしい。
つんく♂:それが、僕らがみなさんに伝えたいことですね。
1回目:『会社員でも「プロ意識」全然ない人、ある人の大差』
2回目:『「"やりたいこと"わからない病」処方箋は"これ"だ」』
3回目:『できる人が「完璧」より「とりあえず完成」目指す訳』
4回目:『「スキルだけで食えない時代」"磨くべき能力"は?』
(つんく♂ : 総合エンターテインメントプロデューサー)
(けんすう : 起業家、投資家)