ANAHDはスカイマークの大株主となっている(撮影:尾形文繁)

航空業界に衝撃が走っている。

11月7日、鈴与ホールディングス(HD)が中堅航空会社・スカイマークの株式を取得すると発表されたのだ。2015年にスカイマークが経営破綻して以来、同社の再建を支援してきた投資ファンド、インテグラルが保有する株式の一部を鈴与HDに譲渡する。

鈴与HDは11月14日にスカイマーク株式を13%取得し、筆頭株主になる予定。取得価格は70億円以上になると見込まれている。インテグラルの保有比率は20.3%から7%程度に低下する見込みだ。

鈴与は静岡県に本拠を置く企業グループ。1801年に回船問屋として創業し、中核の物流事業を中心に建設、食品、情報など幅広く事業を展開している。トップは代々、「鈴木与平」を襲名し、現在の会長は8代目になる。清水(静岡市)では知らぬ者がいない、地元の親分的な存在だ。

グループには東海地場のフジドリームエアラインズ

株式売却そのものにサプライズはない。スカイマークは2022年12月に東証グロース市場へ株式を再上場した。インテグラルがスカイマークの株式を50.1%保有していたが、再上場によって保有比率は低下していた。

株式を自由に売却できないロックアップ期間が2023年6月に終わり、インテグラルは株式売却に向けた動きを加速化している。10月19日にはオンライン旅行予約サイト大手の「エアトリ」に3.2%の株式を譲渡していた。

他方、今回の株式譲渡先が鈴与HDだったことについて、業界に衝撃が走っている。というのも、同社グループには静岡空港や県営名古屋空港などを拠点として地方空港を結ぶ中堅航空会社、フジドリームエアラインズ(以下、FDA)があるからだ。FDAはJALとコードシェアをしている。

スカイマークは航空業界の「第三極」を自称しているが、同社の大株主には航空大手のANAホールディングスが名を連ね、12.9%の株式を保有している。ANAHDからすると、最大のライバル企業・JALと連携する航空会社グループがスカイマークの大株主に加わる形となる。

そのため、FDAの関係者さえも「(今回のスカイマーク株取得は)寝耳に水だった」と驚く。「鈴与会長の鈴木与平氏が強く関わっているのではないか」というのが、鈴与をよく知る関係者共通の見立てだ。

これまでスカイマークを巡っては、大株主であるインテグラルとANAHDが経営の主導権を握ってきた。今後はその主導権がJALと連携する鈴与グループとANAHDに移ることが予想される。

スカイマークとの連携発展の可能性も


フジドリームエアラインズは静岡空港の開港に合わせ、2008年に鈴与の出資で設立された(撮影:尾形文繁)

ここで気になるのが、鈴与HDがスカイマークの株式を取得した狙いだ。インテグラルは11月7日のリリースで「スカイマークにとってメリットのある事業連携の検討による事業価値向上が期待されます」と発表している。

だが、その事業連携の具体的な中身については明かされていない。スカイマークからは、「航空事業者である鈴与が株主となることについては安心感がある一方、株式取得の意図はわからない」という声が聞こえる。

FDAの事情に詳しい業界関係者は、「地方路線中心のFDAと羽田発着国内線が強いスカイマークは路線が被らない。今後、コードシェアなどでFDAとスカイマークの連携に発展する可能性もある」と見る。

こうした事業連携を進めるに当たって、カギを握る存在になりそうなのが、日本政策投資銀行(DBJ)だ。現在スカイマークの株式を10.5%保有する第3位株主・UDSエアライン投資事業組合は、DBJと三井住友銀行による共同出資。スカイマークの取締役にもDBJ出身者がいる。

またDBJは、鈴与HDとANAHDとの関係も深い。もともとDBJはANAHDとともに、エア・ドゥ、ソラシドエアといった地方を地盤とする中堅航空会社へ出資をしてきた。他方、鈴与については、DBJの優良取引先。FDAなど鈴与グループには同行OBが在籍している。

調整役として立ち回ることになるDBJ

「(株式譲渡後に)対立が生まれないよう、調整役としてDBJは立ち回ることになるだろう。DBJ出身者がスカイマークの次期社長候補になる可能性もあるのではないか」と事情に詳しい関係者は指摘する。

今後のスカイマークの経営はどこに向かうのか。注目されるのは、現在、スカイマークに在籍するインテグラル出身の西岡成浩代表取締役専務と山本礼二郎会長の行方だ。

インテグラルの出資比率低下後、鈴与、ANA、DBJのうち、どの関係者が主要ポストを握るか。そこでスカイマークを巡る、新たな力関係が見えてくるだろう。

(星出 遼平 : 東洋経済 記者)